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四の巻 パンの国王子ライ①

 待ちに待った放課後です。いつまでも残っている生徒たちが、こそって帰って行く姿を職員室のベランダからモンブラン先生が、眉間に皺を寄せて見ています。

 先頭を切って歩くのは、珍しくロール姉妹です。その後にゼリーとグミが続き、シュークリームまでがその中に交っているではありませんか。スポンジが少し離れて、ミントとマドレーヌが、何かを話しかけています。クッキーとキャンディは鼻歌を歌っているようです。

 「モンブラン先生」

 ミルフィーユ校長に呼ばれ、モンブラン先生が中へ戻って行きます。


 さてさて御一行様は、まるでピクニック気分です。

 マカロンやマシュマロも一緒です。チュロスは、無理やり連れてこられた口で、キャラメル兄弟とクレープはじゃれ合い、プリンは本片手について行きます。

 「俺はいいや」と言って付いて来なかったのは、ビターチョコです。

 クラスの大半が神秘の森を抜け、清らの泉に着く頃には、陽がだいぶ傾いてしまっていました。

 なんとも言えずかぐわしい臭いに、うっとりした顔をしたクッキーが、ここにいるのね。と呟きます。

 マドレーヌも目をうっとりさせています。鼻を抓んで臭がるのは、マカロンンとマシュマロです。

 キラキラと湖面が琥珀色に輝き、キャラメル兄弟が指で、波紋を作らせて遊んでいます。


 「ええい。どうしたそんな大勢で」

 ドスの効いた声に、肩をびくつかせたプリンが言います。

 「こんにちは。パンドさん。ここに新入りさんが来たとらしいと聞いて、みんなであいさつに来ました」

 「それはご丁寧なこった」

 ギロリと睨まれ縮み上がって、後ろに下がります。

 「今日はいねぇ。明日にはお前らの学校に挨拶に行くと言っていたから、もうすぐ陽が沈む。とっとと家に帰りやがれ」

 どやされた一行は、蜘蛛の子を散らすように家路へと散って行きます。

 

 浮かない顔をしたスポンジ姫だけが、急ぐこともなく、散って行く仲間を見ながらとぼとぼと歩いて行きます。

 目の前を木馬に乗った青年がやって来るのが見え、スポンジ姫は辺りを見回し首を傾げます。

 タイミング悪すぎです。キャンディが小さく見えていますが、大きな声を出す気にもなれず、スポンジ姫は木馬の青年の前を黙ったまま通り過ぎようとした時です。

 「もし」

 呼び止められ、スポンジ姫は顔を顰め振り返ります。

 「やはりそうだ。あなた様はスポンジ姫でおられますね」

 木馬から降りた青年が立膝で屈むと、凝視するスポンジ姫の右手を取り、口づけの真似事をしてみせる。

 「わたくし、パンの国から参りましたライと申します。是非、姫との結婚を認めていただきたく、はるばる参った次第でございます」

 「ライ。そんなところで何をしている?」

 「叔父上。この方が」

 眉間に皺を寄せたパンドが、スポンジ姫をじっと見ます。

 パンドが口を開きかけたその時です。

 遠くから馬の蹄が聞こえ、一同が目を瞬かせ、そちらの方に目を向けます。

 白馬から飛び降りたティラミスが、スポンジ姫を見つけるなり、頬を打ちます。

 「このバカ娘。こんな遅くまで何をしている。心配かけやがって。今日は罰として夕飯は抜きだ」

 「お主は何者」

 ライが、腰に挿してあった剣を抜こうと構えています。

 「お主こそ誰だ」

 目を座らせたティラミスを見て、ライが後退りをし、わ、わたくしはパンの国の王子。ライ。と小声で答えます。

 「お主が? 王子という証拠は?」

 「パンドが」

 振り向くライは、目を見張らせました。

 さっきまで立っていたはずの、パンドの姿がどこにもありません。

 「金輪際、この娘には近づかないでいただきたい」

 「そんな事を言われても」

 「近づかないでいただきたい」

 ギロリと睨まれたライは、これ以上小さくなれないというくらい縮こまり、はい。と小さな声で答えました。

 「分かってくれたなら、それでよろしい。さぁ、帰るぞ」

 スポンジ姫を馬に乗せ、ティラミスは鞭を入れます。

 「お主は、その子のなんなんだ」

 ライの問いかけに、ためらうことなくティラミスが答えます。

 「ご覧の通り、ナイトだよ」

 スポンジは、ティラミスの背中にしがみつきながら、頬を染めます。

 とっくり神秘の森に陽が沈み、カステラおばさんの家に着く頃には星がちらちら見え始めていました。

 家の前で、スポンジ姫を降ろしたティラミスは、黙ったまま何も言ってはくれません。

 「言いたいことがあるなら、きちんと言えばいいじゃない」

 ギロリとティラミスが睨みます。

 「ご自分の御身分をわきまえていただきたい。あなた様に何かあったらワタクシメは王様や王妃様に何と、申し訳し分をしたらよいのでしょ。よそ者は危険でございます」

 「あなたこそ何よ。ジェラードにうっとりされて、鼻の下なんか伸ばしちゃって」

 スポンジ姫の叫び声も虚しく、ティラミスは立ち去って行くのでした。

 本当にこのモヤッとした気持ちは何なのでしょう。

 とうとう学校へ来ることがなかったジェラート。

 ずっとそのそばで、ティラミスが看病していたのかと思うと、どうにもこうにも居た堪れない気持ちになって仕方がありません。

 「もう、ティラミスのばか」

 神秘の森のふくろうが、ホーホロロとひと鳴きし、夜のカーテンが一気に下ろされていくのでした。

 

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