16・吸血鬼退治の依頼が来ました
私が眠っている間に、例のメイド達は全員いなくなっていた。
全員自主退職したらしい。
(あんな目に遭ったら、辞めたくもなるよね)
先に儀式を済ませたナデシコは、私よりも早く目覚めたようで、現在はユーロに隷属としての生き方を教えてもらっている最中とのこと。
私も、シュリに色々教えられている。
「使い魔が欲しいの、サラ? ダメダメ却下、餌はどうするの!?」
「……使い魔の餌ってなんなの?」
「動物の血だよ。でも、この辺りはあんまり動物がいなさそうだし」
「血か……。そういうのは、良くないわね。使い魔を飼うのは止めておくわ」
一級ハンターに用意された部屋の中には、当たり前のようにシュリが居座っている。
「そうだ、さっき協会から仕事を頼まれたよ。サラの隷属デビュー後、初の仕事だね」
「初仕事!?」
「心配しなくても大丈夫。新米隷属に、そんなに難しい内容は回ってこないから」
シュリ曰く、まずは協会から「お試し期間」を設けられるとのこと。
上手く吸血鬼を制御できるか、隷属の力を使いこなせているか……
そこできちんと成果を出せば、一級ハンターとして、どんどんステップアップできるという。
「今回の任務は、小さなコロニーの破壊だよ」
コロニーとは、吸血鬼が集団で暮らす巣のようなものである。
複数の吸血鬼を退治しなければならないので、仕事としての難易度は高い。
(私が三級ハンターだった時は、小さなコロニーでも五十人体制で当たっていたけれど)
それでも、怪我人は続出。ハンター側の犠牲者も出ていた。
充分に、難しい仕事だと思う。
「そんな顔をしないで、サラ。ナデシコやユーロも一緒だし、リコも手伝ってくれると言っている」
「五人だけなの?」
「僕らだけでは不安? 上位の吸血鬼が三人もいるんだから……人間だけの集団よりも、よっぽど強いと思うんだけど」
そうかもしれない。
シュリが強いということは、先日吸血鬼に遭遇した時に思い知った。
「大丈夫だよ。リコの使い魔によると、今回のコロニーの構成は、ほぼ全員が隷属。吸血鬼は僅からしいから」
「隷属は、吸血鬼よりも劣るの?」
「主となる吸血鬼によって個体の強さは異なるから、一概には言えないけれど……主よりは力が劣ることが多いよ」
(……私は、シュリに勝てないということか。うーん、微妙)
とりあえず、いつもの吸血鬼退治時の格好で外に出る。
外では、すでにナデシコとユーロが準備を済ませて立っている。
協会の仕事は、今夜決行らしい。
(急すぎる……)
人使いの荒い拠点である。
「一級ハンターの様子見も兼ねているからね。協会側は、隷属となったハンターが使えるかどうかを早く確認したいのさ」
いつの間にか、近くに立っていたリコが、協会内部の事情をしゃべってくれた。
「使えないと判断された場合は……?」
私は、おそるおそる彼に聞いた。
「前線からは外される。でも、吸血鬼を繋ぎ止めるための駒として、一生協会内で飼われることになるよ」
「……なにそれ」
そんな恐ろしい話は聞いていない!
近くで話を聞いていたナデシコも、顔面が蒼白になっている。
「一級ハンターには、定期的に試験があってね。吸血鬼と上手くやっているか、相手を上手く制御できているかが問われる。条件を満たさない場合は、ハンターとして不適格と見なされて、飼い殺しコースだよ」
恐怖で声も出せない私達を見て、シュリとユーロがリコに抗議する。
「ちょっと、リコ! サラが怖がるような話はよしてよ」
「そうですよ、ナデシコが今にも倒れそうになっています。可哀想に……!」
リコは、過保護な吸血鬼達に呆れた視線を向けた。
「これは事実だ。ごまかしても、いずれバレる。知らずにハンター不適格になってしまうよりは、情報を与えておいた方がいいだろう? 協会の職員達が、まだ伝えていない様子だったから、俺が言ったんだけど」
「うん。ありがとう、リコ。言っておいてくれた方が助かるわ」
私はリコに礼を言った。
何も知らないままで、気づいたら幽閉されていたなんてことがあれば、ショックすぎる。
(頑張って、良い一級ハンターにならなきゃ……!)
私は、決意を新たにし、今回のターゲットである吸血鬼のいるコロニーへと向かうのだった。