22・吸血鬼に誘惑されました
「何を寝ぼけたことを言っているのかな?」
レオンに向かって、シュリが問い返した。
口調は軽いものの、彼の目は笑っていない。
「だから、サラをくれと言っている」
対するレオンは、全く動じずに口を開く。
「兄嫁に手を出そうなんて、いい性格しているね?」
「俺は純血種だから、餌である血の問題もないだろう。あとは、お前の了承を得るだけだ」
「お断りだね、他を当たってよ。いくらレオンでも、僕からサラを奪うというのなら……殺すよ?」
言うやいなや、シュリの鋭い爪が伸びる。
(まずい。本部の建物内で刃傷沙汰をおこせば、問題になって仕事ができなくなるかも!)
私は、シュリの腕にしがみついて彼を止めた。
「シュリ、待って。ここで暴れたらまずいから!」
私に抱きつかれた状態のシュリは、困ったように眉尻を下げた。
「サラ、急にしがみつくと危ないよ? そういうのは、二人きりの時にしてよ」
「そうじゃなくて! 本部内で暴れて問題視されたら、今後の仕事や待遇に影響するから止めてと言っているの! レオンも、シュリを怒らせるような冗談は言わないで!」
レオンは、私の発言を聞いて首をかしげる。
「俺は、冗談を言った覚えはないぞ? 本気でサラを貰い受けたいと思っている」
「えっ……!?」
「ここよりも良い待遇を保証する。邸内で一番良い部屋を与えるし、血の摂取も毎日許可するし、その他に要望があれば可能な限り叶えよう」
そう言って、勧誘を続けるレオンをシュリが遮る。
「レオン、サラは僕の嫁だ。それに元が人間のサラは、純血であるお前の伴侶にはなれないだろう? 純血の相手は、同じ純血だけだ」
「そんな話、知ったことか。俺の嫁云々については、周囲が勝手に騒いでいるだけだ。俺個人には、純血へのこだわりはない。むしろ、こんな厄介なもの……ないほうがいい。混血であるお前が羨ましいよ、シュリ」
彼らの話を聞きながら、私は考えを巡らせていた。
(レオンは純血の吸血鬼なの? リコが、純血の吸血鬼であるシュリの身内がこの国にいると言っていたけれど、それはシュリの父親やレオンのことなのね)
でも、レオンはどうして私などを欲しがるのだろう。
(私はシュリの隷属で、彼の血を貰うことでしか生きられないのに)
しばらく言い争いを続けていたシュリとレオンだが、ふとレオンがまっすぐ私を見た。
彼の紅い瞳に見つめられると、何故か自分の中に流れている血が騒ぐ……ような気がする。
「サラ、純血の血が欲しくはないか? 先ほどから気にしていただろう?」
そう言うと、レオンは無造作に爪で自分の手のひらを引っ掻いた。
彼の手から、真っ赤な血が流れ出る。
(……シュリの血も甘くて美味しいけれど、レオンの血も凄く良い匂いがする)
何故だかわからないが……レオンと隷属の儀式を行ったわけでもないのに、彼の血が酷く魅力的に見えた。
隷属は、主人となる吸血鬼の血以外は、受け付けないはずなのに。