表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/36

11・吸血鬼はケダモノです

「どこから聞いていたの?」

「吸血鬼を責めないであげて……って辺りから」

「そう」


 私は、シュリの目をまっすぐ見られず、床に視線を落とす。


(よかった、隷属の儀式を不安に思っていることは、聞かれていないみたい)


「ごめん、勝手にシュリの話をして」

「構わないよ、聞きたいことがあるのなら答えるけど?」


 話しながら、彼が距離を詰めてくる。


「シュリのお母さん、人間に殺されたの?」

「そうだよ。僕がまだ子供の時、吸血鬼に恨みを持つ人間に殺された」

「それって、吸血鬼ハンター?」

「違う。ただの武装した人間で、協会にも所属していない……彼らは母の親族で、吸血鬼の隷属になった彼女を蔑んでいた」


 子供の時に親を殺されるなんて、とても悲しい出来事だ。

 同じ経験をした私だからわかる。


「……人間を恨んでいないの?」

「母親も元人間だし、全ての人間が敵ではないことも知っているからね。吸血鬼であっても、とんでもない奴もいるし」


 それを聞いた私は、なぜかシュリを直視できなかった。

 私は、彼のように広い視野を持てない。

 吸血鬼に親を殺された私は、ずっと吸血鬼という種族を憎み続け屠ってきたのだ。

 シュリのことも、心の底から信用しているわけではないし、彼が私に向けている気持ちと同じものを返すこともできない。

 吸血鬼を信用なんてできないし、信用することが怖い。ずっと、そう思っていた。


「他には? 今なら、何でも話してあげるけど?」


 シュリは、悶々と悩む私に向かって優しく話しかけた。


「……隷属の儀式って、いつまでにしなきゃならないの?」

「早ければ早いほどいいだろうね。協会側は、早く一級吸血鬼ハンターを各地へ派遣したくてたまらない様子だから。でも……」


 言葉を切った彼は、絹のような白銀の髪をいじりながら口を開く。


「焦らなくてもいいよ。君を逃がしてあげる気はないけれど、無理に血の契約を結ぶようなことはしたくない」


 シュリは、私を甘やかすようにそう言いきった。


(彼は、私に猶予を与えようとしてくれている……でも、本当にそれで良いの?)


 心の中で、自分自身に問いかける。

 このまま隷属になるのを恐れ、強い吸血鬼に対抗できないハンターに甘んじていて良いのかと。


(良いわけないじゃない……!)


 私は、顔を上げてシュリを見た。今度は目を逸らさずに……


「……い」

「え、サラ?」

「構わない、隷属の儀式を行ってもいいわ」


 私の言葉に、シュリは信じられないという様子でパチパチ瞬きした後、幸せそうな満面の笑みを浮かべた。


「本当に?」


 彼のそんな表情を見て、柄にもなく動揺してしまう。

 だから、つい言ってしまった。彼の誠意に応えたいと。


「……ええ、少し不安だけれど逃げたくないし、今よりももっと強くなりたい。それに、あなたが人間を信じたように、私もシュリを信じたいわ」

「……サラ」


 シュリは、翡翠色の目を見開くと、私を思い切り抱きしめた。


「えっ、ちょっと!?」

「……嬉しい。サラが、僕を受け入れようとしてくれているなんて」


 彼の吐息が首元に当たる。


(ど、どうしよう!? 私、今、異性に抱きしめられて……)


 初めての事態に動揺する私に、シュリは更なる追い打ちをかけた。

 なんと、私の首筋をベロリと舐めたのだ。


「ひゃぁあっ!?」

「ああ、サラ。可愛い声だね……」

「な、何をするのっ……?」

「一生懸命に僕を受け入れようとしてくれている君が、あまりにも可愛くて、抱きしめたらいい匂いで、我慢できなくて」

「け、ケダモノ!!」


 男はみんなケダモノだから気をつけなさいと、過去にアズキが言っていた。


「酷いなあ、サラが魅力的すぎるんだよ。でも……せっかくの信頼を損なうようなことはしたくないし、今日はこれで我慢しておこうかな」


 シュリは、私の髪にキスを落とすと、上機嫌で部屋へと去っていく。


「あ、そうそう。約束だから、今夜は一緒に寝ようね?」


 最後に大きな爆弾を投下して――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ