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二の巻 町の暮らし⑦

 苦手なかけっこも無事終わり、昼休憩に入ったスポンジ姫はカステラおばさんんとティラミスが待つ元へと向かいかけ、ふと足を止めます。

 誰もが嬉しそうに家族の元へ向かう中、ジェラートだけが俯き校庭の端へと歩いて行くではありませんか。

 「ジェラート?」

 呼び止められ、ジェラートはスポンジ姫の顔をチラッと見るだけで行ってしまおうとしています。

 これはスポンジ姫の直感です。

 「ね、もしかしたらあなた」

 途端に駆け出すジェラートを追いかけ、スポンジ姫も全速力です。

 かけっこでもこんな本気で走らなかったスポンジ姫です。

 足がもつれ、目のめりで倒れかけたスポンジ姫をティラミスが掬い上げました。

 「姫、どうされました?」

 「何でもなくってよ。ただ……」

 走って行ってしまうジェラートに目を向けるスポンジ姫を見て、ティラミスは何かを読み取ったようです。

 「姫、走りますよ」

 「ティラミス、待って」

 ティラミスに引っ張られ走るスポンジ姫の顔は、どこか嬉しそうに見えます。

 「もう何ていう執事なの? わたくしは一国を預かる」

 「スポンジ、今はそんなことを言っている場合じゃないだろ。友達が困っているんだ」

 呼び捨てにされ、スポンジ姫の胸が鳴ります。

 ティラミスに目配りされ、見れば、木陰でジェラートが蹲っています。

 ティラミスが、スポンジ姫の背中を押します。

 一度振り返るスポンジ姫に、ティラミスが頷いて見せます。

 そろそろと近づくスポンジ姫に気が付いたジェラートが、顔を上げます。

 「ね、良かったらわたくしと一緒にお弁当、食べない?」

 「……いらない」

 あっさり断られてしまったスポンジ姫は、その後の言葉が思いつきません。

 じれったさについ、ティラミスが合いの手です。

 「遠慮なく、うちのおばが張り切って食べきれないほどのごちそうを作ってしまい、困っていたところなのです。ぜひ、お手伝いしていただけたら、こちらとしても、二度、同じものを食べなくて済むのですが……」

 ポリポリと頭を掻く仕草をするティラミスを見て、スポンジ姫としては心穏やかではありません。

 瞳を潤ませるジェラートに手を差し伸べ、スポンジ姫にさえ見せたことがない、笑顔のティラミスです。

 何でしょう?

 ティラミスとジェラートが楽しそうに話をしているだけなのに……。


 ――そして最後は、町の人も参加のダンスで運動会は幕を閉じました。


 教室に戻ったジェラートは、ずっと黙り込んでいました。

 「ジェラート、大丈夫?」

 ジェラートは、スポンジ姫の顔を見るなり、飛び付きます。

 「ね、あの方は誰?」

 何のことでしょう?

 訝るスポンジ姫をよそに、ジェラートがはしゃぎ声を上げます。

 「あの紳士的な方よ。私を孤独の海から救い出してくれた、あの方よ」

 大袈裟な物言いに、スポンジ姫は眉をよせ答えました。

 「あぁ、ティラミス」

 「そう、ティラミスさんって言うの」

 「ジェラート?」

 抱き付かれた躰がとても熱いのです。顔も、真っ赤ではありませんか。

 スポンジ姫の腕の中でぐったりしてしまったジェラートを、モンブラン先生が医務室へ運んで行ったのはその数分後でした。

 医務室のカヌレ先生に二人で挨拶して、学校を出ました。

 「あなた、今日から私の親友よ」

 ジェラートが嬉しそうに言います。

 「そうなの、嬉しいわ」

 嬉しそうに話すジェラートを見て、スポンジ姫の良心がチクリと痛みました。

 帰り際、医務室に寄ったのは好意でも何でもありません。

 みんなと同じく帰ろうとしたスポンジ姫は校門の前、見知らぬ男性と反し込んでいたティラミスと、ばったり会ってしまったのです。

 話していた相手は会釈してすぐに去って行き、残されたティラミスが首を伸ばします。

 「何?」

 「あのお友達は?」

 気まずさに目線を下げたスポンジ姫に、ティラミスはなにもいいません。かえってそれが答えたスポンジ姫は苦し紛れの言い訳をします。

 「ああ、いけないいけない。わたくしとしたことが道を間違えてしまったみたい。成れないっていやね。ティラミス、わたくし寄る所があるから、先に帰っていてよろしくってよ」

「畏まりました。ではそのようにさせて頂きます」

 チラッと振り返るスポンジ姫へ、ティラミスは涼しい笑顔で頭を下げます。

 キーッとなったスポンジ姫は捨て台詞です。

 「わたくしは、保健係として、きちんと仕事を成すだけよ。あなたに言われたからじゃないですからね」

 「承知しております。姫様はお優し方ですから」

 そんなやり取りをしてのお見舞いです。ティラミスにマッサージをしてもらいたいぐらいで、人のことなど知ったことがない。と言う勢いで帰って行こうとしたこと、絶対口が裂けても、ジェラートに言えません。


 「今度、スポンジちゃんの家、遊びに行って良い?」

 そんな弱みがあるスポンジ姫です。

 ジェラートの言葉をそう容易く、むげにはできません。

 「えっ? ええ。おば様の家だから聞いてみなければだけど……」

 パッと明るい顔をするジェラートを見た寸感、スポンジ姫の胸がチクリとしました。

 この痛みは何?

 愛想笑いを浮かべながら、戸惑うスポンジ姫でした。

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