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15・吸血鬼の隷属になりました

<吸血鬼の使い魔達>

※動物に血を与えることで使い魔にすることができる。餌は、動物の血。

・コウモリ:一番人気の定番使い魔。空も飛べるし色々便利。

・クモ:年配男性に人気。成長すると二メートル近くになることも。

・ネコ:特に黒猫が人気。若者吸血鬼の間ではネコブームが巻き起こっているとか。

 夢を見ていた気がする。暖かい夢だった。

 真っ赤な世界の中で、誰かが優しく私の名を呼んでいる。


「早く目覚めて、こちら側へ堕ちておいで……」


 あまりにも暖かい声だから、思わず目を開けて手を伸ばした。


 ――景色は一転し、目の前に翡翠の双眸が見えた。


「うわぁっ!? ……ちょっとシュリ、何をしているの!?」


 目覚めたら、至近距離にシュリの顔があった。大変心臓に悪い。


「サラ! おはよう!!」


 そう言うなり、シュリが覆いかぶさり、抱きついてくる。

 私は、そんな彼の行動を阻止しながら声を張り上げた。


「ちょっと、離れてよ。一体なんなの?」

「……五日ぶりにサラの声を聞けたから、嬉しくて! 無事に隷属になれたんだね!」

「五日間……?」

「そうだよ、血の契約を行ってから五日間。サラはずっと眠り続けていたんだ」


 シュリの言葉に、私は彼と血を交換したことを思い出す。

 血を飲んでしばらくした後、急に意識が朦朧とし始めたのだ。


「私、あのまま気を失ったのね」


 そして、五日間も眠っていたらしい。

 ずっと動かしていなかったためだろうか。

 シュリを押しのけてベッドから起き上がるのに、いつもより力が必要だ。


「ああ、まだ無理してはいけないよ。サラの体は隷属になったところだから、今までと勝手が違っているはずだ」

「特に、変わったところはないわよ? のどが渇くくらいで……」


 私は、ベッドのそばに置いてある水差しとコップを手に取った。


「サラの渇きは、水じゃ潤わないと思うよ」

「どういうこと……?」


 シュリに質問しながら、私は水を口に含む。

 冷たい水は気持ち良いが……一向にのどが潤わない。シュリの言う通りだ。


「今、サラに必要なのは、水じゃなくて僕の血だと思う」

「血……?」

「君は僕の隷属になったのだから、僕の血がないと生きていけないんだよ」


 私は自分の両手を見た。

 五日間も寝ていたせいで多少青白いが、特に変わったところはない。


「私、本当に隷属になっている? 吸血鬼並みに強くなれたの?」

「もちろん。ただ、最初は吸血鬼の身体能力を上手く使いこなせないかもしれない。少しずつ慣れていくといいよ」

「うん……」


 実感は湧かないが、シュリが言うのだからそうなのだろう。

 私の体は、人間ではないものになってしまった。


「サラ、血をあげるからこっちにおいで?」


 名を呼ばれ、シュリの方を見る。彼の眼の下には、うっすらと隈ができていた。


「シュリ、もしかして眠っていないの?」

「大切な妻の眠りを見守るのは、夫の役目だもの。吸血鬼は一週間くらいなら眠らずに過ごせる」


 よく見ると、ベッドの周囲にはタオルや着替え、桶に入った湯などが置かれている。


「私の世話をしてくれていたの?」

「当たり前でしょう? 他の奴に妻を任せるわけがない」

「……そう。あ、ありがとう」


 私が眠っている間、シュリは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていたらしい。

 異性に世話を焼かれるのは恥ずかしいし、吸血鬼に世話を焼かれるのも微妙だけれど……シュリが五日間も私の面倒を見てくれたことに変わりはない。

 礼を言うと、彼は翡翠色の瞳を嬉しそうに煌めかせた。


「サラ、最初は上手く血を飲めないと思うから、僕が飲ませてあげるね?」

「……それって、口移しじゃないわよね?」


 私がそう尋ねると、シュリは戸惑った様子で目を泳がせた。


「口移しだけど?」

「……恥ずかしいから却下! シュリは知らなかっただろうけれど、私、あれが人生初の接吻だったんだからね」


 初めての口づけが、吸血鬼との血の受け渡しだなんて……恋愛に夢を持っていたわけではないが、あんまりだと思う。

 しかし、シュリはといえば、私の苦情を全く気にしていないようだ。

 先ほどよりも更に機嫌が良くなり、ウキウキした様子である。


「サラ、吸血鬼は意志の弱い人間を魅了したり、人間よりも身体能力が優れていて傷も早く治ったりする。血を交換することで眷属も作れる……眷属を作ること以外は、隷属も同様に可能だ。隷属の他に、使い魔を持っている吸血鬼もいる」

「見たことあるわ、コウモリよね」

「多いのは、コウモリと蜘蛛、猫だね……話が逸れたけれど、隷属であるサラが吸血鬼の力を使うには、やっぱり僕の血が必要になる。血の効果が薄れてきたら、力も弱くなってしまうから気を付けて」


 何をするにも、シュリの血が必要らしい。隷属生活は不便である。

 私は、シュリなしでは生きられなくなってしまった。


(二級試験で失敗するよりマシ……よね?)


 シュリに会わなければ、二級試験を受けて失敗し廃人になるという未来もあったかもしれない。

 それを思うと、隷属になり吸血鬼の血を必要とするくらい、どうということはないのだ。そう思わなければ。


「サラ、こっちを向いて?」


 シュリに呼ばれて面を上げると、至近距離に彼の顔があった。

 そのまま、ゆっくりと口づけられる。


「ん……」


 隷属の儀式の時よりも、与えられる血の量が増えている。シュリの血は、やっぱり蜂蜜のように甘かった。

 しばらくすると、彼は唇を離し、自らの腕に視線を移す。

 いつの間に切ったのだろうか、シュリの腕には一本の線のような傷が走っている。

 深く斬られたそこからは、とめどなく血が溢れていた。


「シュリ、痛くないの……?」

「大丈夫だよ、吸血鬼の怪我はすぐに治るから」


 シュリは傷口に唇を当てて血を吸いだすと、再び私に口付けてきた。それを何回も繰り返す。


(……口移しにしなくても、私が彼の傷口から出る血を舐めた方が早くないだろうか?)


 そう言いたいけれど、シュリに口を塞がれているので会話ができない。


「ふもふも……ふもも」

「ん……どうしたの、サラ? 可愛い、ね……」


 視線を逸らせて外を見れば、空に満月が昇っている。

 暗闇の中の景色をくっきり見通せることで、改めて自分が人間ではなくなったのだと理解した。


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