表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/54

三の巻 恋するジェラート①

 「あいたたたた」

 少し大袈裟に声を上げながら、スポンジ姫はベッドから起き上がりました。

 「そんなに痛むのかい?」

 食卓を色とりどりの料理を並べながら、カステラおばさんが訊き返します。

 「ええ。もう足も腰も老人のようですわ」

 「まぁ何と、姫様。素晴らしい成長でございます。老人の苦しみが、お分かりになられるようになったのでございますか」

 ギョッとして振り返ったスポンジ姫に、ティラミスが胸に手を当ててのお辞儀です。

 「ティラミス! あなたいつの間に?」

 「つい先ほどでございます」

 すまし顔で椅子を引くティラミスに、スポンジ姫は納得ができません。

 「わたくし、一度あなたに訊きたいと思っていたの。一体、あなたはどこで何をしているの?」

 「姫様、わたくしの仕事は執事でございます。今更聞くほどのことではないかと」

 「えええ、そうよ。当たり前よ。その当たり前のことをしていただけていないから、聞いているのよ」

 大きな音を立て、スポンジ姫は立ち上がりました。

 今日こそは、真相を突き止めてやるつもりなのです。

 一人でこっそり、お城に戻っているのなら、絶対許さない。ええ、許すもんですか?

 スポンジ姫の意気込みを知ってか知らぬか、ティラミスは笑うばかりで、何も答えようとはしません。 

 「わたくしが当ててみましょうか?」

 意地悪く笑ったスポンジ姫は腰に手を当て、ティラミスに顔を近づけます。

 「うふふふ。あなたはわたくしに隠れて何かをしているのよ」

 こういう場合は、じらすのが一番効果的です。

 「ギクリ!」

 ティラミスは、胸に手を当て、仰け反って見せます。

 「ふざけないで」

 「おやまぁ、なんだか楽しそうだわね」

 カステラおばさんが、呑気な声で口を挟んできました。

 「おば様、このティラミスは、なんだか怪しいと思いません?」

 「怪しいって、どんなふうに怪しいの?」

 ずり下がったメガネを少しだけ戻したカステラおばさんに、興味津々で訊き返されたスポンジ姫は、ますます得意顔です。

 「もしかしたら」

 「ああ、ちょっと待って、私にも推理させて頂戴。今、ものすごいことが閃いちゃったのよ」

 カステラおばさんに出鼻をくじかれ、少々ムッとなったスポンジ姫ですが、ここはぐっと我慢です。

 年長者を敬う。そのぐらいの常識は、わたくしにもありますわと、心の中で言いながら、おば様、言ってみて。とにこやかな顔は完璧です。

 さぞかし誰が見ても、品があって優しいお姫様に見えることでしょう。

 「秘密の情報部員なの。国家秘密を暴き、この国の乗っ取りを企む悪い奴。ね、そうでしょう?」

 そう言われたティラミスが、眉を少しだけあげ、含み笑いです。

 「ばれたなら仕方がない」

 「ええ~。あなた、そんなことを企んでいたの?」

 「本気にしないでくださいませ、スポンジ姫様。ワタクシメに限って、そ、そんなこと、あ、あ、あるわけが」

 目を細めたスポンジに見られて、たじろぐティラミス。

 この動揺っぷり、ますます怪しいです。

 「あら、もうこんな時間。ほら、スポンジや、早く食べて学校に行かないと遅刻してしまいますよ」

 「でも、おば様、ティラミスの悪をこのまま放っとく訳にはいきませんことよ」

 「いつまでも、バカなことを言っているんじゃありませんよ」

 「だって、おば様が」

 急にティラミスが、スポンジ姫の口を押えました。

 「姫様、シッ!」

 「どうやら客人のようでございます。面倒になっては困りますので、ワタクシメはこれで失礼いたします」

 と言って、ティラミスは窓から出て行ってしまいました。


 もうこうなっては弁解の余地がありません。

 悲しいですが、ティラミスを調べるしかないのは明確です。

 何と嘆かわしい事態でしょう。

 とてもとても学校へなんて行く気になれない、スポンジ姫でした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=197037803&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ