キミだけの王子さまで居続ける
幼稚園に通っていた頃、彼女は外遊びの時間になると俺のもとにやってきた
「えいちくん、ひなとあそぼ?」
「・・・うん」
自分でも不気味な子どもだったと思う
誰に話しかけかれても、受け答えもせず、ただひたすら洋書を読み続ける園児なんて保育士たちも扱いに困ったことだろう
そんな俺にひなは初対面でマシンガントークを始めた
「えいちくん、えいごよめるんだね、すごいね、ひなね、この前パパたちとシンガポールに行ったんだけど」
さすがに俺も無視できず、
「うるさい」
「あっ、えいちくんきれいな声だね」
「あっちいけ」
「ご本読んでるから?でも今は外遊びの時間だからひなとあそぼーよ」
「お前、きらい」
こどもだから許されたのだ
ひなとおれはちがうクラスだった
室内遊びはクラス内で遊ばなければならなかったので、ひなと遊べるのは室外遊びの時間だけだ
けれど、俺は知っていた
ひなが同じクラスの七澤玲と一緒にいることを
ひなが俺を七澤玲の予備として、みていたことを
俺は上の兄たちにいじめられていた
長男は病院の後継者として厳しく教育され、次男は長男と比べられつつ、兄の保険として育てられていた
2人ともすでに小学生で体格差は明らかであり、俺はたいして抵抗もせず殴られ続けた
父は仕事に忙しく、母は夫人としての役割や兄たちの教育で忙しかった
計画的に作った兄たちとは違い、予定外にできてしまった俺には興味がなかったのだ
長男と5つもちがうことも理由の1つだったかもしれない
小学校受験に力をいれているときに生まれてきたのだから、邪魔だったのだろう
はっきりとした文章としてしゃべりだしたときには、両親たちは俺の扱いに困っていた
神童などと親戚に持ち上げられるようになったが、俺は兄たちとは違う小学校を受験した
幼稚園は女子大までのエスカレーター式の付属学園だったためもある。
しかし、本当はひなと同じ小学校に通いたかったからだ
小学校でも中学校でも俺は団体行動を避け、ひなだけをみつめて過ごした
ひなだけの王子さまで居続けるために