23・吸血鬼の喧嘩に困惑しています
「世の吸血鬼や隷属が、喉から手が出るほど欲しがる貴重な純血の血だ。サラになら、好きなだけ与えると約束する」
無意識に、レオンの手元に吸い寄せられるように、私は歩き出していた。けれど……
「悪いねー、レオン。貴重な、純血吸血鬼様の血を頂いちゃって」
私とレオンの間に割り込むように入ってきたシュリが、彼の手を取って全ての血をベロンと舐め取ってしまった。
「おい、シュリ!? 何をするんだ、気色悪い!」
「レオン、純血の血なんて中毒性の高いものをサラに与えるなんて。そっちこそ、何を考えているの?」
「毎日好きなだけ与えるなら、中毒も何も関係ないだろう。純血の吸血鬼の血は、あらゆる隷属に有効だから、主である吸血鬼の血を飲むのと何ら変わらない」
「関係大有りだよ。サラは僕の嫁なんだ、他人の血なんて一滴たりとも与えたくないね」
シュリとレオンは、尚も言い争っている。
私は、彼らの言葉の意味を測りかねていた。
シュリが血を舐めとってしまい、抗いがたい良い匂いがマシになる。
おかげで、だんだんと理性が戻ってきた。
(純血の吸血鬼の血は貴重、そして中毒性が高い。あらゆる隷属に有効ということは……隷属は、主人となる吸血鬼以外に、純血の吸血鬼の血でも生きられるということだろうか)
とりあえず、今はこの二人を止めなければならない。
顔を上げた私は、背の高い二人をキッと睨みつけた。
しかし、争いを止めるために私が口を挟もうとした瞬間、第三者の声が割り込む。
「こら、迷惑兄弟。協会の施設内で問題を起こさないでよね。僕らのような、協会で働く吸血鬼の立場も考えてよ」
「リコ!」
思わぬ助け舟に、私は少し安堵する。
シュリ一人でも大変なのに、二人を同時に落ち着かせることは、それ以上に至難の技だったからだ。しっかりしているリコなら、頼りになる。
「……だいたい、レオンは不法侵入でしょう? 毎回勝手に内部へ紛れ込むのをやめてよね」
「協会の警備がザルなのだろう? 俺は普通に表の入り口から入ったぞ?」
「……はぁ」
リコは、ため息をついて押し黙った。
レオンには、何を言ってもダメだと判断したようである。
「とにかく、レオン……今日は邸に帰ってくれ。サラもシュリも、本部についたばかりで疲れている」
「そうか。それもそうだな、今日のところは戻ろう。サラ、疲れているところ悪かったな、また来る」
「僕には何も言ってくれないの、レオン?」
「シュリ……お前は、長旅程度で疲れるような可愛さは持ち合わせていないだろう?」
レオンの当初の目的は、シュリに会いに来ることだったはずなのに。いつの間にか、おかしな事態になってしまっている。
私はリコに促され、本部内で与えられる自室へ案内されることになった。