【第一話】運命の出会いとは突然に…………
人生とはつまらないものだ。僕がそう感じたのは中学一年生の春。同い年の人間たちが期待と緊張に胸を膨らませているのであろう入学式で、僕新井蒼太は妙な疎外感に襲われた。それは両親の存在だ。僕と同じはずの新入生たちは、親に手を振られながら緊張した趣で入場を始める。しかし、僕には手を振ってくれるような両親はいなかった。母親も父親も海外で仕事をしていて、帰ってくるのは年に一、二回。顔を合わせたとしてもそんな両親とのコミュニケーションが上手くいくはずがなく、微妙な関係が生まれてしまっている。ふと、こんな事実に気づいてしまった僕は、友達を作れなくなった。
あれから二年。中学三年生となった僕は、変わり果ててしまった。小学生の頃に作り上げた、「僕たち」という関係は、「僕と、その他の子たち」に変わった。「友達を作れなくなった」は「友達を作らなくなった」に変わった。僕は孤独という立場から、人への関心を失ってしまった。
新しいクラスには僕と正反対な女の子がいる。
泉美春。新しいクラスになり周りも見知らぬ人間ばかりになったというのに、彼女は二週間でクラスの中心人物にまで上りつめた。彼女は、面倒見がいい、世話好き、明るい、などのいかにもプラス判定しかできないような話しか聞こえてこない。中学二年間一人、きっと今年一年もこれからも一人で居続けるであろう僕とは正反対と言っても過言ではない。僕もあんな風に仲良しゴッコをしていれば、あの輪の中に入れたのだろうか。
そんな過ぎてしまった事をほんの少し後悔しつつ、いつもの様に持参の折り紙用紙を一枚取り出し、折り紙を始める。
……うん? 後悔? いや、僕は後悔なんてしていないはずだ。実際今更友達を作ろうだなんて思ってないし、新しいクラスになって二週間しか経ってないのに何故かカップルになっているあいつらに微塵も嫉妬なんてしてないし。
それでも何故か彼女を、泉さんを目で追ってしまう。僕にはその理由が未だに分からない。分からなくてもいい気もした。
「ねぇ! 新井君、で合ってるよね?」
「うわぁ!」
泉さんのことを考えてたら泉さんに声をかけられた。び、びっくりするなぁもう。
「………新井君?」
「あ! う、うん。新井だけど」
僕はなるべく冷静を装い、慎重に接する。
「あ、合ってたんだぁ! よかったぁ」
いちいち眩しいような笑顔を見せてくる泉さん。なんだ、一体僕になんの用が…………?
「新井君とはまだお話したことなかったから! 折り紙? なに折ってるの?」
そうきたか。僕を上手く取り込んでクラスでの立ち位置を確立しようとしているな。だがそう上手くはいかせないぞ!
「見ての通り。僕は忙しいんだ。あっちへ行ってくれないか」
「折り紙を折っている人はきっと忙しくないと思うんだ」
きっぱりと言う泉さん。こ、こいつ…………。僕のことを暇人と言ったか? それに新井君とは、ってなんだよ。それって僕以外はもう手がけたということか? 恐ろしい女だ…………。早いうちに退散しよう。
「君には関係のないことだ。僕はもう帰る」
「あ! ちょっと!」
その後、しつこく追いかけてくる泉さんをなんとか撒いて、僕は帰り道を歩いている。
はぁ………。今日の僕は少しおかしい。いつもならば、ああいうタイプの人間が来ようと無視を決め込んでいたのに、何故泉さんだとあんなにテンパってしまうんだ。
僕は先ほど教室で折っていた紙ヒコーキを見つめる。
「あそこで僕がこの紙ヒコーキを見せていれば何かが変わっていたのだろうか」
しかし、過ぎたことをどうしようもすることはできない。僕は、いつも帰り道に寄っていた川を見つける。そうだ、この紙ヒコーキを川に流してしまおう。この紙ヒコーキに込められた後悔の念も川に流してしまおう。
僕は堤防ブロックを下っていき川の岸に立ち、紙ヒコーキを飛ばした。その紙ヒコーキはあかね色の空を背景に真っ直ぐ飛んでいき、川を通り過ぎ、むこう岸へと着地した。
「あ、いけない。むこう岸に渡っちゃった」
どうしたものかと困り果てていると、むこう岸にいたのであろう誰かが僕の紙ヒコーキを拾った。
「あ、すみません! 今から取りに向かいますので…………!」
泉さんだった。むこう岸で紙ヒコーキを拾っていたのは僕が川に流そうとした後悔の根源だった。
泉さんは川を挟んで僕を見つめる。僕らの視線は合わさった。時が止まったような感覚。泉さんは僕を見て微笑むと紙ヒコーキを飛ばした。僕らの紙ヒコーキはフラフラと不安定に飛び、やがて川に落ちた。
はい、今回初めて小説を投降させていただきましたパピコンです。なんとなく恋愛ものが書きたいと思いました。今回は会話シーンも少なく、登場キャラも二人という、いまいち面白味の感じない話ではあったと思います。ですが、もう少しこのお話を見守って欲しいです。この作品は笑いあり、涙ありの恋愛物語にしていく予定です。今回一話を読んで、あとがきも読んでくださった方はもう少しこの作品を見守ってやってください。