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太陽と月の交進記(マシアス)  作者: アスセナ
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-始まりの旅路の果てに- 前編

ども、アスセナですm(_ _)m


注意として、この「始まりの旅路の果てに」はプロローグ…と言うか前章の様なものです。

ので、殆ど戦っていません!

でも、今後もこんな感じでストーリーメインなので戦闘は…あんまり無いかと。戦う時は戦うけど、見たいな感じです。

プロフの通り、好きなものを自由に書いていくのでよろしくお願いしますm(_ _)m



この世界――ソールシェイトにはこんな言い伝えがある。



何処より現れし六の精霊、我らの世界(ソールシェイト)を創造せんと意思を一つにした。そして大地が出来、水が溢れ、太陽と月が生まれた。植物が生まれ、生き物が溢れ、やがて人が生まれた。それらが出来るのに、日は何日もかからなかったという。

やがて六の精霊は姿を消し、我らの世界に在りしもの達を見守る事にした。

これらの精霊を人は六精(ルーフェアリー)と呼んでおり、各所で拝められていた。

その後、世界へ危機が訪れる度に六精は世界を救った。しかし幾ら精霊と言えども限界は存在する。その為、六精は人でも精霊の声が聞ける者を選定し、その者――選定者(メディリム)はいつの世も精霊と共に世界の加護を行って来た。

そして、今から数十年前。我らの世界に存在する二つの大国が戦を始めた。

―その戦の名は、『シレリ戦争』。

大国の近くにある街や村をも巻き込んだその戦は多くの犠牲者を出し、生物を殺した。

十何年続いた長きに渡るこの戦争を、六精は選定者と共に収めたという。

それ以来、六精は人の前に姿を現していない。


しかし、世は常に六精と選定者によって平和な日々が保たれている…。





――これはただの言い伝えだ。

何の根拠も無い、人から人へ口で伝えられて来たもの。

いつの間にか世界へ広がっていたもの。

だが、私はこの言い伝えを信じている。

例え言い伝えだったとしても、その根源は本当の話であると思って。

そして、いつか六精と出会える事を夢に見ながら。




私は何時までも、その時を待っている。











―始まりの旅路の果てに―








分厚い雲に覆われた空。そこから降り注ぐ雨に打たれながらも二人の人は歩き続ける。

二人が着ているのは防水の加工が成されたマント。それに付いているフードを目深く被り、顔が濡れないように少し俯きながら先へと進む。

ふぅ、と息を吐き、背の少し低い方が斜め上を見上げる。その視線の先にある空は真上とは違い蒼かった。もう少し歩けばそこへ行けるだろう。まぁ、そんな事しなくとも猛スピードで雲が後ろへ流れていっている為直にここも空が蒼くなるだろうが。

ざくざくと音を鳴らしながら砂の道の上を歩き、やっと雨から抜け出した。被っていたフードを取り、頭を軽く降って髪の毛を整える。

背の少し低い方の見た目は十四、五の少女。ハーフアップされたセミロングの赤髪は陽の光に照らされてキラキラと輝いている。

もう一人――背の高い方もフードを取り、頭をがしがし掻いている。そちらは十七、八の青年で、短い黒髪に黒とエメラルドグリーンの瞳ーー虹彩異色症(オッドアイ)を持っていた。


「―ティアル、くし使うか?」


青年が背負っていた大きい茶色のカバンにマントを仕舞いながら声をかけると、空をぼーっと見つめていた少女――ティアル・ルームンがいる、と短く答える。マントと入れ替えにくしを取り出して渡してやると、やはり空を見ながらティアルは髪を整え始めた。

何をそんなに熱心に見ているのだろうと思いながら青年はティアルの見ている方を見る。そしてそこにあるものを確認して成程、と少し口角を上げた。


「レイ、あのアーチみたいなの何?」


首を傾げ、空いている手でそれを指差しながらティアルが問う。そんなティアルに青年――レイ・ソロアは指差ししているものを見ながら丁寧に教えてあげた。


「あれは"虹"って言うもんだよ。太陽の光が空気中の水滴によって変化して、七色の帯状に見えるんだ。ティアルは見るの初めてだったっけ?」


「初めて見た!ねぇ、虹って雨が降ったから出てきたの?」


「うーん…。詳しくは俺も分かんないから何とも言えないけど、多分そうだと思う」


「へぇ…。太陽と雨がないと出来ないのか。覚えておこ」


にっこりと笑い、ティアルは手にあったくしをレイに返した。


「さて、と。ここを真っ直ぐ行ったら海沿いの町『アクトルコ』に着く。そこまで頑張って歩きますか!」


「頑張りすぎてへばんないでよね」


「―へいへい…」


くすくすと笑いを堪えるティアル。

その頭を優しく撫でながら苦笑するレイ。


二人の仲の良さを褒め称えるかのように優しい風がその場に吹き付けた。








ソールシェイトには様々な種類の生物が住んでいる。

動物、虫、魔物、そして人。

魔物は動物と虫の発展系と言われているが、そういう(たぐい)の話は今は横に置いておこう。

人には生まれつき身体に魔力(ラース)を持っている。それは大気中にも含まれていて、見えはしないものの常にその中にある。

人々の中で魔力が多い者は魔使士(ラーサー)と呼ばれ、冒険者と同じく動物狩りやクエストを町に一つある仲介場で受けて仕事にしたりしている。

魔使士はその名の通り魔力を使って攻撃や防御、更に日常に必要なことも魔力を使ってこなす。

これらを人々は総称して『魔法』と呼んでいる。

攻撃に限って言えば基本六元素の地水火風光闇を使うし、他にも便利(コンバー)系や希少(ユニーク)系等がある。

仕事で冒険者と違う点をあげておけば、階級がある事と冒険者と比べ物にならないくらいの難易度が要求される場合もある、つまり油断しなくても死ぬ可能性があるという事位だ。勿論その分報酬は上がるが。

付け加えて、先程言った魔使士の階級は上からS、A、B、C、D、Eとなっている。下の方は難易度も冒険者とさほど変わらないが、SやA程になると命の危険も出てくる。しかし、AましてやS級の魔使士等ほとんど居ない為、死亡者数は殆ど無いに等しい。

そして、レイとティアルもそんな魔使士である。ティアルは今の所表立った実績は無いがレイと共に活動している事である程度――S級に匹敵する力量を持っている。それにレイも幼い頃から数々の記録を残し、年離れした実力を持つS級魔使士であり、世界に五人しか居ない者の一人だ。勿論二人共、数々の修羅場をくぐり抜けたエリート中のエリートである。




「ちわぁ~っす」


町に着き、二人はそのまま直行して仲介場へと向かった。建物の扉を開けレイが軽く――今のはどう考えても軽すぎるが――声をかける。

ギロリ、と仲介場にあるベンチスペース(仲介場にはこれと受付、依頼板(クエストボード)しか置かれていない)から視線が一気に集まる。何百人の視線を浴びても二人が怯むことはなく、そのまま受付へ向かう。

初心者やなりたての者なら必ず怯み、慣れても反応してしまうそれにレイはともかくティアルが何も気にしていなかったのは少し異常だ。それに気付いたのか、周りの冒険者や魔使士達はコソコソと話している。


「ねぇ、私今可笑しい態度だったかな?」


真横に並び、ティアルがレイにそっと尋ねる。レイは一瞬ティアル見て、また視線を前に戻す。


「――いんや、大丈夫だ。問題無い」


「そう。じゃあいいや」


二人で笑顔を見せ合い、受付に辿り着く。カウンターに人が居なかったので側にあった鐘をチリンと鳴らすと、奥の部屋から茶色の落ち着いた雰囲気を纏う制服を身に付けた女性が出て来た。カウンターの向こうにあるであろう椅子に座り、こちらを見上げる。


「今日はどのような御用ですか?」


丁寧な言葉遣い、何時も磨いているであろう営業スマイル。それに少しの残念さを覚えながらもレイはきっちり目的を言う。


「明後日からある、最近ここらの森に住み着いた魔物の魔使士合同討伐に出たいんだけど、受付ってまだやってたりする?」


「――あ、はい。少々お待ち下さいね」


何かを思い出したのかそう答えて女性はカウンターの下でゴソゴソと書類をいじり始めた。

その間暇なので、レイとティアルは今後の事を話し始める。


「今日の夕飯まではまだ時間有るし、何か一個クエストやるか?」


「私は特に用事とか買い物とかないし良いけど」


「あ、それで思い出したわ。干し肉ギリギリだからさ、少し買い物しようぜ。クエストはその後って事で」


「あー、いや、それは全然良いけどお金有る?無かったらクエストの後でまとめ買いの方が良いよ。さっきまとめて置いてあるお店見つけた」


「お!マジすか。お金確認しないと…」


ぶつぶつ呟き、レイが鞄の中身を漁る。しばらくすると手のひらより少し長細いサイズの箱――貯金メーカーが出て来た。その箱には数字のメーターとその下にキーボード、更にその下に横に長い長方形の穴、側面にはボタンがある。数字は仲介所にある貯金場のお金の数値が表され、長方形の穴からは金額を指定してやればその場でお金が引き出せる仕組みとなっている。その箱は見た目に反して値段がお高く、持っているのは一部の者のみとなっている代物だ。

その数字メーターを見て、レイは何やら満足げに頷く。


「ティアル、金は大丈夫だ。てか、前の町で大型クエスト行って、その報酬が余ってるわ」


言いながらレイはティアルに数字を見せる。

ソールシェイトではどの国、町、村でもお金の単位は共通されている。

額の読み方は”Z”と書いて「ゼント」と読む。

林檎などの食べ物は大体数百Z、家になると数百万Z、大手企業等の収入は数千万Z位が相場である。


「えっと…貯金抜いて4千万Z位か…。てか、別に家とか買う訳じゃないんだからクエスト行かなくても良いと思うけど…」


「うむむ…まぁ、そうかぁ」


呑気に話している二人に対し、周りでこっそり話を聞いていた連中は予想外の衝撃に固まった。それもその筈である。どんなにクエストを受けてお金の消費を最低限にしていても、一般冒険者や魔使士で何千万Zなど集まる額ではない。多くても何百万Zであろう。それに比べ、あの二人は何千万Zと持っているのだ。大げさに言ってしまえば単位がもはや次元を超えている。しかも、その上でまだ貯金分があるのだ。全額では一体どのくらいになるのやら。もしかしたら十何人家族で一生遊んでいけるほどの大金はあるのではないだろうか。

ーー実際はどうか定かでは無いが。


「お客様、大変お待たせしました」


受付の女性が薄い束の書類をカウンターに乗せる。


「まだ受付は行っています。このクエストは階級がB級以上となっていますので、カードをお見せ下さい」


「ほいほ~い」


今度は鞄を漁ることはなく、手前にある小さいポケットから二枚のカードを取り出す。

仲介場で仕事をするにあたって、冒険者と魔使士は自分の身分を証明する為にカードが作られる。そこには、名前、階級、前衛か後衛か等仕事を受けるものとして必要な情報が書かれている。そしてカードにはある特殊な魔法が掛けられており、持ち主の手からは消えない仕組みになっているのだ。

取り出したカードを丁寧に女性に渡す。カードを見た途端、女性が目を見開き椅子から大きな音を立てて立ち上がった。それに反応し、先程まで騒がしかった周りが静かになる。


「ーーティアルさんはA級…。レイさんはS級…ですね…」


「あぁ、そうだけど?」


何やら様子の可笑しい女性に疑問を持ちながらもレイが頷いて肯定する。そんなレイを他所に、女性はパクパクと口を動かしながらカードをじっと見つめていた。まさか目の前に居るこの少年少女が高階級にいる者だと女性は思ってもいなかったのだ。


「――あのぅ…私達早く宿見つけたいんですけど…」


小声で、しかしよく通る声でティアルが女性に話し掛ける。その声でやっと今の状況を理解したのか、申し訳ありません、と女性は慌てて謝った。


「えっと、とりあえず登録しておきますね。集合は明後日の早朝で、場所はこちらになります。そして、これが討伐する魔物のデータとなります。お使い下さい」


女性から紙を受け取ったティアルはすぐさまレイに渡した。それに何も言わず、レイは紙をペラペラとめくり、上から下へと全てに巡らせるとティアルに返した。ティアルもレイと同じ様に紙を見、女性に向けて紙を差し出す。

何で紙を向けて来るのかいまいち分からず首を傾げる女性にティアルがそっと微笑んだ。


「もう覚えたので紙はお返しします。ありがとうございました」


状況を呑み込めていない女性の手元に紙を起き、レイとティアルはカウンターから去る。

後ろを決して見ること無く、二人は仲介場から姿を消した。








町の入り口から港までを一直線に繋げているメインストリートは大勢の客で賑わっている。最近暑くなってきたこの時期は特にそうで海目的でやって来た観光客も大勢いるのだ。その為、いつもより遅くまで店は開いている。

現在、日が水平線に沈んで来ているこの時間が一番の賑わいを見せる時で道には人が溢れかえっていた。そこに紛れながら、レイとティアルはゆるりと歩いて行く。お目当ての干し肉は既に購入しているので、今は観光だ。


「見てレイ!あれかき氷だよ!」


お祭り騒ぎの様なメインストリートの状態にご満悦のティアルがレイの腕を引っ張りグイグイと連れていく。そんな楽しそうなティアルに対しレイはもう諦めており、ティアルの言う通りにしている。常に警戒は怠っていないが。


「何だ、かき氷食べたいのか?」


レイがティアルを確認の意を持って見ていると、ティアルは急にモジモジとし始めた。

きっと、食べたいが本当に良いのか、レイは食べないのか、等など。余計なことを考えているに違いない。

そんなものは無視無視。まだ子供なのだからもっと甘えればいいのに、とレイは勝手に考えている。お金はあるし、もう大人の一員であるレイなら大抵の事はしてあげられる。しかし、彼女は生活環境や周りのせいで『甘え』と言うものをしなくなった。出来なくなった。だから、ティアルが興味を持ったものに口出しはしないし(例外はあるが)、何でもやらせるつもりだ(こちらも例外はあるが)。

勿論、こんな事本人には言わないし、言うつもりなどない。言ったとしてもどうせ変わらないのだから。


「おじちゃん、かき氷二つ頂戴。味はサイダーとイチゴな」


屋台のおじちゃんに頼むと手早く作ってくれた。目の前に大きな水色とピンク色のかき氷が出される。お代を感謝の意味も込めて少し多めに出し、ティアルにサイダー味のかき氷を渡してやる。イチゴ味の方は勿論自分自身に。

少し歩いて人混みから抜け、近くにあったベンチに二人は座った。


「――かき氷、買ってくれてありがとう…」


少しずつかき氷を食しているティアルが礼を言う。レイは一定のペースで氷を減らしつつ、ん、と短く答えた。


「ティアル、他にも何か食うか?」


レイは口の中にある氷を飲み込む。


「ううん、これでいいや。宿に行ったら夕飯有るだろうしね」


あ、夕飯は腹八分目までだよ、とティアルは何故かレイに注意をしてくる。ここで切り返してくるとは…流石ティアルだ。


「んなの分かってるって。てか、ティアルは何時も食べなさ過ぎだ。体力つかないぞ~」


お返しと言わんばかりに行ってやると、案の定ティアルが頬を膨らます。かき氷を膝の上に起き、レイにもっと注意してやろうと口を開いた、その瞬間――。


パアァァァアン!


大きな音を立て、赤い大輪の花が咲いた。青、黄色、緑、そして大小様々な花たちが真っ暗な空に光り輝き咲いていく。時には形を変えて、高さを変えて。


「うわぁっ!きれ~」


「花火かぁ…。こりゃ本格的に祭りだな…」


そう口から零し、しかしそれを気にすることもなく意識は夜空に咲く花に吸い寄せられていく。

先程の空気は見事に散り、そこには花火に見蕩(みと)れる二人が居た。








その後。近くにあった宿で部屋を確保し、意外と豪華だった夕飯を食べた。ティアルはやはり少ししか食べず(一般的には適正量)、レイは腹八分目など忘れ存分に堪能した。レイの食べっぷりを見て女将さんがデザートを追加してくれたり、この街の様子について話したり、お茶を飲んだり。そんなこんなで夜も深まった所でお風呂に行った。ここのお風呂は見事な露天で効能もよかった。日々動いている二人には嬉しい筋肉痛などに効いたり、体の調子を整えてくれたりと、ここ最近入った露天風呂の中で一番効能が良かった。お風呂でこの宿に決めたわけでは無かったが何だか得をした気分になった。

その後は部屋に行き、これまた大きなベットにレイはダイブした。ちなみに、そのままレイは沈んだ(寝た)。そんなレイにティアルは苦笑を向け、とりあえず布団を掛けてやる。ある程度部屋を見て(本当に大きい)、ティアルもレイを見習ってベッドに入った。









『―や、めて…。やめ、て…たす、けて…!』










耳の奥で甲高い悲鳴が鳴って。

あぁ、また来たのか、とのんびり考えつつもレイは瞼を開け、寝起きで重い身体をベットから引き剥がした。ゆっくりと足を床に下ろし、近くにあった椅子をもう一つのベットの横に持っていってそこに座る。そこで布団に(くる)まって寝ているはずの住人の顔は生憎(あいにく)布団のせいで窺えず、しかし今どんな状態にあるのか分かっている為何も言えない。

小声で、本当に小さな――言ってしまえばちゃんとした音としては聞き取れないような声で誰かに助けを乞うている。それに気付いたのは一体いつの頃だったか。随分前のようにも思えるし、最近のようにも思える。ティアルと長く居すぎたせいか、レイの感覚はそこだけ狂っていた。

布団からはみ出た手をそっと握ってあげる。すると寝ているのにティアルは力強く手を握り返し、声も荒い息も徐々に聞こえなくなっていった。

そして訪れる安らかな眠り。

何故、こんな状態になっているのか。

レイは疑問に思っても口にはせず、逆にその話題から遠ざけることを何時も意識している。

こんな、まだ未熟な子供が――ティアルが何を恐れ、どうして助けを求めるのか分からない。

何時か話してくれるかもしれない。だが、それまでは心の内に仕舞っておこう。

本当はティアルを抱きしめてあげたいのだがそれをすると逆に震えてしまうし、何より本人が恥ずかしがる。こればっかりはどうしようもない。それに、この子は――――。



「――ゆっくりお休み、ティアル……」



優しい声音でそう呟き、レイはそっとティアルの手を撫でた。






次の日は武器の手入れ(確認)やら道具の整理やらで時間を潰し、魔物討伐当日となった。


レイとティアルは集合時間より半刻程早く仲介場に来た。しかしそこには既に多くの魔使士がおり、各々(おのおの)の時間を過ごしていた。事前に面倒事は避けようと決めていた二人はその集団から離れた椅子に並んで座る。ティアルは戦闘で使う杖の最終確認、レイも戦闘で使う指輪達をそれぞれの指に着けていた。


「今回の魔物ってさ」


指輪を綺麗な布で擦っていると横からティアルがレイをチラリと見てくる。ティアルの言いたいことが分かったレイはそうだな、と言葉を続ける。


「確かに、今回程度だったらこんなに指輪要らないけどな。良いんだよ、用心ってことで」


「――そういう事やってるからレイは注目されるし、すぐ調子に乗るから周りの人達が経験積めないんでしょ…」


どが付く程の正論にゔぅ、とレイは呻く。

ティアルの言っていることはよく分かる。幾らレイの血が(たぎ)ったとしても、それで他の魔使士が成長してくれなければ意味が無いのだ。

近年、S級はおろかA級でさえ貴重な存在となってしまっているこのご時世だ。B級やC級が早く級を上げ、力の強まってきた魔物に対抗出来るようにしなければいけない。その為、報酬だけ頂いて殆ど活躍はしない(ノルマはきちんとこなすが)様にここ最近はしているのだ。

だが、心配なものは心配で。どうしてもフル装備にしてしまうのだ。


「もう、私は子供じゃないんだからね。万一があっても平気なんだよ!」


「いや、俺の中ではティアルは何時までも子供だ…」


「レイ!私もう十代後半!問題無いから指輪最低限にして」


「いや、しかしなぁ…」




「――あれ…?お前、ソロアじゃん!」




指輪を外すか悩んでいたレイに正面から声が掛けられた。しかも殆どの人が知らないであろうファミリーネームで。

ふっと顔を持ち上げ、声を掛けた人物を見たレイは一瞬固まった。


「…お前、ビスティスか!?」


「おう!良く覚えてんなぁ、ソロア」


約一年間ぶりの再開でレイのテンションが上がる。しかし、ティアルは誰だコイツと言いたげだった。それを感じ取ったレイはティアルに紹介する。


「ほら、前に行った大きな祭りでやったラムネ飲み大会で知り合ったんだ。ビスティスは飲むのが速くてさぁ…」


「――あぁ、成程……」


何だ、ただの(ラムネ)飲み友達か。

レイの話を右から左へ聞き流しながらティアルはそう解釈した。


「それにしても、前はC級だったのにな。テスト受かったのか」


「あ、あぁ。何でそこまで覚えられてるかは疑問だけど、そうだな。今はB級として活動しているよ」


飲み友達で熱心に話しているのを横目にティアルは杖の手入れを再開する。しばらくしてそれが終わり、腰の横に付けようとしていると意外にもこちらに話しかけられた。


「んでもさ、お前らってこんなに仲良かったっけ?前の時はもっと、こう、距離があった感じがしたんだけど…」


ビクリ、とティアルが微かに体を震わせる。それを見逃さなかったレイはビスティスに見えない様にティアルの背中を繰り返し撫でてやる。


「う~ん…そうだったっけか?あんまり変わってないと思うんだけど。まぁ、ティアルの背は伸びたな。俺は変わんないけど」


「あ~そういやそうだな。前より大分成長してるよティアルちゃん。…それより、お前は変わらなさすぎ」


がははは、と盛大に二人は笑う。が、ティアルから見ればそんな楽観的に出来る場面ではなかった。

どうやって乗り切ろう、と頭の中が気が気でない。そんな時、



『お前らぁ!!これから説明すんぞっ!』



突然大きな声が仲介場に響き渡り、騒がしかった場の空気が一気に冷えた。

レイとティアルもとりあえずその声に耳を傾ける。

大声を出しているのは、受付の前にいる今回のリーダーと思われる大男だった。


『今回俺達が討伐するのは、ここの近くの森――トリテ森林に最近住み着いたアスカルって言う魔物だ。こいつは図体はそこまででかくはないがその代わりスピードと判断力が抜群に高い。そこで、だ。俺達は五人位のパーティをいくつか作り、森林を大捜索しつつそいつを倒すって戦法だ。パーティは適当に組んどけよ。十分後にここを出る。以上だ!』


そう締めくくるとまた仲介場に騒がしさが戻って来る。どうやら周りの奴らはパーティを組み始めたようだ。

そして、先程の流れからいくと一人のメンツは決まったも同然で。


「――一緒(いっしょ)にやるか?」


自分正面に座っている人物をレイは見る。ビスティスは肩を竦め、いいぜ、とため息と共に吐き出した。内心どう思っているかは気になるところではあるが、今はティアルの背中を撫でてやることの方が大事なので今回は深く追求しないでおく。

背中を撫でてやっているとレイの腕が掴まれた。勿論、掴んだのはティアルだ。どうやらもう大丈夫らしい。それを感じたレイは撫でていた手を元に戻した。


「さて、後のメンバーはどうするかね…」


ポツリとビスティスが呟く。

そう、今起こっている最大の問題はそこだ。

ビスティスはともかく、レイとティアルはもうこの世界に数少ない者の中に数えられるほどの実力を持っている。正直に言うとメンバーなど要らないうえにどちらかというと邪魔になるだけなのだ。しかし、あのリーダー格の大男に五人くらいでパーティを作れと指定されてしまった。と言う事は、だ。レイ達の他に後最低でも二人はメンバーが必要なのだ。

これは予想外にも問題が深刻だ。

この町に着いてから何日としか経っていないのでここに居た魔使士の顔馴染みもいないし、ましてや知り合いなんてほとんどいない。

あと二人…どうやら自力で探すしか無いようだ。しかも、後数分で。

どうしたものかと両手に付けた指輪を見ながらレイが考えていると向こうにある大きな集団から三人の男が抜けてこちらへ向かって来ていた。それを気にすることもなく、レイは指輪を見続ける。きっとこちらに用があって来たのだろうとは思っていたが、それを分かっていないフリをわざとして、相手がどう出てくるのか伺う。すると意外にも男達はレイ達――正確にはレイに声をかけてきた。


「すいませぇん、俺達、はぐれもんなんですけど一緒にパーティ組んでくれませんかねぇ?おたくらも余りみてぇだし」



―うっわ、こいつら面倒くさそう……。


レイとティアルはお互いに顔を見合い、内心そう思った。それを表に出すことは勿論無く、声を掛けてきた男達はニヤニヤと気味の悪い(本人達には失礼だが)笑みを浮かべてこちらの様子を伺っている。

ビスティスを放置し、レイとティアルは男達に聞かれないようにコソコソと話し始める。


「なぁ、こいつら絶対ダメなパターンだよな普通だったら絶対パーティに入れない奴らだよな」


「そうだよね…。でも、パーティは五人くらいいるんでしょ?」


「……いや、まぁ。指定されちゃったし、確かに五人くらいいるけど」


「……仕方ないよね。入れてあげる?」


「別にティアルが良いなら良いけど、あいつら絶対何かあるよ危険だよ処分した方が良いよ」


「いやいや、処分しちゃダメだから。私達が怒られるから!」


「あ、そうか」


「――それは置いといて、早くしないとあの人達どっか行っちゃうんじゃない?」


「あ、そうか」


先程と同じテンションでそう言い、レイは男達と向き合った。レイはまだどこか納得していないようだが、これは緊急事態であり今ピンチなのは自分達であると分かってはいる為、仕方無くといった感じで男達をパーティに入れる事に同意した。名を名乗り、いつも通り嫌な顔は一つもしてはいなかった。

だからだろうか。

男達は先程とは打って変わって元気に話し始めた。

”俺はレイさんに憧れていたんだ”とか、”俺はレイさんの魔法が見たいんだ”とか、”俺はレイさんと友達になりたい”とか。当の本人であるレイはそれを軽々と躱し、いなし、その上で自分は今回魔法をあまり使わないと言った。

男達への言い方が初対面なのに辛辣だったのは、まぁ、ただ単に面倒くさかっただけであろう。


「ま、とりあえず宜しく」


男達とお互いに簡単な自己紹介をする。

一番左にいるひょろっとしているのがサターニュ、真ん中にいるのが普通体型のデストラ、一番右にいるのがポッチャリのアルト、だそうだ。

興味は無いが仕方無くレイは聞き、ティアルは先程と同じく右から左へ流していた。真剣に聞いていたのは根が真面目なビスティスくらいだ。その上で彼はちょくちょく質問を彼らにしている。

いや、もう真面目すぎて何にも言えませんよ。

レイとティアルがそう呆れていたのはここだけの話だ。

結局そのままクエストの時間となり、三人改め六人は周りの集団と一緒に目的の場所へと向かった。









一同でトリテ森林に入り、直ぐにパーティごとに別れて捜索となった。全員が散り散りなり、周りに人がいなくなる。


「よし、俺達も行くか…」


結局指輪を片手分外したレイが先頭を切るように言う。その横にティアル、少し後ろにビスティス、さらにその後に三人がついた。

今回討伐しなければならないアスカルをレイとティアルは何度も倒している。時には依頼で、時には道中に現れた敵として。

はっきりと言ってしまうと見た目の割に弱かった。それはレイとティアルの共通の意見である。正直、この森林に元々いる狼型の魔物――ロクエナの方が群れをなして行動するので危険だ。

今回のメンバーはB級以上の面子の集まりだ。アスカル程度ならさらっと倒すだろう。何匹というノルマも無い。この森林からアスカルが消えるのも時間の問題だ。とっとと片付けよう。

そう思った矢先。目の前に少し大型のアスカルが現れた。こっちから探そうとしていたので願ったり叶ったりだ。


「…げっ!」


しかし、レイはアスカルの後ろを見て咄嗟に後退する。

アスカルの後ろに五、六匹の連れがいたのだ。レイはこれを想定していなかったので、着けている指輪に範囲系や遠距離系の魔法が無い。後の四人とは戦闘では致命的な距離を離れてしまっている。ここはティアルに任せるしかないようだ。


「任せて」


ティアルが言い、レイの前に躍り出る。そして腰に携えている杖を取り、素早く詠唱する。


「天が導く水の大海原(おおうなばら)よ。

我に力を、その水に()ぜりを与えたまえっ!

水源爆弾(ウォーターボム)!!」


杖の先にあったいくつもの水の球体がアスカル目掛けて飛んでいき、巨体に当たっては弾ける。ティアルのセミロングの赤髪がそれにより激しく宙を舞う。

全ての水が弾けた時、そこにいた敵はいなくなっていた。しかし、その横からまた敵が出てきた。今度は一匹だが、先程の奴らより一回りは大きい。


「よっしゃ!今度は俺の番だな」


にししと可笑しな笑い方をしながらレイが前に出る。それに合わせ、右手の中指にある白色の宝石がたちまち光を放ち出す。

アスカルがどんどん迫っていく。それを見ながら、レイは右手を握り拳を作った。

魔物との距離が縮まる。後十数メートル、そして五メートル、遂にその巨大な体が宙を舞い、レイを明確な殺意を持って殺しにかかる――。


「ほい、方向反転(カウンター)あぁっ!」


力強い掛け声と共に引き絞られていたレイの腕が前方へと唸りをあげる。人の腕から出されたとは思えない程重厚な打撃音が辺りに鳴り響き、アスカルは仲間と同じくレイにやられ一瞬で消え失せた。


「…す、すげぇ…」


後ろから小走りで追い付いてきたビスティスが感嘆する。レイは元々強いと分かっていたが、ティアルがこの一年でここまで強くなっている事に驚きを隠せなかった。

後の三人も当然、口をあんぐりと開けていた。

普通より大きなアスカルを倒したレイは拳を緩めプラプラと揺らしながらティアルに声を掛ける。


「ふぅ…助かったよティアル。サンキューな」


ビスティス達と同じくらいまで下がっていたレイがティアルの横に並ぶ。レイは微笑み、ティアルの頭を軽く撫でた。


「さて、と。また探索か…」


レイが独り呟くと即座にティアルが反応する。


「また探索か……じゃないでしょ。また遠距離系の魔法の指輪外しちゃって。気を抜いてると何時かやられちゃうよ」


その言葉にレイの動きが瞬きの間ほど止まる。


「……以後、気を付けます…」


どっちが保護者の立場か分からなくなる会話をビスティス達は生暖かい目で見ていた。








その後も捜索を続けたが結局見つからず。六人は捜索を一旦中止にして昼食を取り始めた。

ちなみに、昼食は支給品として珍しく出たカレーだ。

一般的な支給品は怪我をした時の薬品や包帯、食料では干し肉だが、この依頼人は随分太っ腹らしく世に余り出回っていないレトルトを支給してくれた。

これには流石のレイとティアルも驚き、味わって食べている。

カレーの美味しさに浸っていると、少し離れた場所で休んでいるサターニュ、デストラ、アルトからヒソヒソとした声が聞こえてくる。



「あいつ、何でレイさんと一緒に旅してんだろうな」

「あいつって確かティアルちゃん、だったっけ?確かに強いけど…」

「でも、まだまだレイさんには届かないぜ…」



内容はどうやら嫌味らしい。

こんな時くらい止めてくんないかなぁ……と願っても叶わない願いを心に押し止めるレイ。

カレーに集中しているティアル。

この二人はあちらから聞こえてくるものを全く気にしていなかった。


「――なぁ、あれほっといていいのかよ…?」


カレーも食べ終わり暇になったのかビスティスが小声で聞いてくる。それに二人はアイコンタクトをし、同時に首を縦に振る。


「別に気にすんなって。――いつもの事だ、問題無い」


そこでレイは言葉を区切り、少し俯く。


「でも……やっぱりパーティに入れるべきではなかったな。だって、」


「――パーティには信頼と実力が伴うやつが必要であり、その他は適当では無い」


レイの言葉を遮りティアルが告げる。その事にレイは一瞬目を見開いていたが、すぐに表情を戻しビスティスに向き合った。


「そう。だから、あいつらは相応しくなかった。やっぱ他の奴ら誘うべきだったなぁ…あ~あ、しくじったわ」


あー、うー、とよく分からない擬音を発しているレイを見てティアルは柔らかく笑い、ビスティスはバツが悪そうに頬をかいた。

そして、そういういい空気の時に限って、悪いことは大きく聞こえるものである。




「もしかしなくても、あいつレイさんのお荷物だし、はっきり言って絶対迷惑だよなぁ」





「――っ!!」



ティアルが大きく体を震わせる。


「ティアル、気にするな」


冷ややかなレイの台詞。ティアルが顔を上げると、レイは発言者達を殺気に近い怒りの眼差しで見ていた。

このままじゃ不味い。

咄嗟にそう感じたティアルは音は立てず、しかし勢い良く立ち上がる。


「――ティアル。どうした?」


先程より幾分か和らいだ瞳でレイがティアルを射抜く。

それに狼狽えることなく、ティアルは言い放つ。


「何で、もない」


「嘘だな、絶対」


「だから、何でもないって…」


ここから離れようとティアルは試みる。しかし、いつの間にか握られていた手がそれを防いだ。

レイはいつ手を握ったのだろう。それすら今のティアルは考えられずにいた。ただただ、深い悲しみが心を支配している。

ここから離れなければ。

ここから、消えなければ。


「離して」


ティアルは鋭く放つ。


「嫌だね。こんな不安定なティアルを一人に出来るわけがない。分かってんだろ……」


不安定……?私が?

内心ティアルは首を傾げる。

違う、私は乗り越えた。

あの過去とは決別した。

今の私は、昔の私とは……違う。


「離して」


もう一度放つ。

しかし、


「嫌だね」


レイも変わらなかった。

ティアルは唇を噛み、レイに見えないようにそっと杖を握る。そして、


「―――――!」


極小量で何かを呟く。

それに気付いたレイは咄嗟にティアルから杖を奪おうとする。しかし、それより早くティアル自身が光を放ち、次の瞬間にはそこから消えていた。


「…………マジかよ…」


レイのその声は虚しく霧散していった。





「始まりの旅路の果てに」前編、読んで頂きありがとうございました。


初めての投稿物なので皆様が満足して頂けたかはさておき、とりあえず書き終わりました(๑´ㅂ`๑)

続きはまた追って投稿します。

私はまだまだ文章力が無いのでこんなもんです。

そこは暖かく見守って頂けると幸いです。


誤字や意見、感想はコメントの方によろしくお願いしますm(_ _)m


ではまた、後編であいましょう!

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