表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あなたへの手紙~空のような君との出会い~

作者: ヤミヤ

 男は手紙を読んでいた。

 それは、ある人から送られた手紙。

 ある人の思いが詰まった手紙。

 されど伝わるかわからない手紙。


◆◆◆


 あなたと出会ったころを覚えてますか?

 あなたはいつも、周りの人の幸せが、自分の幸せなんだと話していましたね。

 いつも楽しそうに笑っていましたね。

 時には笑うのに疲れて、へこんでいましたね。

 時には不安に潰れそうになって、必死に涙をこらえていましたね。

 

 あなたと出会って随分経ったような気がします。

 でも、出会ってから経った期間は、ほんの少しだったんですね。

 不思議な感じです。

 あなたと交わした言葉はほんの少しなのに、あなたと過ごした時間はほんの少しなのに、あなたをとても近くに感じます。


 あなたには多くのものをもらいました。

 多くの幸せをもらいました。

 ありがとう。

 あなたと出会えてよかった。

 あなたと言葉を交せてよかった。


 覚えてますか?

 あなたに贈った言葉を。

 自分の幸せは自分で決めないといけないと、自分でしか決められないといった言葉を覚えていますか?

 でも、あなたは、最後こういいましたね。

 「それでも、周りの人の幸せが私の幸せなんだって」

 

 聞いていないと思ったでしょ?

 去り際にぼそっと言ってましたけど、私が何も反応せずに去ったから、聞いていないと思ったでしょ?

 

 甘い。甘いのですよ。

 私はあえて気づかない振りをしていたんです。

 全く想像通りの答えなんですから。


 あなたがこれから生きていき、私と同じ結論になるかは分かりません。

 もしかしたら、あなたは貫けるかもしれない。

 周りの人の幸せを自分の幸せだと感じたまま、生きていけるかもしれない。

 全ての清濁を飲み込んでも、それでも、その思いを生涯貫けるかもしれない。

 

 できれば、私は、この言葉の本当の意味をあなたに理解してほしくない。

 仮に、私の言葉の本当の意味を理解したとしても、実感してほしくない。


 矛盾していますね。

 あなたに贈った言葉なのに、あなたにその意味を理解して欲しくないなんて。

 あなたに実感してほしくないなんて。

 

 でも、いつの日か、あなたはこの言葉を理解する時が来ると思います。


 できることなら、あんなことも言われったっけと笑い飛ばしてください。

 今と同じように笑っていてください。

 

 そして、何よりもその周りの人の中に自分の事も入れてあげてください。

 あなたが幸せにならなければ、あなたの周りの人は本当の意味で幸せになれないのですから。

 あなたが無理して笑っても誰も喜ばないのですから。

 

 それだけが、私があなたに贈る事ができる精一杯の言葉です。

 それだけが、私の願いなのです。

 

 私と出会ってくれてありがとう。

 こんな言葉しか送れない私だけど、出会ってくれて本当にありがとう。

 あなたのそんなところが大好きでしたよ。


◆◆◆


 その後、男がその思いを貫けたかは誰にも分からない。

 ただ、男が幸せに暮らしたことだけが分かっている。


 手紙の最後には、こう書かれていた。

 それでも、あなたは笑うんでしょうね、と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この作品を読んで、これを思い出しました。 僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸(さいわい)のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。 --宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
[一言] いつもありがとうございます。 さすがヤミヤさんですねw よく分かってらっしゃるw ヤミヤさんから言われた言葉の意味、今わ分かりません。 いずれ分かる時がきても今みたいに笑ってますよw ヤミヤ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ