三の巻 恋するジェラート⑥
清らの泉はどんぐり山とバター峠を越した所にあります。
旅人は美しい泉を見て、感嘆の声を上げ木馬を降りました。
さやさやと吹く風に良い香りが辺り一面に広がって行きます。ゆらゆらと琥珀色の水面に旅人の顔が映り、旅人は躊躇うことなく手を伸ばしひと掬いして、口に運びました。
「うまい!」
旅人はあまりの上手さに顔を付けて飲み始めました。
良い気もちになった旅人は、背後から声を掛けられ飛び上がって驚きます。
「お主、よそ者だな」
いつの間に来ていたのでしょう。
ずんぐりとした躰を重たそうに近づいてきた大男は、揺れている水面を一瞥し、怖い声でいます。
「これを飲んだのか」
緊迫した空気が流れ、旅人はおずおずと振り返ります。
「お主」
大男が眉間に皺をよせ、旅人の襟首を摘み上げました。
「これはこれはヒック。叔父上、僕ですヒック。ライですヒック」
大男、髭を生やした口元が少しだけ上がります。
「母がヒック。あなたのことを教えてくれました。ヒック。僕、ヒック」
一度目を大きくした大男は、旅人を解放するとそのまま、踵を返し行ってしまおうとしていました。
「待って下さい。ヒック。パンドおじさん」
パンドと呼ばれた大男は、やむを得ず足元をふらつかせて歩けない旅人を肩に担ぎ上げ、小屋へと戻って行くのでした。




