あなたへの手紙~空のような君との出会い~
男は手紙を読んでいた。
それは、ある人から送られた手紙。
ある人の思いが詰まった手紙。
されど伝わるかわからない手紙。
◆◆◆
あなたと出会ったころを覚えてますか?
あなたはいつも、周りの人の幸せが、自分の幸せなんだと話していましたね。
いつも楽しそうに笑っていましたね。
時には笑うのに疲れて、へこんでいましたね。
時には不安に潰れそうになって、必死に涙をこらえていましたね。
あなたと出会って随分経ったような気がします。
でも、出会ってから経った期間は、ほんの少しだったんですね。
不思議な感じです。
あなたと交わした言葉はほんの少しなのに、あなたと過ごした時間はほんの少しなのに、あなたをとても近くに感じます。
あなたには多くのものをもらいました。
多くの幸せをもらいました。
ありがとう。
あなたと出会えてよかった。
あなたと言葉を交せてよかった。
覚えてますか?
あなたに贈った言葉を。
自分の幸せは自分で決めないといけないと、自分でしか決められないといった言葉を覚えていますか?
でも、あなたは、最後こういいましたね。
「それでも、周りの人の幸せが私の幸せなんだって」
聞いていないと思ったでしょ?
去り際にぼそっと言ってましたけど、私が何も反応せずに去ったから、聞いていないと思ったでしょ?
甘い。甘いのですよ。
私はあえて気づかない振りをしていたんです。
全く想像通りの答えなんですから。
あなたがこれから生きていき、私と同じ結論になるかは分かりません。
もしかしたら、あなたは貫けるかもしれない。
周りの人の幸せを自分の幸せだと感じたまま、生きていけるかもしれない。
全ての清濁を飲み込んでも、それでも、その思いを生涯貫けるかもしれない。
できれば、私は、この言葉の本当の意味をあなたに理解してほしくない。
仮に、私の言葉の本当の意味を理解したとしても、実感してほしくない。
矛盾していますね。
あなたに贈った言葉なのに、あなたにその意味を理解して欲しくないなんて。
あなたに実感してほしくないなんて。
でも、いつの日か、あなたはこの言葉を理解する時が来ると思います。
できることなら、あんなことも言われったっけと笑い飛ばしてください。
今と同じように笑っていてください。
そして、何よりもその周りの人の中に自分の事も入れてあげてください。
あなたが幸せにならなければ、あなたの周りの人は本当の意味で幸せになれないのですから。
あなたが無理して笑っても誰も喜ばないのですから。
それだけが、私があなたに贈る事ができる精一杯の言葉です。
それだけが、私の願いなのです。
私と出会ってくれてありがとう。
こんな言葉しか送れない私だけど、出会ってくれて本当にありがとう。
あなたのそんなところが大好きでしたよ。
◆◆◆
その後、男がその思いを貫けたかは誰にも分からない。
ただ、男が幸せに暮らしたことだけが分かっている。
手紙の最後には、こう書かれていた。
それでも、あなたは笑うんでしょうね、と。