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12・吸血鬼と同衾しています

※9/22 あとがきに補足を追加しました。

(あ〜、ヤヨイ国にいた頃はよかったわ〜。田舎だし布団は薄くて床は硬かったけど、こんなに居たたまれなくなることはなかったし……)


 私は、過去に想いを馳せて現実逃避をしていた。

 そうでなければ、とても一夜を過ごせそうになかったからだ。

 ふかふかのベッドの上には、私と……ここにいてはいけない人物がいる。

 清潔なシーツの上に横になった私を、隣に潜り込んだシュリが抱きしめていた。


「サラ、そんなに硬くならなくていいよ。安心して僕に身を委ねて?」

「……明日の晩御飯は、なんだったかしら」


 相手を意識しては負けだ、無になるのだ。

 そう自分に言い聞かせているものの、なかなか心は思い通りになってくれない。


「ふふっ、つれないなあ」


 吸血鬼やハンターの眠る時間――明け方近くに無理やり私の部屋に突撃してきたシュリは、上機嫌でベッドに上がり込み、細い割に鍛え上げられた体で私を拘束している。


「……シュリ、そろそろ離してくれない?」

「恥ずかしがっているサラも可愛いね。このまま、すぐに花嫁にしてしまいたいくらいだ」

「それって、隷属に……ってこと? 私がシュリの血を飲めばいいのよね?」

「そうだよ。そして、僕がサラの血を口に……って、あんまり誘惑しないで欲しいな。抑えが利かなくなって、君を襲ってしまいそうになる」


 私は誘惑などしていないのに、シュリはなんでもこちらのせいにしてくる……困った吸血鬼だ。

 一人で何かを葛藤している彼に、私は隷属の儀式について質問した。


「ところで、隷属の儀式って、職員の立ち会いが必要なの?」

「事後報告でいいけど……どうしたの、サラ?」

「……それなら、今から血を交換してしまっても良いのね?」

「まるで、血の契約をしたいと言っているように聞こえるけど」


 私は、シュリの翡翠色の瞳をまっすぐ見つめた。


「……さっきの決心が揺らがないうちに、実行したいのよ」


 臆病な私は、時が経てば経つほどに、また隷属の儀式を恐れて拒絶するようになるかもしれない。

 吸血鬼の力が必要であるにもかかわらずだ。そんな醜態は、さらしたくなかった。


「サラ……」


 私の言葉を聞いたシュリは、なぜか頬を赤く染めた。


「自分から血の契約を申し出てくれるなんて……これが、逆プロポーズというものなのか」

「……違うから」


 一人で照れているシュリに、儀式の手順を確認する。


「私の血をシュリにあげて、シュリの血を私が飲めば良いのね?」

「そうだよ……って、本当に今から契約する気?」

「そう言っているじゃないの。んーと、適当な刃物で皮膚を切って血を出せば良いのよね?」


 私が懐からナイフを出そうとすると、シュリがそれを止めた。


「痛いから、それは止めよう。僕が噛んであげる」

「……確か、吸血鬼の唾液には麻酔の効果があるんだっけ?」

「そう。ついでに媚薬の効果もあるよ?」

「……やっぱり、ナイフでお願いします。切って上から垂らすから、皮膚に口をつけないように飲んで」


 タダでさえ不安な隷属の儀式。わけのわからない媚薬効果で変なことになっては困る。

 変なことの詳細はよくわからないが、きっとヤヨイ国の女子としてあるまじき破廉恥な事態に違いない。

 私は、丁重にお断りした。しかし……


「まあまあ、遠慮せずに」

「え? シュリ!?」


 笑顔のシュリに両手を拘束され、ベッドに固定される。


「え? ええっ!?」

「可愛いサラ、ようやく君を正式に僕の妻にできるんだね」

「ちょ、ちょっと、シュリ!?」

「感慨深いよ。せっかくの、夫婦最初の共同作業なんだから、ロマンチックに行こう」



 先ほどよりも、さらに身動きが取れなくなる。


(いつの間にか、組み敷かれているんですけどー!?)


 自分から言いだしたこととはいえ、こんな展開は予想していなかった。


<用語解説:隷属の儀式の呼び方について>

吸血鬼側とハンター側で儀式の呼び名が違いますが、同じ「人間を隷属にする行為」を指します。

・吸血鬼:血の契約

・ハンター:隷属の儀式

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