【3月号】【その3 逢引】
【ここは魔物町 作;二人羽織】
【その3 逢引】
ここは魔物が住まうのもま町。多くの魔物が住まうこの町で、今日も今日とて平和で、どこか可笑しい毎日が繰り返されている。
==============
僕の名前は一つ目小僧の一樹。この魔物町に住む一つ目の妖怪だ。とは言っても、一つ目以外は人間と変わらない、つまらない妖怪である。けれども、そんな僕にも彼女が居る。乙姫と言う名前の、舞首の妖怪である。乙姫さんは僕の事が好きだと言ってくれて本日、遂にデートする事になったのだ。
「デート……。楽しみだなぁ……」
僕はそう言いつつ、彼女が来るのを待っていた。そこに、彼女が走って来た。慌てているようで、こっちに手を振りながら「ごめーん♪」と言いながらこっちに向かってきている。そして着いた途端、「だいじょーぶだった?」と口にしていた。
「うん、大丈夫だったよ」
と僕が言うと、彼女が声を出した。
「うん。それじゃあ、ボクと一緒に映画に行こうか?」
「メイクに時間がかかっちゃって……。ごめんね、かずくん。けど、デートはこれから、だよね? 挽回出来るよね?」
「今日はお姉さんといけない夜の遊びでもします?」
乙姫。彼女は、3つの首を持ち、その首それぞれが意思を持つ妖怪なのである。
==========
乙姫さんには3つの首があり、3つの顔がある。1つの顔はボクっ娘のクールな少女、1つの顔は僕をかずくんと呼ぶ少女、1つの顔は大人ぶった少女。それぞれが僕の事を愛していて、けれども彼女の身体は1つしかない。『女にはいくつもの顔がある』とは良く言った物だけれども、本当に顔を持っているのは彼女くらいだろう。
「え、えっと何から始めようかな? 乙姫さん?」
僕がそう言うと、彼女は返答の言葉を出していた。
「映画にしようよ。今日はボクと映画でのデートを楽しむはずだっただろう?」
「かずくん!? 映画も良いけど、やっぱりこ、ここ、恋人なんだから家に来てくれないかな?」
「大人の遊びに、場所なんて関係ないわ。けど、人が来ない静かな場所が良いと思わない?」
と、乙姫はそう言う。僕は頭を抱えて困ってしまう。
……乙姫は初めて出来た僕の彼女だ。だから、彼女の事を出来る限り理解しようと思っている。けれども彼女は、3つで1つなのだ。最初から3つの首と思考を持っていて、彼女達は3つで1人なのだ。誰かの言葉だけを受け入れる事は、他の2人の言葉を否定する事になる。3人とも、いや3つとも僕の事を愛してくれているから、その否定が難しいのだ。
そんな彼女、付き合うのはとっても難しいし、別れた方が良いと思う人も居るかも知れない。けれども……。
「じゃあ、僕は映画で良いけど……3人とも、それで良いかな?」
ニコッと顔を向けると、乙姫の3つの首は全員顔を赤らめて、
「「「はい//////」」」
って、答えてくれる。その様子が、僕が彼女の事を一途に見ていられる理由である。
【次回へ続く】




