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14・吸血鬼の思いの丈

 サラが眠った。

 人間たちが「隷属の儀式」と呼ぶ「血の契約」――

 吸血鬼と血の交換を行った人間は、完全な隷属になるまでの間、短い眠りにつくのだ。

 その間に、人間の体は吸血鬼に近い者へと作り変えられる。

 眠る期間には個人差があって、早くて二日、遅くて一週間かかる。


 ベッドの上に横たわって眠るサラを眺めていると、改めて愛しさがこみ上げてきた。

 僕の嫁は、最高に可愛い。


 吸血鬼に両親を殺されたサラ。

 そんな彼女だから、僕を受け入れない可能性もあると思っていた。

 非常に残念だけど、親を殺した相手を憎む気持ちは、僕も知っているから……


 けれど、そんなサラが僕に歩み寄りを見せてくれた。

 僕は彼女を愛しているが、サラは僕を愛しているわけではない。

 血の相性による嫁への無条件の愛は、吸血鬼しか持ち得ないものだ。

 人間は、簡単に恋には落ちない。


「いつか、僕のことを好きになってくれると良いな」


 とはいえ、吸血鬼と人間の恋がうまくいく可能性が高くないことは知っている。

 僕の両親のように夫婦仲が睦まじい例は稀だ。


(その両親だって、最後はあんなことになってしまったし……)


 だが、吸血鬼は誰もが妻と愛し合うことのできる生活を夢見ている。

 ハンターと吸血鬼の夫婦は、通常の吸血鬼の夫婦よりも相思相愛になる可能性が高い。だから、協会に味方する吸血鬼がいるのだ。


 僕は、甲斐甲斐しくサラの世話を焼く。

 愛おしい妻が、少しでも早く目覚めてくれるように。


 サラやナデシコは、そうではなかったが……

 一級ハンターの中には、最後まで吸血鬼との契約を拒み続ける者もいる。

 相手を否定するあまり任務に支障が出ると、協会側としては大変困った。

 たとえ、人間の側が血の契約を拒んだとしても、一級ハンターになることを諦めたとしても、せっかく見つけた運命の相手を吸血鬼がみすみす逃すはずがない。

 無理やりの契約を協会側が禁止していても、強制的に血を交換して相手を隷属にしてしまう。

 そうなってしまった人間を、協会側がどうするか――


(いずれ知ることだけれど、サラには教えたくないなあ)


 任務を放棄した一級ハンターは、協会によって施設内に幽閉される。吸血鬼を繋ぎ止めるためだけに。

 嫁が逃げなければ、吸血鬼側は問題なく協会の任務を果たすことが多いからだ。

 そうして、仕事の後は嫁のいる部屋へと嬉々として帰る。たとえ、相手から拒絶されていても……

 数々の拠点を渡り歩いてきたシュリは、そういう夫婦に出会ったこともある。


「サラ、どうか僕を拒まないで」


 拒まれたところで、サラを離す気はないけれど、心の通わない夫婦は悲惨だ。


(いつか、この想いが成就すればいいな)


 そんなことを考えながら、僕はサラと契約したことを告げるため、部屋の外へ出た。

 職員にサラのことを話した後、心許なさそうに建物内を徘徊するユーロを見かける。

 自分も今、彼のような表情をしているのかもしれない。


「ナデシコは、部屋にいるのかい?」

「ええ……眠っています。そういえば、あなたの嫁は?」

「同じく、血の契約で眠っているよ」

「……そうですか、あなたも血の契約を行ったのですね。待つ間は、暇ですよね」


 丁寧な口調の割に、やりたい放題マイペースのユーロは、嫁がいなくて少しブルーになっている。


「ああ、ナデシコ……早く目覚めてください」

「本当だよ。サラ……眠る顔も可愛いけれど、早く動く姿が見たい」

「ナデシコに早く血を吸われたい!」

「サラの可愛い牙を首筋に突き立てられたい!」


 共用スペースで思いの丈を叫んでいると、通りすがりのリコに「うるさい、発情吸血鬼共」という言葉と冷たい視線を向けられた。

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