18・吸血鬼の手下を退治しました
「サラ、無事でよかった。僕の隷属である君が、こんな雑魚に負けるとは思っていないけれど、心配なものは心配だからね」
シュリは、笑顔で暴言を吐いている。よりにもよって、他人の隷属を雑魚呼ばわりだ。
「ねえ、発作って……」
「二級試験と同じだよ。彼女達は、主である吸血鬼の血が合わないから、ああやって拒絶反応を起こすんだ」
「そんな……」
「今回退治した吸血鬼は少しだけタチが悪くて、一人で複数の隷属を所有していた。この二人を入れると、合計八人かな。それで、ハーレムを築いていたんだ。あの様子じゃ、隷属達はきっと全員満足に血をもらえていなかっただろうね……」
「シュリ……」
「主人の吸血鬼は殺したから、彼女達もどのみち長くない。暴走して他の人間を襲われると困るから、ここでカタをつけるよ」
私は、彼の言葉に頷いた。隷属達には気の毒だが、こうするしかないのだ。
刀を構え直し、二人を睨む。
後がない彼女達は、私とシュリを倒すために立ち上がり、牙をむき出しにしていた。
もう、人間の面影は残されていない。
「暴走する一歩手前だね。満足に血をもらえないと、隷属は凶暴化する」
シュリの言葉に、私は複雑な思いを抱いた。
(一歩間違えば、もし私がシュリに血をもらえなくなれば……)
彼女達の姿が、自分に重なる。
私だって、シュリに見捨てられれば彼女達と同じ道を辿らざるを得ない。
けれど……
(それでも、今は彼を信じるしかない)
それに、ハンターの仕事は人間に害をなす吸血鬼や隷属を狩ることだ。
同情から敵を見逃すなんて、言語道断である。
牙を出し、鋭い爪を掲げた隷属達が、ナイフを振り回しながら迫ってくる。
距離を測った私は、下から刀を振り上げた。
弧を描いた切っ先が、片方の胸を斬り裂く。
もう一人の隷属は、既にシュリの爪にかかっていた。
どうやって伸ばすのかいつも不思議なのだが、シュリは以前も爪で相手を攻撃していた。
隷属達の爪も伸びていたし、もしかすると私の爪も伸ばすことができるのかもしれない。
隷属達は、重なって地面に倒れた。
倒した直後の吸血鬼や隷属は姿形を残しているが、一時間ほどすれば彼らの体は全て灰と化す。
どうしてなのかはわからないが、生命活動が停止した吸血鬼は体を残さない。
「サラ、大丈夫だった? 怪我はしていない?」
「ええ、平気よ」
「体は大丈夫? 隷属になってから戦うのは初めてだけれど、どこか痛めたり気分が悪くなったりしていない?」
「……どこも痛くないわ。気分が悪くなることもないし」
「良かった。隷属の体に慣れないうちは、力の加減が分からずに体に負担がかかることがあるんだ」
シュリは、いたわるように私の体を抱きしめる。
大事にされていると思う……今は。
(でも……)
彼は、ずっと私を大事に扱ってくれるのだろうか。血を与え続けてくれるのだろうか。
先ほどの隷属達の姿を見て、不安がよぎる。
シュリを信じることにしたけれど、ふとしたことで揺らいでしまう。
そんな自分の弱さや不安定さ、臆病さが情けなかった。
「帰ろう、サラ。帰って、血の補給もしなきゃね……」
「大丈夫よ。来る前に貰ったばかりだから」
「そうは言っても、けっこう暴れたでしょう? 激しく動いたり、力を使ったりすると、隷属は血を消費してしまうんだよ」
だから、さっきの隷属達は、血が足りなくて本来の力を出し切れなかったのだろう。
彼女達は、隷属初心者の私一人にあっさり殺されるくらい弱かった。
いくらこちらにハンターをしていた経験があったとはいえ、あっけなさすぎる。
黙ったまま色々考えていると、洞窟の奥に行ったユーロとナデシコが戻ってきた。
「サラちゃん、無事でよかったです! シュリさんが行ってくれたから、大丈夫だとは思っていたけれど……」
ナデシコの言葉に、私を抱きしめた状態のシュリが応じる。
「サラは強いからね。二人の隷属のうち片方は、彼女が倒したよ」
「やっぱり、前線で戦っていたハンターは違いますわね」
感心したように目を輝かせる彼女の唇には、血の跡があった。
洞窟で、ユーロから血をもらっていたのかもしれない。