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馬鹿真面目  作者: よもぎ
8/10

8

「この馬鹿!!ナイフ持った相手を挑発するやつがあるか!!」

「だって!!頭に来たんだもん!!」

「俺が近くを通らなかったら、お前が刺されてたんだぞ!!」

「っ!!」


 あのときの俺の恐怖を、お前は知らないから!!


 巡回をしていて、聞こえた怒声がユキのものだと気づいたとき、血の気が引いた。


 ナイフの男と対峙しているユキを見た時の恐怖を、今思い出してもゾッとする。


 心臓が掴まれて引きずり出される、そう表現した馬鹿王子に今なら共感できる。


「そ、そんなに言わなくてもいいじゃないの・・・」

「ゆ、ユキ・・・・」


 大きな藍色の瞳がうるみだして、ギョっとする。


「ま、マリアが困ってて、それを助けたかったんだもん」


 ん?あの男が付きまとっていたのはユキじゃないのか?


「待て、あの男が付きまとっていたのはユキじゃないのか?」


 心の声が、そのまま声に出てしまった。


「ううん。違う。マリアの幼馴染なの、あの男」


 そ、そうか。勘違いだったのか。ホッとすると同時に怒りもわく。


 あの王子、分かってて勘違いさせたな。


「・・・・ミカエルがそんなこというから、今になって怖くなってきたじゃないの!!」

「お、落ち着け!!」


 そういって、今度こそ大きな瞳から涙をこぼし出したユキに、オロオロしていまう。


 とりあえず、男は巡回に任せ、状況説明をマリアと呼ばれた女性に任せる。快く引き受けてくれたので、そのまま任せ、涙を流すユキに向き直る。


 ど、どうすればいいのか。


 自分を抱きしめるように腕を組むユキ、その体が少し震えてると思った瞬間、俺は彼女を抱きしめていた。


「ふぇ」

「すまない、俺がもっと早く駆けつけていれば」

「み、ミカエル、は、悪く、ないよ」


 嗚咽の間に漏れる言葉は、ひどく聞き取りづらい。


「いや、そうすれば、ユキが怖い思いをする必要がなかったんだ」

「も、もう、ほんと、ミカエル、まじめ、すぎるよ」


 ゆっくりと、躊躇いがちに背に回されるユキの手に、俺は不謹慎にも喜びを感じていた。


 いつも誰かのために、自分の身を厭わずに行動するユキが、まぶしくて。


 ユキが考えないユキの体のことがいつも心配で。


 無茶をするたびに小言を言って。


 小さな体が持つ大きな力に、知らないうちにひきつけられていた。


『手、出しちゃえば?』


 そんなこと、出来なかった。


 体じゃなく、心もほしかったから。


 それでも、いつもユキは自分で解決してしまう。


 俺の手を取らない。


 それが歯がゆくて、悔しくて、情けなくて。


 けれど、今、ユキは俺の腕の中にいる。


「ごめん」

「ううん、ミカエルは、悪くないの」


 違う、こんな時に喜んで、ごめん。


「助けに来てくれてありがとう、さっきのミカエル、かっこよかった」


 そういって腕の中からこちらを見上げたユキに、口づけをしなかった自分の理性を、褒めてやりたいと思う。

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