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馬鹿真面目  作者: よもぎ
4/10

4

全10話の予定です。

 と、殿下と他愛もない話をしていると、入り口をくぐる一人の青年の姿が。年は私と同じくらいの青年だが、何かを探すようにキョロキョロと店内を見回している。


 あ、また来た。


 それを目ざとく見つけた私は、殿下に断わって席を外す。マスターに目くばせすれば、以心伝心。すでにマスターは心得た様子で同僚をバックに呼びつけていた。


「いらっしゃいませ」

「・・・・・・」

「お冷とメニューになります。本日の日替わりメニューは・・・・」

「・・・・蜂蜜酒と、鶏肉の串焼きを・・・」

「はい。蜂蜜酒と鶏肉の串焼きを1皿ですね」

「・・・・あの、マリアは・・・」

「はい?なんでしょうか??」

「・・・・いや・・・なんでも」

「では、少々お待ちくださいませ」


 接客すれば、頼むのはいつものメニューだ。注文を口にする間も、俯き加減にキョロキョロと周りを見ている姿は異様である。


 一礼してバックに引っこめば、そこには不安そうな顔の同僚が。


「・・・・また、来たのね」

「うん。また来た」


 そのやり取りで、彼女の顔がさあっと青くなる。


 このところほぼ毎日来るお客様。頼むのは、いつも安価なものばかりな点から、それほど裕福な身分ではないと言える。


 というか、その男の正体なんてとっくにわかっている。


「・・・・もう、そういう目では見れないって言ってるのに・・・」

「子どもの頃からだもんね。一途な思いってすごいよね・・・」


 なんせ、その思いだけで転生して、前世の恋路を成就させてしまう人間もいるのだから。


 まあ、幼馴染、というのは前世より執念の度合いが少なそうだけど。


 残念ながら、前世でも今世でも恋をしたことのない私にはさっぱりわからない。


 前世で結ばれなかった無念さも。


 相手の気持ちを考えないで、お店に通い続ける彼の気持ちも。


 でも、だからってマリアを困らせるのは許せないわ!!


 というわけで、あの男が来るときはマリアを店からひっこませることにしたのだ。もちろん、マスターも了承済み。


 ただでさえ人手が足りないし、最近繁盛してきて忙しいので猫の手も借りたいのだ。


 本当は、しばらく休んでもらうのが一番なのだが、私とは別の孤児院出身のマリアは、もう成人しており孤児院を出ている。一人暮らしのマリアが家にいるより、ここで私たちの目が合った方が安心だろう。もちろん、帰りは一緒に帰っている。時には家に泊まってもらうこともある。


 頼んだメニューをちびちびと飲んで食べながら閉店まで粘るのだから、もうマリアはホールには出られない。

 

 ああ、今日も忙しくなる・・・。


 だから、相手ができない旨を伝えにいけば、不思議そうに問いかけられた。


「あの男、どうかしたのかい?」

「気づきました?」

「うん、彼が来てすぐに一人ホールから出ていったからね」


 彼が優秀な人間であることがこういう面からうかがえる。


 もういい加減うんざりしていたし、うっかり口を滑らせた私は、悪くないと思う。


「・・・最近毎日お店に通ってきていて、正直困ってるんですよね」

「被害は?なにか危害を加えられたりはしていないかい?」

「幸い、襲われたりはないですが、贈り物が届いたり、あとをつけられたりはあるみたいですね」

「ふむ。今はその程度でも、エスカレートしないとも言い切れないな」

「ですよね。だから、一緒に帰るようにはしているんです。そろそろ、迎えもしなきゃいけないかな?って思ってます」

「君が??孤児院の手伝いもしているのだろ?そんなに時間があるとは思えないけど」

「まあ、孤児院は年長の子がだいぶお手伝いしてくれますし。いっそのこと、泊まり込もうかな?」

「ふむ。では、巡回の人間を増やそう。特にこの店の周辺に目を配るように」

「そうしてもらえると助かります!!」

「ああ、だそうだよ、ミカエル」

「ミカエル!!」


 話に夢中で気が付かなかった。というか、騎士の性なのか気配を消してる?から、気づきにくいんだよなぁ。


 なぜか顔面蒼白のミカエルが、信じられない、とでも言うように私を見ていた。なぜ??


「・・・もちろんです。殿下」

「ミカエル!!ありがとう」

「至急、直ちに、巡回の人間をここに呼びます」

「そうしてくれ」

「殿下、お帰りですが・・・」

「別の者を呼べ。その者が到着し次第、私は城に戻る」


 あれ?ミカエルと帰らないのかな?


「お前は彼女を送るといい」

「・・・・・ありがとうございます」

「ふふふっ、いいのだよ。花を、分けてやらねばいけないからな」

「???」


 よくわからないけど、今日はミカエルが送ってくれるらしい。これほど頼もしいものはない。


「ありがとう!!ミカエル!!ホント、助かるわ!!」

「・・・ああ」


 私的には満面の笑みでお礼を言ったのに、まだ固い顔のまま。


 むぅ、そんなに私を送るのが嫌なの?


 もう、知らない!!


 ちょっとむっとした私は、話は終わったとばかりに二人から離れた。

 

 なので・・・・


「ふふふっ、貸しひとつかな?」

「・・・・命令してくださったことにはお礼をいいます」

「ああ、だって職権乱用できる立場なのに、君はしないだろ?」

「・・・・」

「馬鹿がつくほどまじめだからね、君は・・・」

「・・・・」

「真面目過ぎて、大切なものを失くさないようにね」

「・・・・わかってますよ」


 という会話が交わされていたことを、私は知らない。

 

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