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道化(どうか)、僕を強くしてください  作者: chuboy
第四章 改編の開戦
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 2


 僕の眼下で鋭利な気配がうごめいた。銃撃戦の“科学”という力。そして、“才能”という“英気“がにらみ合う。実弾による物理的交錯も時間の問題だ。


 先手を構えたのは、突如、林道から射出される魔導弾――岩のつぶてだった。

 次弾の連装スピードが速く弾丸は自然界の産物で薬莢要らず。連射に優れた黄土色の弾幕が視界を覆った。

 突然の砂礫の雨と岩石の投擲。

 巨大の機械兵を狙うシガーンの額に汗、手元に焦りが浮かび顔を歪めた。

 それでも、射線を浴びた表舞台で敵を射抜こうとするシガーンの眼光が誇らしいものだ。


「【光陰――――】…………っち」



 ――ピンッ!!



 光速の一矢は射線を外し、遥か遠くの山道に狙いを研ぎ澄ます。礫の障害に抵抗を受けながら矢は飛来していった。射線は当初より大きく外れて射抜かれた。


『ドリルエント博士。弓使いはストーンエッジブラスターに阻まれて射線を大きく外しました』


『いいえっ! 【防護シールド】を起動っ!』



 すると機械兵に向かって射線が綺麗なアーチを描くと右肩に向かって矢は届く。時間にして五秒ほど、光芒を纏う一閃が遠く遠くの標的を逃さない。


『――【防護シールド】を起動します』


 機械兵の翡翠の輝きが、その巨体から膨張するとシガーンの放った矢と反発した。シガーンの矢は消滅して高濃度のエネルギーに鉄芯もろとも気圧された様だ。


 僕には翠の衝撃に森の緑は塗り替えられるような気がした。“英雄”二人をその気にさせれば、予報には血の雨が降ると言える。その一方で攻防というのは言葉足らず、一方的な弓の狙撃に対して反撃が来ない。


 ――打ち上がった砂礫の大小は僕らの方へ飛んでくることはなかった。


「おっ、おい…………ぜんぜんこっちに飛んでこないぞ」


 まず先にと、喉をごくりと鳴らして、コウノーシャは表情を曇らせた。僕も疑問を抱いてた点だ。岩の瓦礫は上空に姿を現したのちに……、そのまま地表を落ちていく。

 コウノーシャは大斧を振りかぶって、打ち返すように全身を引き絞るのだが弾丸が攻撃する様子を見せない。最も滞空時間のは真上に上げることだ。それによって注目を集めているのであれば、


「――あの岩も陽動かっ……」


「だったら、敵の目的はなんだ……?」


 シガーンとコウノーシャは同時に口を閉じて、思考に八割を割いたのだ。それこそが奇襲の反応を遅らせるための敵の目的だとすれば…………、


「“混乱をさせること”が狙い…………?」


 沈黙を裂いて僕は口を開いた。


「だったら……、なぜ後手に回って防御に徹してる?」


「俺たちの動きに合わせて動いてるって言うのはなんとなく察せるが…………」


 僕の耳には地上――――否、もっと下の地中からがさつで荒々しい音が振動した。まるで、足音のような。そして摩擦で服がすれるような音がだんだんと近付いてくるのだ。


「そうじゃないかも………………。僕らが防御と思っていた動きが攻撃への準備だとしたら………………?」


 より深く考慮すること、それは敵の意図にまんまと嵌まることだと分かっていたはずなのに――。


「あの巨体の光、収まるどころか強くなってねぇか……?」


「はじめから防御のつもりではなくて……、攻撃のつもりなら――“予兆”!?」


「護衛部隊っ!! 一時の方向から超エネルギー反応っ! 攻撃の兆しありっ! 衝撃に備えろっ!!」


 コウノーシャの“大尉”としての指揮は“帝国兵”に唐突の緊張感をもたらした。それは今までではあり得なかった“防御の指示”。攻撃を未然に防ぐ狙撃に失敗した。

 それだけで大いに全身を強張らせた。なにも無理はない。彼らは国民と――紙一重。


 違いはただ一つ。軍服を着てるか否か。そこに肝の据わった覚悟を着せることも威厳も誇りもない。ただの優越感の服を見栄っ張りの“無地”を着飾っていただけなのだ。

 国民を護ることなど、ままならない。まず先に“自分を優先する”そんな欲まみれな兵士ということは僕はよく知っている。


「――――まったく、間に合わないねっ」


 もうすでに生死の境は開いている。僕の肉眼にははっきりと映った。“翡翠の巨騎士”が右手に槍を構えて研ぎ澄ますその刺突。その先には神々しいエネルギー体が渦巻いていて吸い込まれそうなほどに輝いている。


「コウノーシャ。諦めていったん回避だ。とんでもないのが来るぞっ」


「シガーン。お前は降りろ。攻撃をされる前に兵士が崩れていては示しがつかんだろ。“英雄”である以上、見栄を張るのも仕事だろっ」


 僕にはコウノーシャの背中がとても大きく見えた。それはこんな“クズの城門”にはもったいないほどの大きなせなかだ。


 クズを一瞬で浄化できそうな深緑の彼方に対峙する磨き込まれた金属の鎧と鍛え込まれた筋肉の鎧。


 激突は必至――避けることは不可避。


 コウノーシャは大斧を引き絞ると同時に“翡翠の騎士”は遥遠くで狙いを澄ませた。コウノーシャの肉眼にはそんな遠くの微細な動きなど把握していないだろう。

 ただ、歴戦の直感が気高く奮い立たせ敵を穿つ。



「シガーン、降りよう」


 コウノーシャの覚悟を前に僕はシガーンに問いかけた。


「…………」


 僕が先に飛び降りるとシガーンはコウノーシャについては何も言わず、僕の後に続いて城門から城下町フォースへの内地へと飛び降りた。

 “英雄”には造作もない高さだが帝国兵は我先にと階段を降りようと詰まらせていた。僕は普段のごとく無視をしたのだが、シガーンも今日は気が立っていたのか、


「チッ! お前らのためにコウノーシャが犠牲になるのかよ」


 相棒の姿を前に一つ舌打ちを鳴らすと悪態をついた。



 僕らが着地した直後――一瞬にして、光の世界が広がり流星が爆発したように城門の亀裂から光が漏れだした。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 アマトが見た敵の巨槍兵の中では、今もシステムの現在進行形で調整が進められ、より精度の高い熟練兵へとパフォーマンスを上げていく。


『ドリルエント博士っ。【ロストブレイブピアス】エネルギー伝導率75.2%。ターゲティングから誤差0.1%。城壁への直撃を確認しましたっ!! さっ…………作戦成功ですっ!』


『そうですね。ただあくまで今の奇襲が成功したまでです。ここからが正念場ですよ』


 操縦士たちは初の“英雄”への撃退を示したことに、今までにない歓喜の声で湧いていた。その中でただ一人――“開発者”のドリルエント博士の年相応の笑い皺はぴんと張り詰めていた。めったに前線に立つことのない研究職の博士にとって、敵といえど人を殺すことは何も面白くない。


『出来れば今の一撃で降参して欲しいですがね…………』


 罪を免れたいのか、博士の本音は喜びの声に掻き消えた。





 ――――…レイドくん、レイナくん。せめて突撃部隊だけでもきっちりと生還して下さい。

 “英雄”を前に敵に情けを掛ける余裕など、我々の力では到底及ばない。









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