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恋愛アーカイブ  作者: パピコン
静かなる少女の真意
4/9

【第三話】孤独少女と暴走男

 僕が命名した紙ヒコーキ物語も無事終を迎え、新しい日常が僕を迎えた。

 クラスで泉さんにおはようと言い、泉さんと少し会話をし、泉さんにさようならと言う。中学三年生になったばかりの頃の自分にはまるで想像できなかったであろう充実した日常を送っている。

 今になったらよくわかる。あの出来事が僕の人生の分岐点だったのだ。あの時、選択肢を間違えていたら僕はどうなっていたのだろう。

 いや、考えなくていい。僕は忘れかけていた幸せな時間を過ごしている。これだけで十分だ。

 そんな僕のちょっと明るくなった新しい日常にちょっとした事件が発生した。

 今まで孤独だった僕が急に泉さんと仲良くなったのをクラスメイトが見て、僕にこういう質問をしてきたのだ。

「新井君。泉さんと付き合ってるの?」

 学校でよくある、一人の女の子と仲良くしている男子を対象に発生する噂。む。やはり女の子だけと話してたらこういう噂が発生するとは予想していたが、これでは泉さんに迷惑がかかってしまって申し訳ない。

「そう思った僕はこの状況をなんとかしたい訳だが」

「えっ! そんな噂話広まってるの…………?」

 やはり相談するなら本人である泉さんが一番。というか泉さんくらいしか相談できる相手がいないだけだが。

「…………新井君は迷惑じゃない?」

「いや、僕は平気だけど」

 むしろこんな可愛い女の子と噂になれるんだったらどんと来いなんだけど。流石に泉さんに迷惑がかかる。

「そっか、嫌じゃないんだ…………」

 泉さんの表情が少しだけ緩んで見えた。心なしか嬉しそうだ。

「でもどうにかしないと。うーん」

 しばし思案していたら泉さんが笑顔になった。なにか思いついたみたいだ。なんとなくだが嫌な予感がする。

「ならもう一人友達を作ってみたら? それも男の子の! そうすれば異性の私だけと仲良くしているとか言われないでしょ?」

 それは確かに名案だった。だが、しかし……。

「なっ、に…………?」

 ぼ、僕にもう一人友達を作れと? 一人友達を作るのにもあんなに苦労したこの僕が? でも泉さんの為だし、このまま噂が流れるのは良くない…………。

 僕が頭を抱えて悩んでいると泉さんは僕を見てクスクス笑っていた。

「ふふっ。新井君って面白いね。やっぱり新井君なら誰とでも友達になれるよ」

 そう言って笑顔になる泉さん。

 そうだ。僕は、泉さんと友達になれたことで昔に感じていた疎外感を忘れる事ができたんだ。泉さんと一緒にいればまた友達の作り方を思い出せるって。

「…………わかったよ。やってみる」

 こうして、僕は中学二度目の友達作りを計画するのだった。

 

あれから、友達を作る方法を考えていたが。二年間のブランクは相当大きいようで、友達どころか話すこともままならない。そもそも、今週で桜も見納めになりそうなこの時期は大抵クラスでグループができているものだ。残念ながらそのグループの輪に入る勇気を僕は持ち合わせていない。となれば、残る手は…………。

「運命の、出会い…………!」

「おーい」

「はぃぃ!」

 一人で盛り上がっていたら女の子に話しかけられた。

 何故ここの学校の生徒はいきなり後ろから話しかけてくるのだろう。しかも考え事してる時に。

しかしこれはマズイことになったぞ。

も、もしかして独り言聞かれてた? は、恥ずかしぃ! これはかなり恥ずかしいぞ。『これでは一人が好きそうな少年』から『一人の寂しさを紛らわす為に目には見えない誰かと会話してる可哀想な奴』にランクダウンしてしまう!

悶々としていた僕だが、ずっと自分に向けられている視線に気づく。

この子、ずっと僕を見てる。そもそも僕に一体なんのようだ? 僕は誰かに話しかけられるほど中学での人脈はないはずだ。なら、小学生の時の? だけどその頃の知り合いは流石の僕でも覚えてるはずだし。

「これ。落としたよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 女の子はそう言って僕がどこかのタイミングで落としたであろう鍵を僕に手渡した。

 あぁ、鍵。落としていたのに気付かなかった。なんだ、僕の考え過ぎか。

「あのー」

「は、はい!」

 うぉ。まだいたのかこの子。

「ポケット」

「うん?」

 女の子が僕のズボンのポケットを指差す。

「ポケット、出して」

「ポ、ポケット…………?」

 女の子に言われたのでポケットの袋を出す僕。

「あ、破れてる!」

 僕のポケットに鍵程度の大きさの物なら簡単に抜け落ちてしまいそうな大きい穴ができていた。

「やっぱり………。鍵を落とす人って大体の人がポケット破れてるのが原因だから」

 なるほど。全く気付かなかった。それにしても危なかった。この娘がいなかったら僕は家に帰れなかったかもしれない。

「教えてくれてありがとう。あと、鍵も」

 ポケットを見ていた顔を上げ、お礼を言おうとしたら女の子が縫い糸を持って僕を見ていた。

「…………」

 ポケットを縫うんだよね? この展開ではそれ以外ありえないけど、わかってはいるけど、なんとなく彼女から感じる謎のオーラに僕は恐怖していた。

針を構え僕に少しずつ近づいてくる。僕は少し後ずさる。

「じっとしてて…………。縫うから」

「なにを! っ!」

 後ずさっていたら壁際まで追い込まれていた。

 じりじりと近づいてくる針を構えた女の子。

「う、うわぁぁぁぁ! …………ん?」

 僕は恐怖のあまり目をつぶっていたが、いつまでたっても針で縫われる感覚がないので目を開けたら、女の子は僕のズボンのポケットを縫い始めていた。

「ポ、ポケットのことか…………」

「他に縫うものなんてないよ」

「いや、わかってはいたけどさ。なんか君の表情があまりにも真剣そのものだったから」

「針を持つと、心が高ぶってくる」

「なるほど。僕の考えはあながち間違いでもないわけだ」

 会話しながらもチクチクと器用にポケットを縫っていく女の子。

「器用だね」

「裁縫が趣味だから。裁縫道具を携帯してるの」

 へぇ。今時珍しい。裁縫が好きな女の子なんて、今のご時世では中々いないだろう。

それにしても変わった娘だ。初対面の僕に話しかけてくれるだけでなく、鍵を拾ってくれてこうして破れたポケットを縫ってくれるなんて。

 ここで優しい娘ではなく、変わった娘と思ってしまう僕の心はやはりすさんでしまっているのだろうか。

「君は、不思議な娘だね」

「あなたは変な人」

 顔色一つ変えずに言いやがった。

うっ…………。確かに今の出来事を誰かに見られていたら僕は変人扱いされていることだろう。だが不幸中の幸いか、今は廊下に人がいる様子はない。

 こんな少しおかしな会話をしているうちに、不思議な彼女は手をピタリと止めた。

「はい。終わり」

 立ち上がって僕の顔を見上げる。小さいな。

「色々ありがとう」

「うん」

 ……………………あれ。ここからどうするんだ。

 突然喋ることがなくなった僕は慌てて話題を考える。

 ここでコミュ力の高い人は遊びのお誘いとか、場を盛り上げる一言とかを言うのかな。しかし残念なことに僕はそんなコミュ力は失ってしまっている。

 天気の話とか? いや、それは漫画とかで見る更に気まずくなるパターンだ。

 僕がアタフタと考えてるのをよそに、彼女はどこにも行かずに僕を見ていた。

 いや、いくら人付き合いの得意な人でも、彼女と盛り上がる会話をするのは難しいだろう。

 そう思わせるほど彼女は静かで。

しかし、その静けさの中で何かを求めるかのように僕のことを真っ直ぐ見ていた。

 僕と似ている。不意にそんなことを思ってしまって。僕と似ているからこそ、僕は彼女を放ってはおけなかった。

「名前。君の名前を教えてくれないか?」

 僕は、いつの間にか名前を訪ねていた。だって、彼女が周りに孤独さを感じさせないほど、彼女が孤独さに慣れているように見えたから。

「愛璃。日向愛璃」

「そっか。よろしくな、日向」

 握手をする為に日向に向けて手を出す。

 日向は無表情だし、なにも言ってはくれないが、僕の手を握ってくれた。


 日向は図書室に用事があるようで、すぐに行ってしまった。

「日向か。僕は彼女と友達になれたのかな」

 それにしても最近はドラマチックなことが起きすぎている気がする。このままでは、僕の記憶に残る実際に起きた名シーンは中三の思い出で全部埋め尽くされてしまいそうだ。

「お、お前!」

「どわぁ!」

 最近のドラマチックな出来事を思い返していたところでまた後ろから誰かが話しかけてきた。

 なんなんだこの学校は! 後ろから人を驚かすルールでも作られてるのか!

 僕は飛び出そうになった心臓を落ち着かせて、話しかけてきた人物の方を向く。

 だ、男子だ! そもそも僕が廊下をうろうろしていたのは同性の友達を作る方法を考えていたのが理由。目標が向こうから話しかけてくるとは。なんだか今日は驚きの連発だな。

「お前! 今、日向さんと話してただろ! それも少しいい雰囲気で!」

 み、見られていたのか。困るわけではないが、あの思い出は僕一人のものとして保存しておきたかったのに……。

それにしてもちょっと興奮しすぎだろこの人。

「い、いい雰囲気かどうかはともかく、話してたけど」

 そう答えると僕より少し背の高い彼はすごい剣幕で僕に迫った。

「それは! お前は日向さんとお友達ということだな!」

 な、なんなんだこいつ。鼻息尋常じゃないぞ。少し落ち着けよ。

「と、友達ってことになるのかな! とりあえず少し落ち着けって!」

「そ、そうだな。悪い…………」

彼に説得を試みると、案外簡単に引いてくれた。

「名前は?」

 少し落ち着いたらしい目の前の男は僕に名前を訪ねてくる。

「新井蒼太」

「蒼太か。俺は角井雅俊。名前で呼んでくれて構わないぞ相棒」

「あ、相棒……?」

 初対面で相棒呼ばわりされたのは生まれて初めてだ。でもこんな思い出あまり保存しておきたくはないな。

「それでだ、相棒」

 僕を相棒呼ばわりする少し挙動不審な男、角井雅俊は僕から二、三歩離れると。

「協力して欲しいことがある!」

 僕に向けて土下座してきた。


 恋愛アーカイブ3話目。完成しました!

 今回新キャラが出て、物語は更に進んでいきます。今回の話はヒロインはメインではありません。美春を気に入ってくださった人は申し訳ございません…………。

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