一の巻 姫の旅立ち①
軽い気持ちで書いています。さらりと読み流してください。
ここはお菓子の国。
ファンファーレが鳴り、今日はスポンジ姫の誕生祭です。
「まったくこのくそ忙しい時に、祭でもないだろう?」
口の悪いシュークリームが言うのを、シッと口に指を当て窘めたのは、マドレーヌです。
「早くしてくんないかな」
背高のっぽのチュロスが、背伸びをしながら大あくび言いますと、
「ところで、姫って何歳になったの?」
「姫って、どんな顔をしてんだっけ?」
何て言うクッキーとゼリーの会話が聞こえてきました。
それを怖い顔をして睨んだのは、クラス委員のミントです。
「何よミント」
クッキーが口を尖らせて抗議を始めました。
それを受けて、ミントがしかめっ面で言い繋ぎます。
「シッ! クッキー、それは禁句だよ。いいから。ワーワー騒いでやればいいの。あそこにいるグミに、こんな話を聞かれもしたら、厄介だよ」
ひょろひょろと背が高いグミは、集まった町民を全員見ようと、目一杯首を伸ばしています。
ミントの言葉を隣で聞いていたベイクドが、うんざりと言わんばかりに言います。
「やれやれ、どうもあいつだけは好きになれない」
首を横に振り振り言うベイクドに、
「俺も」
頷いて見せたのは、ビターチョコレートです。
「ねぇ、なんかおいしいもの出ないのかな?」
能天気に言っているのは、プリンです。
「飽きた―。暑いし」
ムースがしゃがみこんで、ロール姉妹がふざけっこをし始めます。
キャンディが何か話しているけど、誰もそんなものは聞いていません。
誰かがワーと言えば、ワーと同調するだけです。
何がそんなにおかしいのでしょう?
キャラメル兄弟が、ゲラゲラと腹を抱えて笑っています。
中央を陣取って、うわさ好きのマカロンが、クレープにこそこそ話です。
国を挙げてのお祭りに集まったものの、なかなか始まらないので、誰もが嫌気がしていました。
誰も口にはしませんが、その原因は大体見当が付きます。
「姫様っ」
国民の一人が叫びました。
そろそろ収穫の時期。
誰もが忙しい中の参加です。
一刻も早く切り上げて欲しいのが本音。
つられるように姫野甘えが叫ばれていきます。
再びファンファーレがなり、タルト国王様がクリーム王妃と一緒にテラスに姿を現し、全員で、ワーッと歓声を上げます。
「皆のもの、今日は姫のために集まってくれて、まこと、感謝する。しかし残念ながら、姫は昨夜より体調を崩し、ベッドに伏している次第で、すまないことをした。この通りじゃ」
頭を下げて詫びるタルト王を見て、国民たちは気の毒がります。
子を持つ親の気持ちは、痛いほど分かる者は、たくさんおります。
「なんでい。またかよ」
口を尖らせて言うシュークリームの頭を、母親のスワンがポカリと叩きます。
「お黙り。二度とそんなこと言う出ないよ」
「いってーな」
「さぁさぁ祭りは終わりだ。さっさと帰るよ」
「やったー終わり。んじゃさぁサッカーやろうぜ」
「何言ってんだい。こんなくそ忙しいんだから、家のこと手伝いな」
子供たちは親に引きずられるように家に帰って行きます。
それを遠目で見ていた一人の旅人が、その場を静かに離れて行きました。
誰も気が付いていません。
さてさて、お菓子の国の騒がしい毎日の始まり始まりです。