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道化(どうか)、僕を強くしてください  作者: chuboy
第二章 人類の最高峰、中央人王都市帝国にて
6/43


 3


「簡単に説明させて頂きました」


 そういうとラベルさんが手持ちのボードを閉じた。この国のことが僕には多少なりとも分かった気がする。王は自分の身を固めるためにこの帝国を造ったけどどうやら民さえも信頼できずに幾層に重壁で遮断したんだ。


「それではここからが王城になりますので礼節を弁えて失礼のないように御願いいたします」


 王城を前にした最後の関門は僕の容姿を反射する水面の様に磨かれたくすみのない鋼玉の輝きを持っている。かなりの硬度を持つコランダムだが重壁として細工を施した人間がいる以上無敵ではなにのは明確なのだ。実際のところ“特務軍隊”の門番がいる扉は見た目ばかりのお飾りにすぎないのだと思う。


「この先に国王が?」


「はい。階段を上って頂く形になります」


 ユグドラとは王城の一階に繋がっている。ユグドラの一本道は城下町フォースから始まり、第三中域サード王都セカンド王城ファーストと通過していくわけだ。ただの廊下という狭い区画さえ文化・発展の差は歴然だった。


 装飾品の差、建物としての見栄えと存在感。その場をもたらす雰囲気に圧倒されて王城ここまで歩いてきたのだけど、それは人工物と自然物の調和をもたらしている。

 クリスタルをはじめとした水晶・宝石の彫刻の品に。“竜の花”と言われる気温、湿度、日光の三大条件が一致をしてその花弁を表す珍しい花。雪を降らして造った雪の人形を年中、冷涼に管理したりと絶対的条件がすべて狂いなく調整されていた。


 それは“調和”と言うより“支配”にも相応しいのかもしれない。螺旋の階段を登りゆく途中、全国より献上された秘宝の数々は、人類の底知れない欲と心の闇を光でひた隠していた。


「アマト、一回深呼吸をして落ち着きましょう」


 僕がどんな表情に沈んでいたかは分からないが、そんな僕のすぐそばで助けてくれる人がいる。リリィは僕と一緒になって深呼吸をして最後となる“黄金の門”の前で立ち止まった。



『国王に通達いたします。タツモリ=アマト、ジルヴェランド=リリーナをお連れしました』



 ラベルさんが先だって門に手を掛けた。

 ついに扉は開いた。この大帝国を治めるトップ。その姿を前にするのは一般人に取ってどこまで光栄なことらしいのだが……。僕にはそのありがたみを理解できないまま、王間へと誘われた。


 ――大空が落ちてきたのかと錯覚した。


 王間は日の光を鮮やかに折り曲げ、蛍光のカーテンがステンドグラスの導きより照らし出される。そして入り口にいる僕らから王座まではまるで遠い。気配だけを追ってはたどり着くことは出来まい。

 入り口から王座へのレッドカーペットを最強の見物人が挟んでいた。

 “大狼”の肩章を持つ軍服の連中が参列し、王座を見ればその地位を感服しようが、気配だけでは王位は簡単にくすんでいた。


 特に王の前に構える二人の軍服。男と女の二人は正対しているだけで僕の全身には鳥肌がたつ。


 ――“竜”の肩章を持つものだ。


 そこには性別も体格も関係のない内に秘めたる“才能”だけがすべてを凌駕する世界。

 このメンツで戦争でも起こそうものならこんな帝国の設備はおもちゃのように崩壊するだろう。互いに力を収め合う空間がそこに出来ていた。

 まさにエリート軍隊。今までに城壁の一つも破られたことのないにも関わらず、この帝国はもっとも王座に近い場所にこそ“それ”を置いておきたいのだろう。


 ――なんという“宝の持ち腐れ”なんだろうか?



『よくぞ、我が帝国へと来てくれた。一度に二人の英雄を迎えるのは帝国歴史上初めてだ。ぜひとも我、そして我が国を頼むぞ』


 王は強かに告げた。

 

 王位に求められるものは他にない。


 ――ただその血筋のみ。


 生まれたときにすべてが決まるのならそんなに退屈でそして安定してことはない。

 王位に必要なのは生まれ持った“運”。――否、“産ん”でもらえた事こそがこの世で最も最高なことなのだ。


 その一言だけで歓迎は終わった。

 次々と解散していく“大狼”の肩章を持つ者ども。

 王に敬意を持っているのかもはっきりしないほど、自由に王間を抜けていった。すれ違うたびに存在感は凄まじいのだが隣のリリィはそんなものを完全に無視している。


 “二人の英雄”と口にしたからには僕はこれから彼女と比べられていくのかもしれない。

 リリィにとっては僕などではなく、“彼ら”こそ目が離せないのだろう。


「まるで首筋を刺されたみたいだね」


 僕はリリィにそうやって呟いた。しかし、リリィはそんな近くの言葉さえも蚊帳の外で柄に手が自然と伸びている。


 “大狼”の軍服が全員去った後、“竜”の二人がジッと僕らを見ていた。


 その片方“見た目だけ”が小柄な少女が歩みを進める。なぜか分からないが彼女は殺気を充満させていて僕らは息を詰まらせる。だんだんと距離が近づいてきた。


 ――その一瞬。


 後ろの長身の男の姿が弾け飛んだ。


「――やっぱり、触りたくなっちゃうんだよね」


 その男の声はすぐ近くで聞こえた。そう、リリィが剣を構えていた位置で。

 “竜”の軍服男の腕はリリィの心臓を――――、正確にはリリィの左の果実を鷲づかみにしていた。それは女性だけがもつ神秘のお宝。強く握られたそれは服の上からでも形をワガママに変形させていた。


 ――くっ!


 一拍遅れてリリィは居合いを放ったが当然にもそれはかすりもしなかった。


「動きがかたすぎだよねぇ。…………おっぱいは柔らかかったけど……」


 僕の目からも見えて対応が悪かったと思う。まず見え見えの殺気に気圧されていて判断を誤っている。そして、僕の位置から見える首筋の光。これは冷や汗が反射しているんだ。

 つまり彼女は相手の力量にはなから怖じ気づいていたのだ。それほどまでに偉大な存在と対峙している。


「平等にしないとね。次は右のおっ…………」


 男が再び前傾姿勢を構えたとき、左肩には華奢な手が伸びていた。少女の美白で美しくて繊細そうな手。その手に男を止める力なんて微塵もないように見えたが……。


「調子に乗るなよ。エロガキっ!」


 鼓膜を奮わすのも可愛い声なのだが男が蹴り出したはずの床からは宙に浮いていて片手一本で男は持ち上げられていた。


「いやいや、恐いよっ! ”シャエル大将“。大丈夫だよ。何年かすれば大将にもおっぱ―――――――ギャアッァァァッァgyァyァgyァgyxガッヤ」


 男はきれいに投げ飛ばされた。このように王間で好き勝手できる軍官こそ特務軍隊“大将”を務める“竜”の肩章を持つモノらしい。可愛らしい外見をしておぞましい力を内に秘めているのをひしひしと感じる。



「“ラグナ大将”が下劣な事をしてしまったようだ。すまない」


「いっ、いえいえ…………」


 僕はシャエルさんは良い子だなぁと苦笑で返事を返したのだがリリィは未だにどこか警戒を解き切れていなかった。未だに剣を握る手が震えていて――、止まらない。


「リリィ、どうしたの?」


「ごめん、なんでもないわ」


 リリィの気持ちはなんとなく察せた気がする。もしも彼ら“竜の軍兵”と対峙することになれば殺されていたと。左胸を掴む行為は敵であれば心臓を握りつぶすことに等しい。なんも抵抗もなくリリィは崩れ落ちる。


 でもそんなのは“敵対した”と仮定したときである。どうにも気に掛けることでもないのになぁ、と僕が口を出す前に、


「――これから強くなれば良い」



 シャエルさんはそうやって言ってしまったんだ。


 すると僕らの間を割って通ってシャエルさんは王間を出て行く。


「これからアマトとリリーナの特務軍隊の配属を聞きに“元帥”の元へと行く。王城の地下一階へとついてきてくれ」


 僕はシャエルさんのその小さくて大きな背中を追うと、リリィは一つ大きな深呼吸をして、


「王様、これからよろしく御願いいたします」


 “特務軍隊”の中でただ一人、王に敬意を持って仕える事を誓い退室した。









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