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お前もテイムしてやろうか  作者: 心許ない塩分
お前も【テイム】してやろうか
11/14

10 【テイム】(3)



「お、おいおい……」



 目の前に浮かびぶウインドウ、限られた枠内に表示された無機質な文字に横へとどける事も忘れて凝視する。表示された正否は『失敗』……つまりフォルネウスに対して【テイム】が効かなかったという事だ。



「ッ!」



 『ボス戦中に』緩めてしまった頭が突然の横凪によって揺らされる。踏み締めた足の下から感じる強い鼓動、突進後の静止を保っていたフォルネウスの身体が『動き出す』。


「う、わ」


 地面を叩く横ヒレ、砂塵に渦を描く長い尾。青白い皮膚越しに見える外の景色は重心を狂わせたかのように斜めに傾ぎ、上下に揺さぶる振動に立っている事が出来なくなり腰を下ろす……ついさっきまで地面にひれ伏せさせようと思っていた当人がこの有り様、必死に足を張り付けて振り落とされないように耐えているなんて。笑うに笑えない。



「くッこの……調子に乗って!」



 鮫のくせにやたらと弾性の高い蒼い皮膚。自然に揺らぐ足で膝蹴りの体勢で叩き付け掲げた腕を振り下ろす。


 ダメージは皆無。

 悲鳴も上げず今の位置からは見えない鮫の横顔に、心の中で『見てろ』と繰り返し爪を立てる。

 吐き出す言葉は先程と同じ、しかし内心の余裕が無くなった為に切羽詰まったような声となってしまう。



「【テイム】!」



 獣使いのスキル【テイム】。


 響く言葉の終わりを待たず空中に生まれるのは幾何学的な文字の列、虚空から顔を出す黒色の鎖。

 一瞬の間もなく手の中から飛び出した無機質な金属端は揺れる蒼肌を喰い荒らし抵抗も無く奥へと進む。

 モンスターの中心、核へと進む進行に頭を過ぎったのは嫌な予感だった。



「く、ここまで来ておいてそんな──」



 さっきの失敗は……たまたまだったかも知れない。

 ゲームは計算の集合。

 相手が格上だった場合には当然【テイム】の可能性にも影響を与える。


 成功値の減算。

 耐性の有無。

 確率。

 偶然。


 それでも『0』でなければ問題はない。数を重ねればうまくいくかも知れないという希望だ……頭の隅の、小さく頭をもたげた考えには蓋をする。



「──」


 中心を捉えるまでの短い時間。



『【テイム】 failed』


「な……グッ!」



 ……目の前に現れたのは人の気など察せられない軽い音と正否を現す無味乾燥なウインドウ。


 吐き出した自分の声は風に晒され上へと下へと、時には背後からすら聞こえて来る。地を離れ空を泳ぐフォルネウスのスピードは、先程までがまるで遊びだったとでも言うように容赦がなかった。


 目まぐるしく変わって行く光景。上下の境の消失、耳鳴りにすら覚える風の音。

 空間を斜めに裂き、音の反響すら切り取って行く蒼の身体は次第に高く昇って行く。壁走りをするように岩肌ギリギリのラインを抉り、あるはずのない脳みそをシェイクする軌道。

 息する酸素が後ろに、叫ぶ声が下に、高く高く昇っていく『暴走』は止める者の無く勝手でどこまでも自由に目に映り。

 そして、どこかしら愉しそうに見えた。



「くっそ、ふざけるなよ!」



 現実の自分の体ならばとっくに振り落とされているであろう速度。

 背後を振り向くとだだっ広いボスの間の地上は彼方に見え、原始的な『落ちたら死ぬだろう』という薄ら寒い怖さが胸に沸く。

 余りによく作り込まされて容易に想像出来る落下死の四肢散々とした姿……実際の所は落下を待たずに防御壁に阻まれてゲーム的には死亡するんだろうが



「この、鮫が」



 まだ、諦めてやるつもりは微塵もない。

 息苦しさを感じる身体に、足りない酸素を肺へと送るイメージ。風に伏せ、張り付けたままの腕を短い間だけ離すと声を絞り出す。



「【テイム】!」



 宙に浮かぶ文字。

 形を取る鎖。

 射出され、埋没する。巨大な身体の中心を捉えボスモンスターの内側を侵攻する支配の楔……到達までに僅かな間があり、振動に耐えて待っていると新たな正否のウインドウが浮かび上がる。



『【テイム】 failed』


「……くっ」



 通算、三度目の失敗。

 『前回』のように障壁に邪魔された訳じゃない。密着し遮る物なんて何も無い状態からの純粋な可能性による失敗だ。



「クッソいくつだ成功率! 三割? 五割? いい加減にしろよ!」



 ……よくある事、本当の実行値による数値が五割であっても体感成功率が三割程度なんてよくある事。

 失敗が余計に記憶に残り、成功の姿が霞んで見えるだけ。


「ク」


 ……なら、実際の成功値はいくつだ? 連続三回失敗をする可能性はどれくらい?

 成功率三割なら普通、五割なら運が悪かった。七割、九割。

 例え99%だってこうなる場合もある。



 ──だから……そもそも『デマ』で効かないなんて考えるなよ。



「ッ!」



 三度目の挑戦が虚しく終わった後、重い音と何かが壊れる炸裂音が頭上で響き渡る。

 必死に上げた顔の先に見えたのは『青い』爆発。天井付近で空を彩った非現実的な華は硬い岩窟を容易に吹き飛ばし、『落ちてくる』。



「──ッ!」



 遅れてやってきた剥がれる音に、吹き荒ぶ風の中だと言う事も忘れて回避行動を取った。


 フォルネウスの背中を蹴る足、宙へと投げ出す身体。不愉快だった防御壁は『こういう時』には機能をしないのか。透明な膜を抜けて迫り来るのは鋭利な岩片……爆発によって削り落とされた天井の一部だ。


「ツ!?」


 逃げ出した手前で最も大きかった欠片が衝撃で弾けた。

 フォルネウスの背はそれでも傷一つ無く。割れた破片が散弾銃のような勢いで身に迫った。



 咄嗟に眼前で交差させた腕。

 音と衝撃。

 ファンタジーな鮮やかな火花が肌から舞う。



 視界が一瞬赤い点滅で支配された。残り半分となった体力が追撃の欠片により一割以下を切った証だ。


 滑る足は着地を失敗してそのまま転がり、瞬間身体は何も支える物のない虚空へと。


「ッ」


 眼下に見えるのは遠い地上。視界の端に弧を描いたような鮫の口端が僅かに見え





「──ふざけるなよ」



 夢中で伸ばした指先は腰から下げた剣を掴んだ。




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