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馬鹿シリーズです。
わたしの名前はユキ。孤児なので家名はない。
元は地球の日本人。今は、名も知らない惑星のランド王国人。ん?孤児だから出生地は違うかもしれない。
前世病弱だったわたしは、現世ではとても丈夫な身体を持つことができた。
人の助けを必要としなければ生きられなかった前世のわたしは、その恩を返すことなく逝ってしまった。
今世では、世のため人のために前世の分も恩返ししていきたいと思っております!!
なので・・・・
「やっと肩の荷が下りた」
「よかったじゃん!!やっと、妹さんの思いが通じたんでしょ?」
人のためとあらば、愚痴のひとつやふたつ聞きますよ?って、感じで酒をあおる青年に答える。
彼の名前は、ミカエル・ラス・シルベール。シルベール公爵家のご子息だ。
金髪に紫色の瞳。美形が多いこの世界でも、特にレベルの高い美形。ちょっと垂れた目元が彼のやさしさを表している、まさに大天使の名にふさわしい青年。まあ、この世界の宗教は地球のものとは違うので、こちらの神話には出てこない天使だけど。
えっ?なんで貴族のボンボンが、こんな城下町の居酒屋にいるかって?それは、ちょっと長くなるのでまたの機会に・・・・。
「まあ、な。まさか、初恋をここまでこじらせるとは・・・・・」
「えっ?何??」
「いや、まあよかったさ」
最後の方は聞き取れなかったが、めでたいことには変わりない。マスターにお願いして、ちょっと高いお酒を出してもらおう!!支払いはミカエルだけどね。
「でもさ、素敵じゃない?初恋の彼のために男のふりしてまでそばにいたいってさ」
「・・・・俺としたら、体のこともあるし、大人しく待っていてほしかったがな」
「ああ、たしか気管支?が弱いんだったっけ?妹の、ルシフェルさん?」
「違う。ウリエルだ」
ミカエルの兄弟っていったら、ルシフェルでしょ?という常識は通じない。なんせ、ここは異世界だからね。
「そうそう、ウリエルさん。まあ、気づかない相手も相手で鈍感すぎるけどね」
「・・・・あいつは、頭の中まで筋肉だからな」
「まあ、蓼食う虫も好き好きっていうしね・・・」
「??なんだ、それ??」
「わたしの世界のことわざ・・・・ってごめん!!お客さんだ!!」
「ああ・・・」
キラキラしたミカエル越しに、一人の男がのれんをくぐるのが見えて、慌てて仕事に戻る。
そうそう、わたしはここ『のんでっ亭』のウエイトレスとして働いているのだ!!ちなみに昼間の名前は『たべてっ亭』。昼は食事処、夜は居酒屋の二つの顔をもつお店なのだ。ネーミングセンスは、いまいちだけど、味は絶品のお店なのだ。
「はあ、まさかあいつに先を越されるとはな・・・」
ため息とともに吐き出された言葉は、あいにくわたしの耳には届かなかったのだった。