24・吸血鬼の発言に怯えました
リコに案内されたのは、四十九階だ。
エレベーターから離れた図書室付近の部屋に、私とシュリは連れて行かれた。
「えっ……シュリと同室なの?」
驚く私にも、リコは丁寧に説明してくれる。
「一応、二人は夫婦だからね。心配しなくても大丈夫だよ。一応そのあたりは考慮されていて、部屋の中に鍵付きの個室もあるから」
彼の言う通りだった。
部屋の中には、中央に共用スペース、その両サイドに私とシュリそれぞれの個室が用意されている。
プライベートもちゃんと確保されているようで、私はひとまず安心した。
「ところで、さっきレオンが言っていた『純血吸血鬼の血』についてなんだけど……隷属って、純潔の吸血鬼の血なら飲めるの?」
質問する私に、今度はシュリが答えてくれた。
「純血吸血鬼の血は、吸血鬼に対しても隷属に対しても有効。つまり、サラの言う通り、隷属は主以外にも純血吸血鬼の血なら飲める。吸血鬼も人間以外に純血を飲める……体内に取り込むと力が強化されるから、吸血鬼達も隷属達も普通は純血吸血鬼の血を欲しがるんだ」
「……そうなんだ。なんだか良い匂いがしたから、変だと思ったのよね」
「へえ、いい匂い……ね」
シュリは、面白くなさそうに窓の外へ目を向ける。
「サラ。他の吸血鬼の血を褒めるのは、僕らにとってご法度なんだよ。相手が純血だから仕方がないけれど、ショックなものはショックだから、あまり言わないであげて」
なぜか、リコにも注意されてしまった。
吸血鬼は、妙な部分にプライドとこだわりがあるようだ。
「前に、吸血鬼同士で好きな相手が被った場合、血の雨が降るって話をしたでしょう? あれ、本当だから気をつけてね。シュリとレオンは仲が良いから、そこまで酷いことにはならないと思うけれど」
「そ、そんなの……どう気をつければいいのよ?」
個体差はあるものの、純血の吸血鬼や主となる吸血鬼とタダの隷属なら、だんぜん吸血鬼の方が強い……らしい。
私に出来ることなんて、知れている。
「とりあえず……誘惑に駆られても、レオンの血を口にしちゃダメだよ。それ、俺らの中では不倫と同じ扱いだから」
「ふ、不倫!?」
「誘惑に負けないためにも、日頃からシュリの血で乾きを無くしておくことをオススメしておくね」
「そんな……」
色々と要求が無茶苦茶だ。
「もし、嫉妬心に駆られたシュリを暴走させたりしたら、四十五階行きだから……気をつけて」
「四十五階って、この建物の迷路みたいな階よね?」
「そう。あそこは、使えなくなった一級ハンターの収容所でもあるから」
「えっ……?」
リコの話に、私はゾッとした。
「前にも、一級ハンターが飼い殺しにされるという話をしたでしょう? 四十五階に収容されると、まず部屋から出られない。出られたとしても……ずっと部屋に入れられたままの隷属は、あの迷路のような空間で迷う。そして、必ず捕らえられる」
(怖い、怖すぎる。四十五階に収容されるなんて、絶対に嫌だ!)
震える私を見たシュリが、彼に非難の目を向ける。
「リコ、サラが青くなっているよ。あまり脅したら可哀想じゃないか」
「だったら、嫁が青くならないで済むように、安心させてやればいいだろう?」
「それもそうだね。サラ、心配しなくても、暴走したりしないからね。ああ、でも……『密室でサラと二人きり』というのもいいなぁ。そうなれば、サラと他の吸血鬼が出会うこともないだろうし」
シュリの病んだ発言に、私はますます怯えた。
仕事もできなくなり、外の自由に歩けなくなるなんて、絶対に避けたい事態である。
「そ、そんなことになったら、シュリとは口をきかないから!」
案内してくれたリコに礼を言った私は、逃げるように自分用の個室へ入り扉を閉めた。
口をきかない発言でダメージを受けたらしいシュリは、部屋の真ん中で立ち尽くしていて、私を追って来ることはなかった。