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僕。私。  作者: 若森晴樹
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12月25日。世間の恋人たちは誰もが浮かれていて、イルミネーションの灯りはその気持ちが動力で点灯しているのではないかと感じる。恋人などいない僕は迷いに迷った末、七海にメールを送った。

「メリークリスマス。あの時のこと、本当に後悔してる。戻りたい、なんて言う資格は僕にはないから、七海が少しでも幸せであることを願っています」

自分で送っておいてなんだが、元彼氏から半年ぶりに来たメールがこれでは少々気味が悪いのではないか、と一人苦笑した。

僕は正直、別れてからの半年間、今もずっと七海のことが忘れられないでいる。僕は彼女のことが大好きなまま別れることになってしまったからだ。まあそれも僕が全面的に悪いのだが。

七海は僕の大学の後輩で、所属するゼミも同じであった。野球観戦という共通の趣味もあったが、僕の楽観的で、なおかつ親しみやすい人柄に惹かれたらしい。彼女は僕の内面的な部分をとても好いてくれていた。そうでもなければ、顔面偏差値50という超平均的一般男性顔の僕が、芸能人にでもおかしくないほど、純粋で可愛らしい七海に告白されることなどなかっただろう。そう、僕は告白されたのだ。

今思えばそれが良くなかったのかもしれない。僕が告白する側であったら、こんなことにはならなかったのかもしれない。

僕は調子に乗ってしまったのだ。

8ヶ月前のゼミの歓迎会。その頃僕と七海は一年記念旅行に彼女の誕生日と、幸せにつつまれていた。そんな中僕は、酔った勢いで、彼女の友達の一人とキスをしてしまったのだ。僕は酔いが覚めた時、その子にメールで謝罪した。

気にしてない、とその子は言った。お互いに忘れようと。僕は安心してそのあとも七海との関係を続けていたのだが、なぜか1ヶ月後、その子はゼミのメンバーにメールの写真を見せ、事件を明るみに出したのだ。

今でもその子が何をしたかったのかわからない。事件を明るみに出して彼女が得することなど何もなかったのだが、結果的にその事件で七海に別れを告げられたのだった。

「信じていたのに。あんなに好きだったのに。人ってこんなに一気に嫌いになれるんだって知りました。さようなら」

涙を浮かべながらそう言われた。いや言わせてしまった。

僕はなんとか彼女の気持ちを取り戻そうと奔走した。しかし何も変わらなかった。それどころか、彼女の姉やその彼氏にはストーカー扱いをされてしまった。

それから僕は彼女への気持ちを心の隅に置き、褒められたことではないが、忘れるためにたくさんの女性と関係を持ったのだった。しかしそれも虚しさが増すだけで、今日、メールするに至るのであった。

1時間ほどしてケータイが鳴った。七海からの返信であった。

「本当に、もうあなたに興味はありません。これ以降連絡してきた場合は警察に相談をするので、このメールへの返信もいりません」

重い一文であった。

浮かれた人々の中で僕はアイスティーに入れたガムシロップのようにドロドロと沈んでいくようだった。

よくわからない比喩だ。

街の灯りを背に僕は帰路についた。

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