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赤羽根の烏  作者: たっくまん
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1. 奇跡の日

投稿時期は不定期なのでたまにしか出さなかったり、すぐに出したりすることがありますが、その点に関しては御了承下さい。

赤羽根の烏


1.奇跡の日

ー西暦2095年10月 アメリカ フロリダ州ー


暗く明かりの一つも照らされていないフロアに一人ダイニングチェアに越しを掛け、キーボードを打っている白い髪を後ろで縛り、右にピアスをした男の姿があった。しかし、男と呼ぶにはまだ若い青年だった。エンターキーを押した後、横にあったコーヒーを少しだけ口に含んだ。そしてキーボードの上に手を戻すと左端に残してあった画面に目をつけた。それを見つめて彼は唇を端へと滑らせた。

数秒の間があった後、背後の自動ドアが開いて、茶髪の黒いロングカーディガン姿の青年が蛍光灯のスイッチを入れた。

「おい、セロ。また暗くしたままやってんのか?目悪くするぜ」

「ああ、ごめん。画面の方に夢中でつけるのすっかり忘れてた。そういえば最終調整終わった?」

注意を受けたセロという名の青年は何事もなかったかのように話を移した。

「とっくに終わってるよ。それ、俺が誰かって分かって言ってるつもりか?」

「相変わらず生意気なセリフを吐くね、君は。でもロキ、僕だって君と同じなんだ。そんなことは承知の上だよ」

セロは自分のデスクの隣にあったコーヒーメーカーの脇から中身の入ったカップを取ってロキと呼ばれた彼に渡した。

「サンキュ。だよな」

ロキは納得するとコーヒーを口に注ぎながらデスクの上に乗ったパソコンの画面に目線を送った。目に映ったのは数え切れない数ほどのアルファベットで埋められ、普通の人間では解読できそうにないものだった。しかし、彼らは普通の人間などではなかった。

「相当なセキュリティだが、おまえならやれそうだな」

「もちろんいけるよ。それからハッキングした後にこれを使うのを忘れないでね」

自身満々そうに語るとロキが来る前に見つめていた左側にある画面を大きくした。拡大すると「leberdade system」の文字が明確になった。

「ああ、今日は正念場だ。気を引き締めて行こうぜ。戦闘の方は俺に任せて、おまえは宇宙の方を頼む」

「うん。分かってはいるよ。じゃあ、そろそろ準備開始としようか」

「そうだな。じゃあ、行って来る」

ロキは軽く頷くと出口へと足を動かし、自動ドアを抜けた辺りで駆け出した。



俺たちは戦う。

この世界を変えるために。

腐った廃棄物みてぇな世間をどうにかするために。

そして僕たちを生み出したアイツを殺すために。

家族を殺すように仕向けたアイツに復讐するために。

「自由」を取り戻すために。

「エストラド」として。


二人は互いに通じ合った脳内で語りあった。戦う理由を。存在する理由を。そして、「力」を。





10年前ー

バージニア州北西部のコナタという雄大な自然と喉かな山に囲まれた町でロキは育ち、平和な日々を過ごしていた。


ある日のことだった。その日は全くもって何事もなく、いつも通りの生活を送っていた。だが、それは彼らが来るまでの話だった。

リビングにいたロキは玄関のドアがバタリと大きな音で倒されるのに気づいた。後には、銃声が二発連続で聞こえてきた。座っていたソファから腰をどけ、恐る恐る音のした場所の方へ少しずつ足を滑らせた。ようやく目の届く位置まで来ると彼は驚くべきことに気づく。父と母が頭から血を流して倒れていたのである。一切動く気配がしなかった。足がすくんで立ち続けるのがやっとだと理解した瞬間、床に膝を着き、目を泳がせた。しっかりとパーの形にならないままの左手を両親の方へ伸ばした。

「父さん…?母さん…?なんで……動かないの………?え……待ってよ…答えてよ………俺の質問に答えてよ…ねぇ、なんで…?」

母の腕の脈に指先が追い着いた瞬間、冷え切っているのがすぐにわかった。それが脳裏に響いた時、すでに頬は涙で埋めつくされていた。彼女の手のひらに涙がこぼれ落ちて、目で自分を悔やんだ。腕が潰れるくらいの力で強く右手を握り締めた。悲しみはいつの間にか憎しみへと変化していた。

「誰だ…どこにいる……出てこいよ…いるんだろ?俺が殺してやるよ…だからさぁ、隠れてねぇで顔出せよ!」

誰もいないような静寂が続く中で、ただ一つだけその静けさを覆すような声が家中に響きわたった。

「どうしたぁ?大声でうるせえな、ガキ」

悪い意味で興奮するロキとは裏腹に軽く低い声が聴こえた背後の方を振り向くと仁王立ちで銃を向けている男が目に入った。それと同時に彼は若干の怯えを感じていた。だが、そんなことには気を寄せず、ロキは玄関の収納スペースから護身用に置いてあったハンドガンを手に取った。相手には叶うはずもないということが分かった上での行動だった。

「おいおい、てめぇみたいな若い頃からそんな危なっかしいもん人に向けるなよ。まあ、これからそういう生活をすることになるけどな」

「どういうことだ…」

「まあ、いずれ分かるさ。とりあえずおまえを連行させてもらうぜ。おい、てめぇらこいつを運べ、向こうの方に着くまで死なすんじゃねぇぞ。今の時代子供ってのは社会での利用価値が低くても、数としちゃあ、貴重品みてぇなもんだからな」

後方のドアから難いの大きい男二人がニヤリと睨みつけながら立っているのに気づいた。しかし、抵抗しようと脳が働いた時にはすでに身体が肩に乗せられていた。

「待て…あんたは何者だ?」

ロキは限界寸前のまま声を張って指示を出して、男に問いた。すると男は何の対抗もなく名乗った。

「俺か?俺はな、ゼヲ・ランクル・アルーシェ。エストラドだよ。まあ、簡単に言えば…そうだな………」

ゼヲはしばらく顎に親指を置いて考えた後にこう言った。


「『強化人間』ってやつだ」


その言葉を聞いた瞬間、彼の頭の中が困惑と不安でざわめいた。これからそういう人間になってしまうのだと思ったからだ。

強化人間………つまりは、普通の人間の数倍の身体能力と通常ではあり得ない空間認識能力を持つ者だということはすぐに認識することができた。だが、現状から察するに今のままでは確実に扱いは奴隷も同然だと彼は思った。いや、もしかしたらそれ以下なのかもしれない。そんな暗い不安感で満ちたことしか考えることはできなかった。

そのまま車の荷台に投げ入れられるように乗せられた上、手足は分厚い紐で縛られ身動きが取れない状態だった。そのまま、ロキは目を閉じて彼らの目的地に着くまで待ち続けた。眠るほど余裕がないせいか、ゼヲたちの声がよく聴こえていた。

「ゼヲさん、どうします?こいつ。かなり、抵抗してましたが」

「なに、そんな困ることでもねぇよ。それよりもうちの会長の方はどうなってる?」

「はい、どうやらまだ気づいていないようです」

「そうか。まあ、驚くだろうな。こんなにも大人数のガキを連れてきちゃあ、あの方も少しは見直してくれるはずだ。その後は相当な手柄が入ってくるはずだ。おめぇら、楽しみにしとけ。貰った後は山分けだからな」

「はい、ありがとうございます」

褒美をもらえるという美味しい話に喰らい付く二人。

どうやら、これは、少人数ではなく組織としての行動なのだとロキは思い、真っ先に脳の片隅に保管した。

「さて、どう動いてくれるもんかな。楽しみにしてるぜ。圧力武装組織『サクリファイス』会長 レギルス・ドラウプニル…」


ゼヲのふと呟いた台詞にロキが集中して耳を傾けると、予想以上の情報が頭の中に飛び込んで来たため、不意に唇がニヤリと笑った。

どうやら今からサクリファイスというテロ組織のようなものに自分と同じ年代の子供達が入れられ、そこでエストラドなどという強化人間に生まれ変わらせられる。それが彼らの自分たちにする危害で現在の最低限の目的なのだとロキは簡易に纏めた。


約一時間後ー

そんな盗聴器にでもなったかのような時間が過ぎ、ロキは施設に着いたのだと感じ取った。目を開けるとそこには数人の子供がらが自分と同じ状態のまま泣き叫んでいた。

「ほら、降りろ。てめぇの寝床は今日からここに変わるんだよ」

同じ状態でずっといたせいか、少し怠けたような背中をさっきの男が乱暴に起こして言った。

まるで産まれたての子鹿のように地面に足を着き、頭を上げると、そこはもう施設というより、「要塞」と呼ぶに相応しかった。それくらいに高層なビルとヘリが三台以上入りそうな巨大倉庫が目に入った。

強く日に照らされた長いアスファルトの上を通り、奥に立地していた高さ120メートルはありそうなガラス窓で埋められたビルのドアを抜けて、連れてかれるがままに歩いた後、ロキは体を投げ出されて牢屋に入った。手錠は解かれ、少しは楽になったものの、精神的には辛いと表すに他なかった。

周りがため息で溢れるほどに酷く悪い呼吸をしていた。そんな目に見えない灰色の空気で包まれた部屋の鍵開き、もう一人の少年が押し倒され、ひび割れた地面に手のひらをついた。突き倒した兵士と呼ばれてもおかしくはない服装の男は完全に足までが入ったのを確認し、牢屋の入り口を南京錠のような頑丈な鍵で締めた。

「だ…大丈夫か?」

ロキは寝転んだ彼に駆け寄り自然に出た言葉で話しかけた。

「うん……大丈夫…」

「そうか…あんたも目の前で親を…?」

ロキは聞きにくいと感知したせいか、動詞のない言葉で質問をした。

「うん、けど殺されたのは母親だけだったよ。父親は仕事でたまたまいわせていなかったからね…」

「そか………」

「…もしかして君の両親も……」

「ああ。死んだよ…血が胸の辺りから湧き出てるみたいで恐ろしかったよ。あんなのを見たのは初めてだった…」

「そうだったんだ……ごめんね、変なこと思い出させちゃったかな…」

「いや、そんなことはない。もう過ぎたことだ。気にする方が嫌になると思うぜ」

「そうだね…忘れよう」

なぜかロキは思った。

(こいつとなら、今とは違う自由な世界を手に入れることができるのかもしれないな)

ロキは不自然な希望とも悟ったが、彼と変えたい、変わりたいと思った。そのせいか、軽く吐息のように言葉が出た。

「そういえばまだ名前を聞いてなかったな。俺はロキ・ジスタレク 12歳だ。あんたは?」

「僕も同じ12歳だ。名前は……」

やはり、そうなのだろうか。なぜかこの男は信じることができると勝手ながらも激しく納得しようとしていた。しかも、その感情は全くもって不正解などというものではなかったのだ。なぜなら、この少年の名は………

「セロ・L・フェイバーだ。 よろしくね」


そう名乗ると彼はロキの右腕の先を腕で抱きしめ、目を直線上で合わせた。





この日が別れと出会いが重なる奇跡の日だった。そして今になっても忘れることは全くない唯一の日だった。

ロキはそう心の片隅に残した。誓いあっていたのだろう。おそらく、その時した彼との握手だけでなく、心で。意志で。目で。






















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