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馬車から荷が降りて、ようやく大商売通りに入ろうというのに、シガーンの射術を見た傭兵が既に僕らを目で追う。傭兵が統一して身に羽織るのは朱のマント。
獅子のエンブレムが刺繍されて見るからに威圧的で好戦的。隠れる気のさらさら無かった連中が事件が起きる一歩手前で、ド派手に現れたのだから拘束された男は度肝を抜かれただろう。
一瞬の出来事を一つずつ解析するならば、まず大きな男が商人に対して無理な要求をしていた。それに応じなかった商人に対して、刃物を振りかざしたところにシガーンの弓矢が放たれた。それが届くまでに何者かの攻撃が刃物を遮ったのだった。
英雄シガーンの得意とする早撃ちの【光陰矢】に勝る早指しの一手に刃物を奪われると、牙を抜かれた大男は三人ほどに囲まれて、無力化させられた訳だ。
――強き者から一瞬にて、弱き者に落ちるのはさぞ拍子抜けに違いない。
そして、その集団こそが朱のライオンズという訳だ。
僕から見ると率直に行って格好良い。孤立して最強というのは圧倒的な強さを持つことなのだと分かりきっているのだ。だけど集団の強さには補い合う協調性と信頼、励みと競い合いが一人一人を強くしていくのだから、何よりも淋しくないはずだ。一人が崩れ、例え、ドミノ倒しになっていったとしても、僕は強さよりも話し相手が欲しかっただろうな。
人語を話せる最強の竜に育てられたなんて、どれだけ恵まれていたのか。師匠に感謝しきれないくらいだ。
「………………まとっ! アマト!!」
「あっ……あぁ、どうした、シガーン?」
「何を思い浮かべてニタニタしてたか知らねぇがよー。……俺たちさー。敵しされてんじゃねぇか?」
「いやー、そんなことあるわけ………………」
黙想して研ぎ澄ます僕の“感受”が敵視…………、というより滾る闘志を受け取った。その方向へと目を向けると言わずもがな、それは朱の連中達と視線がぶつかった。
数キロ先の白のグローブの手招きが僕らへの挑戦状だった。この距離なら今から引き返せば、十分に逃げられるだろう、もしくは人混みに混じってしまえば良いんじゃ無いかと。
「呼ばれてるのはシガーンだけだよね?」
「俺は弓使いだぞ。近付くメリットなんてなんもねぇだろ?」
「でも、僕はなんもしてないよ。攻撃したのはシガーンの独断でしょ?」
「お前が手の届く範囲なら間違いなく、止めにいっただろ?」
「――男なら、バシッときめねぇかっ!」
それは芯の張った女性の声。それとともに地面がゴゴゴッと地鳴りを始めている。それと同時にシガーンの顔がやや青ざめたのが分かった。
「この声って…………」
心当たりがあるのはシガーンだけで僕には全く見当もつかない。シガーンの旧友と予測する。
「この声に聞き覚えが…………」
「「うおっ!?」」
シガーンと僕、男二人が同時に発声したのは地鳴りがついに地面を割ったから。
地面から姿を見せるのは――鎖。陸を泳ぐかのように地面に消えては現れてサメのように僕らの回りをうろつく。
「この技は……間違いねぇな。来るぞ!」
シガーンの納得とは裏腹に僕は巻きこまれる一方で今、なぜか鎖に背中を追われています。地を砕く鎖をまともに受ける気にもならず、ついに回避行動を始めた。五本の鎖が蛇のように逃げ道を回り込み狼のように食らいつく。誘導されているとは知りながら、僕らは国の裏道の石畳をひたすら走る。
「なぁ、シガーン! 人間界の鎖は生きてるのか?」
「んなわけ、あるかぁ?」
背を見れば、生きてるようにしか思えない獰猛な鎖と追いかけっこ。
だんだんと日も通らないような裏路地まで走るとそこにあったのはゴールテープ。
――ではなくて、待ち受ける鎖。
「【龍聖っ】」
得意な大打撃を見せつけると鎖はバラバラな鉄破片へと姿を変えた。
「やっぱり、鎖は生き物じゃないね」
僕は鎖が生き物では無いことを証明して見せた。




