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25・吸血鬼の考察

リコ視点、補足回です。

(面倒なことになった……)


 俺、リコ・グリュンカッツェは、若干げんなりしながら自室へと戻った。

 両親ともに吸血鬼ハンター協会で働いている環境で育った俺は、物心ついた時には協会内で働いている。

 主な役目は、吸血鬼と人間との折衝役。

 協会内で働く吸血鬼達の世話係と言った方が良いだろうか。

 この場所で生まれた未婚の吸血鬼の多くは、俺と同じ仕事をしていた。


 吸血鬼という生き物は、とにかく身勝手な奴が多い。

 特に協会の外で育った奴らは、同族である俺でも理解できないような仰天行動をする。

 彼らの多くは幼い頃に母親を亡くし、厳しい環境下で人を襲って生きてきたのだ。守られてぬくぬく育ってきた俺には、きっと一生理解できない部分もあるのだろう。

 吸血鬼は、血の合わない人間を適当に攫って隷属にし孕ませてしまうので、吸血鬼の母体は相手の血の副作用で長生きができない。


 そんな吸血鬼達が改心して……或いは安定した餌を得るために協会で働き始めたとしても、身に染み付いた習性というものは簡単には消えない。

 そのせいで、なにかと人間とトラブルを起こす。

 外で育った吸血鬼の多くは、人間の考え方を理解できないのだ。

 俺が人間の考えをある程度理解できるのは、元人間の母親が一級ハンターとして長生きしているのと、協会内という特殊な環境下で育ったせいである。


 今、俺が面倒を見ているのは、二組の一級吸血鬼ハンターのペアだ。

 吸血鬼の名門、ジルヴァフィクス家の息子であるシュリと、吸血鬼討伐件数が五千というハンターのサラ。

 紳士ぶっている割に自由気ままな吸血鬼らしい気質のユーロと、ヤヨイ国の権力者の娘である世間知らずでお上品なナデシコ。

 かなり個性的な顔ぶれだ。

 ヤヨイ国という田舎で成立したこのペア達なのだが、彼らも例に漏れず手がかかっている。

 けれど、元人間であるハンター側が割と友好的なので助かった。


(徹底的に嫌われてしまえば、手を貸してやることもできないし……)


 しかし、吸血鬼を徹底的に憎み、軽蔑するような人間は割と多い。


(まあ、無理もないけど)


 敵である吸血鬼を憎まないハンターなどいないのだ。

 人間が吸血鬼ハンターになる理由の多くは、「身内を殺されたから」……らしいし。


 でも、あからさまに拒絶されると少し傷つく。

 仕方ないことだと割り切っていても、種族だけで差別されるのは辛い。

 その程度のことでうろたえるなんて、まだまだ若いと言われれば、それまでなのだけれど。

 実際に俺はまだ十六歳だし、長命な吸血鬼達からすれば子供同然だ。


 その点、今世話しているハンターは、非常にやりやすいと思う。

 特にサラの方は、なにかと俺を頼ってくるので、助けてやりたい気持ちにかられた。

 あまり構いすぎてシュリに睨まれるのも嫌なので、程々にしているが。


 そのサラが、ジルヴァフィクス家の現当主に目を付けられたのだ。

 よりによって、吸血鬼の兄弟で好きな相手が被るという、ややこしい事態。


 通常、血の契約を行ない、隷属になった者に横恋慕する吸血鬼はいない。

 主人となる吸血鬼の血が混ざった隷属の魅力は、他の吸血鬼から見て半減するのだ。

 魅力的な異性の血の匂いに、同性の血の匂いが混じる……これは、吸血鬼にとってかなり萎える事象なのである。


 ただし、隷属の魅力が半減しない例外がある。

 一つは、相手が人間の場合。

 人間は、隷属とそうでない人間の区別がつかないので、吸血鬼の血の匂いが混じろうが関係ないのである。だから、横恋慕をし、主人である吸血鬼に絞められるという事件がたまに起こる。

 もう一つは、相手が純血の吸血鬼の場合。

 純血の吸血鬼というのは特殊な生き物で、他の同性吸血鬼の血の匂いはあまり気にならない性質らしい。彼らの血は、全ての吸血鬼と隷属に有効であるということが関係しているのかもしれない。

 そんな訳で、純血の吸血鬼にとっては、隷属が誰の嫁または婿であっても関係ないのである。

 ジルヴァフィクス家当主の件も、まさしくそれだった。


 シュリの実家であるジルヴァフィクス家には、二人の純血吸血鬼がいる。

 一人は現当主のレオン、もう一人は息子に当主を譲った彼の父だ。レオンの母親は、既に他界している。

 純血の吸血鬼の周囲には、彼らを慕ったり、彼らの血を欲したりする者を中心に、世界中から吸血鬼が集まってくる。

 協会本部がこの地、バーグに建てられたのも、主に彼らのせいだった。

 吸血鬼が集まれば、それだけ事件も増えるのである。


 シュリは、もともとバーグの協会本部で働いていた吸血鬼だ。

 彼とレオンは仲の良い兄弟で、レオンは度々弟の元に顔を出している。

 同じく本部で働いていた俺とも知り合いだった。 

 だから、今回の彼の行動は、本当に想定外なのである。


(頼むから、ややこしい事態にならないでくれよ……)


 そう祈りつつ、俺は四十六階にある自室へ続く扉を開いたのだった。

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