勇者じゃないですよ
「ただいま。」
靴を脱いで部屋へと急ぐ。
部屋に入るなり、鞄を机の上に投げ、ゲームを起動する。
テレビ画面に表示されるタイトルは、昨日発売したばかりの新作アクションRPGゲーム〝ブレイブトリガー〟。
大体のRPGゲームの主人公は剣を武器として使うけど、このゲームの主人公は銃を武器として使う。
モンスターを銃で倒すアクションも面白いし、モンスター倒してレベルが上がると、HPや攻撃力などのステータスが上がるのはもちろん、射程距離が伸びたり、リロード時間の短縮とか、扱える銃の範囲が増えたり、必殺技を覚えたりする感じでやり込み要素もある。
昨日始めたばかりだけど、どはまりして、今日は授業中このゲームのことばかり考えてた。
さあ、今日もモンスターを狩りまくるぞ~。
・・・
「えっ」
まばたきする間に、目の前の景色が一瞬で変わった。
目の前にあったテレビやゲームは消え、代わりに見えるのは白い壁だ。
足元には漫画とかよくある魔方陣らしきものが書いてある。
「成功だ、やった!」
声の聞こえる方を向くと、茶色いローブを着た15歳くらいの女の子が立っていた。
あっちょっと可愛い。
って、そうじゃない。
「ねえ、キミ、ここはどこ?僕さっきまで自分の部屋に居たんだけど。」
「あっ、申し遅れました、私はトト・アイリッシュと言います。ここはお城の中の私の研究室です。私があなたを異世界から召喚したんです。」
召喚!
そんな漫画やゲームみたいなことって・・・。
いやでも、この状況からして本当に異世界に召喚されたのかな。
「ねえ、僕って、その、勇者的な感じで呼ばれたの?」
「そうですよ。ああ、本当に良かった。」
トトさんは嬉しそうにしている。
「いやいやいや、僕普通の高校生だよ。特に特別な力を持ってるとかじゃ無くて、むしろクラスの中でも運動神経悪い部類だし。そうだ、他の人と変えてもらった方がいいよ。僕もゲームやりたかったし、元の世界に帰してもらえないかな?」
「すみません、それはできないんです。こっちの世界に召喚する魔法はあっても、元の世界に帰す魔法は無いんです。」
「えっ、そんな・・・。」
そんな、元の世界に帰れないなんて。
父さんや母さん、友達の皆とももう会えない、そう考えると涙が溢れだしてきた。
「ごめんなさい。私が勝手にあなたを召喚してしまって。その、この世界も悪いものでもありませんよ。そうだ、私ができる限りあなたをお世話しますので。」
トトさんがあたふたしている。
僕は涙を拭った。
「ひっく、もう帰れないのはわかった。でも、本当に僕でよかったの?勇者ってことは魔王的な何かを僕が倒すんだよね?」
「はい、今私達の国スティリアは隣にある魔物の国バリアルと戦争しているんです。状況は悪く、かなり劣勢なんです。その状況を打破するためにあなたを召喚したんです。」
「いやいやいや、やっぱり僕じゃダメだって。すぐに殺されちゃうよ。」
戦争なんてとんでもない。
なんとか行かなくても済むようにできないかな。
「そんな・・・取り敢えず、私と一緒に王様に会ってください。」
トトさんは僕の右手を取って、引っ張る。
女の子の手って小さくて細いな。
って引っ張られてここを動いたらと思うとヤバイかも。
僕はとっさに抵抗していた。
「ん~。はあ、はあ、はあ。お願いします、どうか。」
トトさんは頭を下げる。
「いや、そんな、僕なんかに頭を下げないで。わかったから。」
「ありがとうございます。」
トトさんは少しホッとした顔をした。
「すみません、そう言えばまだお名前を聞いてませんでした。教えてもらえませんか?」
「あ、そうだね。僕は宇佐美大和。よろしくねトトさん。」
「ウサミヤマトさんですね。やっぱり異世界の人の名前は変わってますね。姓と名はどう分けるんですか?」
「宇佐美が姓で、大和が名だよ。」
「わかりました。ではウサミさん、行きましょう。」
僕はトトさんに導かれるように部屋を出た。




