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そしてその夜。
お店が終わって家に帰る途中。
やっぱり何か起きました。
「どうしてだ!!どうして僕の愛に答えてくれないんだ!!」
「ジャック!!いい加減にして。私はあなたが好きじゃないって・・・」
「ウソだ!!その女だろ?その女が僕のことが好きだから、君にそんなことを言わせてるんだろ!!」
うわぁ、妄想ってすげぇ。半端ないわ~。
こんな状況なのに思ってしまった私は悪くないと思う。
ジャック→マリアで、マリア→ジャックで相思相愛。だけど、私→ジャックだから親友のマリアに私に彼をちょうだい!!って頼んでいる、と思い込んでいるらしい。
いやいや、そもそもあなたと私、ほぼ初対面ですけど?お客と従業員としていしか接点ないですけど??
妄想はんぱねぇ~。
「お前が、お前さえいなければ!!」
「私がいなくても、マリアはあなたなんか選ばないわ!!」
「黙れ黙れ黙れ!!」
「っ!!」
「きゃあ」
ナイフを取り出した男に、ヤバいと思う。とっさに背後にマリアをかばう。
「お前さえいなければ!!ちゅ、忠告だってしただろう!!なのに、お前は・・・」
「やっぱり、あの猫はあなただったのね!!」
「そうだ!!ま、マリアから離れなければ、お前を・・・・」
ぶちっと私の中で何かがキレた。
「自分の欲望のために、あの子を殺したの!!ばっかじゃないの!!もう救いようがない馬鹿ね!!」
「なっ、なんだと!!」
「マリアがあなたに振り向かない理由が、自分のせいだとは思わないの?マリアが振り向かないのは私のせい?わたしがあなたを好きだから?マリアに頼んでいる?ふざけんじゃないわよ!!私はね、自己中で、周りのことを考えない、ほしいものが手に入らないからって駄々をこねる、子どもみたいな男、好みじゃないのよ!!」
ナイフなんて目に入らなくなってきた。私はマリアをかばったまま、一歩男に足を踏み出す。
男が、怖気づいたように一歩下がる。
「しかも、あなたは自分の欲望のためにほかの命を使った。私に脅しをかけるというための道具として、あの子の命を奪った!!猫だから?人間じゃないから簡単に奪えたんでしょ?」
「だ、黙れ!!黙れ!!」
「黙らないわよ!!生きていくことがどれだけ大変で、命がどれだけ尊いものかわからない奴なんて、誰も振り向いてくれないにきまってる!!あの子の未来が、どんなものだったか。それを摘み取った罪が、あなたに理解できる?あの子だって誰かと恋をしたかもしれない。あなたみたいに!!」
もう一歩踏み出す。男がもう一歩下がれば、その背に壁が当たった。
「命を大事にできない男なんて、こっちから願い下げだって言ってんのよ!!この最低野郎!!」
「黙れ!!」
「!!」
「きゃあああああああ」
窮鼠猫を噛むことを忘れていた。突然突っ込んできた男に、私は何もできなかった。
まるでスロー再生しているみたいに、男がナイフを持って突っ込んでくる。
「ユキ!!」
ああ、まるでヒーローが来るタイミングで、私を呼ぶ声が聞こえる。これは幻聴?
それからはあっという間だった。
さっそうと現れたミカエルが、剣でナイフをはじく。
すぐに剣を鞘に戻し、男の手をひねり上げる。
「離せ!!」
「・・・・ホント、あなたは馬鹿ね・・・」
地に伏した男に、マリアがそっと口を開く。
「でも、はっきり言わなかった私も、悪いのよね」
「マリア・・・」
悲しげに瞳を伏せて、マリアは男のそばにしゃがみ込む。地面に押さえつけられているのに、男は喜びの色を瞳に乗せる。
が、次の瞬間男の期待は無残にも打ち砕かれることになる。
「私、女の子しか愛せないの・・・・」
「あ、落ちた」
気を失った男を、気の毒そうにミカエルが、けれどしっかりと縛り上げたのだった。