【第七話】夕日に照らされる少女
「よ、よかった。バレなくて…………」
あの後、なんとか稲垣先生にバレることなくその場をしのぎ、
現在は放課後。
「もう! 私まで逃げる羽目になったじゃない!」
泉さんは巻き添えを食らったことに少しご立腹のようだ。頬を膨らませ僕に抗議してくる。しかし、泉さんどんな顔をしても可愛いな。
「あはは、ごめんごめん」
「ニヤニヤしてる! 全然反省してないよね! もう…………、どうして紙ヒコーキなんて飛ばしたの?」
泉さんは少しスッキリしたみたいだ。声の大きさを通常に戻し、僕の行動の意味を問いかけてきた。
「いい風が吹いてたから。いい風が吹いてると、紙ヒコーキを飛ばしたくなるんだよ」
僕が小学生の頃、仲のいい友達に折り紙を教えてもらった。その友達がきっかけで折り紙が好きになり、今では考え事をしている時や手持ち無沙汰な時は知らない間に折り紙をしている僕がいる。ようは癖になってしまったのだ。癖とは中々治らないから癖なのだ。しょうがない。
それにしてもその友達、なんて名前だったっけな。顔も思い出せない……、実はそれほど仲のいい友達でもなかったのか。
まぁいいか。とにかく、この癖は治りようもないし、それほど邪険しているわけでもない。
「そうなんだ……」
泉さんはそれ以上聞いてはこなかった。まぁそんな根掘り葉掘り聞きたいような話でもないしな。
そして僕らは今、七組の教室に向かっているわけだ。流石にマンモス校。中等部の校舎だけでもかなりの広さで、七組の教室に向かうには階段まで登らなくてはいけない。
しかし、言ってはみたが。今日向さんと接触してなにかが変わるのだろうか。あの時だって日向さんは顔色一つ変えなかったし。
も、もしかして。本当に僕の勘違い? 彼女は普通に一人でいたいタイプなのか?
いや! 僕はもう引き返さないぞ! 男に二言はない!
僕が色々と考えていると、前方から高速で走ってくる男がいた。あのイカツイ体躯にあの悲痛に満ちた表情、僕には見覚えがある。
雅俊だ。
「って、雅俊!?」
「うぉぉぉぉ! 蒼太ぁ! 泉ぃ!」
雅俊は僕らを確認すると、僕ら目掛けて突進してきた。ちょっと待て! なんで止まらないんだよ! 突っ込んでくる気か?!
暴走した雅俊はどんどん加速していき、僕ら、正確には僕に目掛けて突進してきた。
なんで! どうしてこんなことになってんだ! なにこの展開全く読めない!
僕が慌てている間に泉さんは少し離れて待機、雅俊はもう僕の目の前まで迫っていた。
「相棒ぉぉぉ!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「え、えっと……、角井君と新井君も、大丈夫?」
悲惨だった。雅俊のタックルを正面から受けた僕はそのまま後方に吹っ飛び、意識を失いかけた。そこをなんとか泉さんに介抱され助かり、暴力罪で現行犯であるはずの雅俊はなぜか僕より深い傷を負っていた。主にメンタルに。
「大丈夫じゃないよ…………、っつう!」
「も、もう俺はだめだぁ」
雅俊は体にダメージを負った僕のことなどお構いなしに地面に突っ伏して、泣きながらなにが起きたかを語り始めた。
「あの後、いつもどおり日向さんを眺めながら授業を受けていたんだけどさぁ」
「お前いつも何してんだよ」
「新井君! 茶化さないで!」
泉さんに怒られた。た、確かに茶化していい雰囲気でもないな。
「ご、ごめん、つい突っ込みたくなって」
僕は先ほどより真剣に話の続きを聞く。
「だけど。なんだか蒼太や泉だけに任せるのもなんか申し訳なくて……。それで俺、日向さんに声をかけてみたんだ」
「それで?」
話のオチが段々見えてきたが、仕方なく最後まで聞いてやる。
「…………無視されたぁ! 顔すら見てもらえなかった足すら止めてもらえなかったぁ!」
予想通りの結果だった。しかし、雅俊が先に日向さんに接触するとは。それであんなにボロボロだったのか。
自分勝手な行動の結果僕を巻き添えにしたことは許されることではないが、まぁ僕も鬼ではない。ここは雅俊の気持ちを汲んでやるか。
「大丈夫。あとは僕らでなんとかしてみる。ナイスファイト」
僕は屈んで雅俊の肩を叩いた。
僕は立ち上がり泉さんの方に向き直る。
「さて。どうしようか」
僕は泉さんに問いかけたが、すでに泉さんはなにやら決意した表情をしている。その瞳にはなにやら闘志のようなものが目覚めていた。
「よ、よし! 次は私が行ってくるよ!」
「とりあえず今の雅俊を見て、どうして行く気になったのか教えてくれないか」
泉さんはどうやら攻略難解な人を友達にするのが好きなようだ。僕の勝手な予想だけど。
「止めても無駄だよ! 女の子相手にはやっぱり女の子だよっ! 私に任せて!」
止めようとしたが、泉さんの瞳に宿る闘志が僕をそうはさせなかった。
まぁ泉さんなら大丈夫だろう。雅俊ほどメンタル弱そうでもないし、一度や二度無視されるくらいでヘコむような娘でもないはずだ。
雅俊の様子を見て、流石に怖気ついたのか、ゴクリと唾を飲んで教室の方に向かう。
だんだん僕から遠のいていき、とうとう教室に入った。
待つこと数分。
教室の扉が開け放たれ、現れたのは泉さんだった。
「おーい、泉さ」
しかし泉さんは僕を見ることなく、教室のすぐ隣にある女子トイレに向かい、入口に「そっとしておいてください」という貼り紙を貼ってトイレにこもってしまった。
「そ、そんな! 泉さんまで………」
僕は意を決して足を前に進める。そのまま進んでいき、女子トイレの前を通り過ぎ教室の扉を開けた。
夕日差し込む静けさだけが残った教室。無人かと思われた教室の窓側の席。闇に溶け込みそうなほどの黒い髪は窓から流れる心地よい風に吹かれてなびいている。
「…………日向」
僕はその幻想的なシーンに先ほどの出来事のことも忘れ、少女を呼んでいた。
少女はピクリと反応し、手の動きを止めた。背筋を伸ばした綺麗な体勢もまま顔をこちらに向け、小さく口を開いた。
「新井、蒼太」
更新遅れて大変申し訳ございません!
なんとか無事に再び更新することができました!この様な失態二度と繰り返さないように頑張りますので、感想などご意見ご要望お願いします!