表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
的を射るべく  作者: 江南
4/4

4:side志弦&意弦~進路選択~

「いづ兄、ちょっといい?」

「ああ」


 ドアをノックして声をかけ、いつもなら諾の応えがなければ(否の理由は概ね明日提出の課題でノリがいいところだとか、電話してるかだ)先延ばしだけれど、今回ばかりはそうもいかない、いかせない。なんせ出願日やら受験日やらが近いのだ。断られても、ハナシを振った責任上、ここは腹をくくった時に吶喊あるのみ!

 …という腹づもりではあったのだが。どうやらお見通しだったらしい。つくづくこの兄、恐るべし。


「受験校、決めた。華之宮はなのみや学園。一貫で大学まであるとこ。まぁ…高校は持ち上がりで行かせてもらうつもりだけど、大学は高校の間に考えるということで」

「…そうか。良かった」

「? なにが?」

「志望校が被らなかった、ってこと。まぁ、お前はどうせ行くなら一貫校だろうと思ってたから、華之宮は候補から外してたんだが」

「…余計分かんね」


 だからな、と笑う兄の顔。教え諭すそれはいつだって柔らかい。


「俺は『志弦の兄』と呼ばれるつもりはないし、お前を『意弦の弟』と呼ばせたくもない」

「…さらに分かるよーな、分からんよーな」


 アタマのいい奴はこれだから困る。諧謔(かいぎゃく)を理解できるようなオツムはない! と、恨みがましい目を向ければ温い笑みが返された。


「1年とはいえ、被るだろ? 俺は、身内で代表争いなんぞする気はない。だったら最初から別で立つ」


 ああ、つまりは。だから。

 違う場所から同じ立ち位置に来い、と。そして競えと。

 …縦社会な体育会系部活で、どれだけ成績を残していても1年が代表になれるとは思いにくいが。


 それでも。

 来いというなら。


 行ってみせる。


「インハイ、ぜってー勝つ」

「そっくり返す」


 そんな軽口。

 だから。


「…受験前の弱音だから聞き流して欲しいんだけど」

「ん?」

「俺は意弦と歩いていきたい…その為になら頑張れる、てか頑張らんでどうする! てな心意気で。だから…」


 だから、そばにいさせて。


 そこまでは言えなかったけれど。初めて呼び捨てにしたけれど。

 俯いてしまった頭に、ポン、と暖かな手のひらが乗せられた。


 それでいい。もうそれだけでいい。


 俯いて堪えていた筈の涙が一滴、落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ