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32・吸血鬼たちが暴走したようです

 私は、自身のあり方に迷っている。


(これで本当に正しかったの? シュリの隷属になることが正解だったの?)


 吸血鬼であるシュリは、私を好いている。それは吸血鬼としての本能的なもので、心変わりは一生しないらしい。

 そして、彼ら吸血鬼の愛は重く、独占欲は異常に強かった。

 吸血鬼ハンター協会側は、吸血鬼たちの習性を利用して、彼らを味方に取り込んでいる。


 シュリへの愛情があるかと問われれば、はっきり「そうだ」とはまだ言えない。

 彼のことは仲間として大切に思っているし、以前のように「吸血鬼」というだけで嫌悪するようなことはないが、自分の気持ちが彼から向けられるものと同質だとは思えなかった。

 迷いを持ったまま私は就寝し、次の夜を迎える。

 私が目覚めた時、吸血鬼ハンター協会内部は慌ただしかった。珍しく、シュリもいない。


「……何かあったの?」


 部屋の前を通りかかったリコを捕まえて尋ねると、彼は深刻な顔で詳細を教えてくれた。


「街で大規模な吸血鬼被害が出た。主犯は純血の吸血鬼……やつらによる被害が今も続いている」

「純血って……まさか、レオン?」

「いや、違う。あいつは協会に味方して、事件を止めるほうに回っている。それでも歯止めが効いていない」

「一応、彼はこのあたりの吸血鬼達のトップでしょう? なんで、そんなことになっているの?」

「見返りに目が眩んだ一部の若い吸血鬼達が、勝手に暴走しているんだよ。事件の元凶もまたカリスマ性を持つ純血だから……しかも、現当主より経験豊富だ」

「どういうこと?」


 首をかしげていると、廊下の向こう側に戻ってくるシュリの姿が見えた。

 戻ってくるなり、彼は一級ハンター全員に出動命令が出たことを私に告げる。


「アデーレが暴走したみたいなんだ」

「……えっ? アデーレ?」

「昨日の今日で何事かと思うけれど、もともと彼女は人間と吸血鬼の連携を好んでいないし、人間は単なる餌だと思っている……それから」

「それから?」

「どうやら、昨晩レオンとの間に何かあったらしい。口論になって、アデーレがレオンを困らせようと暴走したみたいだ」

「なんて傍迷惑な」


 とりあえず、一級ハンターと二級ハンターには出動命令が出ているようだ。

 一度部屋に戻り準備をした私は、シュリを伴って外へ出た。生ぬるい風が着物の裾から覗く肌を撫でる。

 街中に、血の匂いが充満していた。


「二級ハンターは通常の吸血鬼狩り、一級ハンターにはアデーレを止めるよう指示が来ているみたいだね」

「アデーレを止めるって、どうやって? 傷つけたら、吸血鬼と協会の関係が悪化するからまずいんじゃないの?」

「いいや。当主であるレオンが、こちら側についているから問題ない。彼自身がアデーレの討伐に賛成している」

「討伐って……! 自分の婚約者なのに?」

「愛し合っていない吸血鬼同士なんて、そんなものだよ。体裁を重んじる人間とは違う」

「でも、アデーレは……」


 きっと、レオンのことが好きだと思うのだけれど。


(私の思い違い?)


 普通は、愛している相手をこのように振り回したりはしないはずだ。

 街へ出た私とシュリは、二級吸血鬼ハンターをサポートしつつ、主犯のアデーレを探す。

 レオンや彼に従う吸血鬼達も、同じく彼女を探しているそうだ。

 アデーレは夕暮れ時から活動を始めたらしく、すでにかなり派手な戦闘が始まっている。

 街のあちこちに、アデーレに従う吸血鬼達が堂々と姿を現していた。

 シュリ曰く、この街の吸血鬼達だけではなく、アデーレは他所の土地からも吸血鬼達を引き連れて来ているようだ。


「純血の血を与えることと引き換えに、アデーレは吸血鬼達を好きに使っているんだよ」

「こんなにも、吸血鬼はたくさんいたのね」


 吸血鬼を見分けることは、隷属となった私にとって簡単だった。

 もともと、気配である程度は分かる……


「普段は人間に紛れて生活しているけれど、バーグには吸血鬼が多いからねえ……他所のも混じっているし」

「アデーレは、どこにいるのかしら」


 街の中心部を回り終えた私たちは、ハンター協会からの指示に従い東エリアへと移動する。

 そこは倉庫街となっており、吸血鬼達が潜むにはもってこいの場所だった。


 薄暗く細い道を歩いていると、不意に何かが複数飛んできたので、隷属の敏捷性でそれらを全て躱す。

 同時に刀を抜き取った私は、それを飛来した物体へと突き立てた。

 石畳に落ちてきたのは、二人の吸血鬼だ。片方は、シュリが仕留めたらしい。


「サラ……近くに、いるよ」


 シュリが示すものが何なのか理解した私は、より一層警戒心を強める。

 すると、石畳の向こうにゆらゆらと揺らぐ影が見えた。

 その影は、足音一つ立てずに、こちらへ近づいてくる。夜風に吹かれて、金色の絹糸のような髪が妖しく舞った。


(アデーレだ……)


 月光を反射する人間離れした銀の瞳が、まっすぐこちらに向けられている。

 夜目が効く私には、彼女の口元が真っ赤に濡れているのが見えた。近くで、食事をしていたのだろう。


「ふふ……やぁーっと、会えましたわ」


 親しげに走り寄ってくるアデーレだが、私はその場から後退し彼女から距離を取る。

 直前まで私が立っていた場所が、彼女の爪によって深く抉り取られていた。


「あら、残念……素早いのね?」


 私をかばうように、シュリがアデーレの前に進み出た。


「一方的に僕の隷属を攻撃するなんて、どういうつもり?」


 見えるのは後姿だが、シュリが猛烈に怒っているのが分かる。


「そちらが悪いのでしょう? 他人の婚約者を誘惑したのですから」

「サラは僕の妻だ。レオンが一方的にサラにちょっかいを出しているだけで、サラからはアイツを誘惑していないよ」

「それが許せませんの。元人間の分際で、二人の吸血鬼を手玉に取って……」


 アデーレの目には、明らかな憎しみが見て取れる。昨日の彼女とは、まるで別人だ。


(一体、何があったのだろう……)


 戸惑う私に鋭く伸びた爪を向け、アデーレは再びこちらに突進してきた。

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