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四の巻 パンの国王子らい⑥

 恋敵と思われるティラミスを前に、ライ、少々身震いをしているのは、気のせいでしょうか。

 「お前の化けの皮を、おらがいつか剥がしてやるばい」

 「それはそれは、勇ましい限りでございます」

 「バカにしちょるばいか?」

 「滅相もございません。わたくしめは一介の嘱託教師。あなた様の健やかなる成長をただただ、祈るばかりでございます」

 丁重に言われ、ライはムッとしながらティラミスを睨みます。

 「おら、ここまでくる間にいろんな話を耳にしたばい。良からぬ連中が、このお菓子の国を乗っ取ろうと、企んでいるそうじゃないか」

 ティラミスが眉をピクリとさせます。

 それを見たライは、勝ち誇ったように言い繋ぎます。 

 「何じゃ、顔色が変わっておるばい」

 「それは一大事。担任の先生、いや、校長先生にはちゃんと言ってあるんでしょうね」

 肩を掴まれ、ぶんぶんと揺さぶられたライは、慌ててティラミスの手を振り払います。

 「止めんか。おお気持ち悪。コラ何をするんじゃい」

 「申し訳ございません。つい力が入ってしまいました」

 「何じゃお主、本当に何も知らんのか」

 「もしよろしければ、詳しいお話を。幸い、ここには美味しい茶菓子がございます」

 色とりどりの何とも不思議な食べ物に、ライは目を瞠ります。

 「さ、おひとつ」

 今まで見たことがない果実を手に取らされ、ライは鼻をクンクン言わせます。

 「遠慮はいりません。ワタクシメも一つ」

 プルンとした実を口に放り込んだティラミスが、ニカッと歯を見せます。

 「何じゃい、その顔は?」

 「美味しくて、ほっぺが落ちてしまいました。ほら早く」

 「おらは騙されんぞ」

 「そうですか、ではワタクシメはもう一つ」

 両手で頬を挟み絶賛するティラミスを見て、ライはうずうずします。

 「本当に食べないんですか? 美味しいですよ」

 甘い香りが鼻の下を通過し、ティラミスの口の中へと消えて行きます。

 とうとう我慢が出来なくなったライが、パクリ。もう一つパクリ。パクパクパクリと立てつづけに身を放り込み、うっとりとした顔でティラミスを見ます。

 「少々、子供にはきつかったかな?」

 「誰が子供じゃい」

 ろれつが回っていないライを見て、ティラミスがしたりとほほ笑みます。

 「さ、詳しい話、聞かせてもらいましょうか」

 

 そんなことが、保健室で起こっているとは、露とも知らないスポンジ姫、ティラミスのことを考えれば考えるほど、腹が立って仕方がありません。

 ジェラートもないかを察知したのか、何も話し掛けて来ません。

 予鈴が鳴り、ライがフラフラと教室に戻って来ました。

 どこか様子がおかしいライに、誰も気が付きません。

 ガチャンと大きな音がして、一斉にみんなが振り返ります。

 廊下で遊んでいたプリンが、机の角にぶつかって、グミの筆箱を落としてしまったのです。

 「もう、だから男子は嫌い」

 くねくねと腰を動かしながら、グミが起こります。

 そんなことを言われても、プリンは笑ってばかりで、全然拾おうとしません。

 「ちょっと。拾いなさいよ」

 「ギャハハハ」

 にぎにぎしい教室の雑音に紛れて、正気を取り戻したライがスポンジ姫にそっと呟きます。

 「スポンジ姫、あなた様のことは、おらが命をかけてお守りするばい。心配は要らぬ」

 小戸板た顔をするスポンジ姫に、ライは胸を張ります。

 「ちょっと何を仰っているのか、わたくしには」

 「分からんでも良い。これだけは覚えておくばい。おらが何が何でもスポンジ姫様をお守りするばい」

 「冗談はお止しになって」

 「何がじゃ。オラはこの国のお姫であるあなた様を心から愛し、命を掛けてお守りすることを誓ったんじゃ。それに一点の曇りもねぇ」

 「止めて止めて」

 スポンジ姫は慌てて辺りを見回します。

 グミがムキになって文句を言い、それにクラス中のみんなが野次を飛ばし、大騒ぎをしていました。

 聞かれている心配はないようです。

 しかしです。

 身が凍る思いで、スポンジ姫はライを見ました。 

 どうして昨日今日、この町へやって来たばかりのライが、スポンジ姫の正体を知っているのでしょう。この事態を報告するべきティラミスの姿は、どこにもありません。

 「皆さんお待たせしました」

 その声に誰も気が付きません。

 笛が勢いよく吹かれ、教室が一気に静まります。

 「さ、授業を変更します。みなさん、着替えて校庭に集合してください」

 スポンジ姫だけではありません。クラスのみんなが口をあんぐりです。

 「まじ」

 シュークリームの呟きも女子たちの黄色い声も、スポンジ姫の耳には届いていません。

 ジェラートは、あまりの格好の良さに、もう倒れる寸前です。

 「おっせーよ」

 校庭で待っていたベイクドが口を尖らせ、ビターチョコと戻って来て、文句を言います。

 「すまんすまん。メガネを壊してしまって、慌てて家へコンタクトレンズを取りに帰っていたらこんな時間になってしまって」

 「先生、それって、なんだか恋人との待ち合わせに、遅れてしまった言い訳みたい」

 クレープに冷やかされ、ティラミスが苦笑いをします。

 「先生、良いから早く授業を始めてください」

 珍しくミントが、怒った口調で言います。

 

 それも無理はありません。女子のほとんどが、目をハートにしてしまっているのです。あのマドレーヌさえ、うっとりした目で話を聞いているのです。 

 

 

 

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