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新たな始まり




私が2人にしてあげられることは、ほとんど何もない。

けれど、せめて誠実に、せめて真っ直ぐに2人を想おうとそう思ったんだ。






「ん…」


「ミリア、起きたか」



いつものように朝が来る。

けれど、どこかいつもと違う朝。


いつもより近いザキ様の声に目を開くと、視界いっぱいにザキ様の顔。




「…っ、あ、えと」


「あー、本当やばいなお前。可愛すぎんだけど、どうしろってんだよ」


「な、な…」


「はよ、ミリア」




未だに一緒のベッドに入って寝ることに慣れない。

朝起きて、目の前に裸体の男の人を見るのに慣れない。

そして、自分自身も服を着ないで目覚めることだって慣れないのだ。


慣れない尽くしで、恥ずかしくて仕方なくて、固まる私の顔を包むように手を添えてザキ様は笑う。

最近さらに甘くなった言葉に戸惑って目を泳がせていると、それにも軽く笑って私の口に自分のそれを寄せてきた。



「っ、ん…」




口づけすることが、こんなに恥ずかしいことだなんて思わなかった。

顔がたちまく熱くなって、どうしていいのか分からなくなる。

明らかに変った朝の挨拶に戸惑っているのは私だけで、平然としているザキ様が羨ましいくらいだ。





「……ミリア、こっちにも構ってよ。ザキばかり構っていると、拗ねるよ私」



ガチガチに固まっていると、今度は反対側から声がかかる。

するすると伸びてきた細い腕が私のお腹にまわると、一気に後ろに体を引き寄せられた。




「ほら、こっち向いて?」


「あ、よ、ヨキ、様」


「ん、おはようミリア。今日も可愛いね」



振り向いた瞬間に目に映った綺麗な顔。

そんなヨキ様をよく見る時間もないまま、同じように口づけが始まる。

ザキ様よりちょっと長くて、息継ぎが難しい口づけ。



「ふふ、顔真っ赤で可愛い。愛してるよ、ミリア」



おでこを合わせて穏やかに笑うヨキ様。

やっぱり私はどうすればいいのか分からなくて俯いてしまう。





2人と想いを通わせたあの日から、私達は3人一緒で寝ることが日常になった。

そして数日に一回はこうして肌を重ねる。


間違いなく国の要人である王子様と騎士団長様相手に、こんなことして良いのかと今更すぎる疑問が湧いたのは初めだけ。





「じゃあ、結婚しよう今すぐ。そうすれば誰にも何にも文句言われないよ?この国多夫多妻認められてるし、何にも問題ないね」


「え、え…?で、も、王子様はダメじゃ…」


「ああ、じゃあ俺のとこ来るか?俺は王族でもねえし、問題ねえよ。そっちの方がお前も気楽だろ、俺んとこ嫁ぎに来いよ、大歓迎。今すぐ準備しようぜ」


「…ザキ、抜け駆けするな。誰が認めるか、そんなこと。ミリア、大丈夫ったら大丈夫。私と結婚しよう?」


「…ヨキ様こそ何気に俺を弾かないでくれます?」


「だってミリアが1人しか夫をもてないと言うならば仕方ないだろう?私の方が権力は上だ、諦めろザキ」


「嫌です、ふざけんなこの性悪王子。だれがアンタ1人にミリアをやるかよ」


「あ、あの!私、そんなつもりじゃ」


「ミリア、でもミリアは2人もいらないんだよね?それならやっぱり私は徹底的にザキを排除して…」


「ち、違う!2人いる、いります!」


「そうか、じゃあやっぱり3人で結婚しようね」


「…ちっ、独り占めする好機だったのによ」





そんな感じで丸めこまれ、気付いたら婚約が成立していた。

そういう方面に鈍い私だけれど、王族や主要役職の2人の結婚なんてそうそう簡単にいかないというくらいのことは流石に分かっている。


私自身だって、結婚なんて恐れ多い。

ならこの先どうするつもりだったんだなんて聞かれれば、それも答えられないのが情けないところだけど、それ以上に結婚なんてことは考えられなかったのが正直なところだ。


なのに、そんな私の悩みはあっさりすぎるくらい簡単に解決された。

婚約がなぜか1日もたたずに正式に決定され、国中にその事実が広められたから。

一体何故なのか私にはさっぱり分からなかったけど、聞けばヨキ様が「何にも心配しなくて良いからね?みんな祝福してくれているよ」なんて言ってそれ以上教えてくれなかった。





そして、そんなことがあった3カ月後。

婚約者から夫婦になる日がまさに今日だった。





「あー、長かったなあ。全く3カ月も待つなんて我ながらよく頑張ったよ」


「待ってないじゃないですか、思いっきり手出して。第一3カ月だって異例中の異例の早さですよ、本当。どんだけ陛下に無理言ったんですか」


「先に手出した人間に言われたくないね。それに結婚が早まって喜んでいるのはお前も同じだろう?文句いうな」




ベッドで私を挟んで口論する2人を見るのも、すでに日常だ。

そして、そんな賑やかな日常に私は確かに幸せを感じていた。






「ミリア様。大変お綺麗です」



いつものように朝を過ごした後、連れてこられたのは洋服のたくさんある広い部屋だった。

そこにいたのは、綺麗ですらりとした若い女性だ。


ヨキ様曰くこの国の後宮に仕える女官さんなんだそうだ。

そんな大層な人に世話を焼いてもらうなんて申し訳ないと言うと、ヨキ様は困ったように眉を歪ませる。




「私だってミリアを他の者に見せたくなんてないんだけどね。一回だけどうしても皆にお披露目しなければいけないんだ。だからそのために君を着飾る者が必要でね。まあ、ミリアが嫌ならすぐ追い出すけど」



そんなことを言われては嫌ですとは言えなかった。



ヨキ様ザキ様以外の人間は未だにやっぱり怖くて、初めはガチガチに固まってしまう私。

けれど、そんな私を責めることもせず優しく笑ってくれたその人が私は嫌いではなかった。

赤い髪や目を見ても一切恐れず触れてくれるその人が少し好きだと思ったくらいだ。


勇気を振り絞って名前を聞いてみると、その人はアリアさんと名乗った。

自分と似た名前に驚くと、アリアさんはまた優しく笑う。

そんなことが重なる内に、アリアさんは私より3つ年上のこととか色々と自分のことを教えてくれた。



「私の姉が皇太子殿下の側室となったことがきっかけで、私もこの後宮で働かせていただくこととなったのです。しかし、元は平民の出ですので肩身が狭くて…。他のお妃様にお仕えさせていただくのも、本当は恐れ多くて仕方ないのです」



そんなアリアさんの身の上に、何となく親近感を覚えてコクコクと頷いていると、ハッと何かを思い出したようにアリアさんが口を塞ぐ。



「申し訳ございません、私の話などしてしまって。ミリア様がお話を聞いて下さるからついつい嬉しくて」


「あ…その、私も色々聞いてしまってごめんなさい。あの、私のこと避けないでくれるの嬉しいです」


「なぜミリア様を避けるのです?ミリア様は神に愛されし女神さまでいらっしゃいます。こうしてお世話させていただくのが恐れ多いほどでございますのに」


「お、恐れ多い!?や、止めて下さい、私こそこんな綺麗な人にお世話してもらって恐れ多いです」


「え!?そのようなこと仰っていただくことが私には恐れ多いことでございます!」




ちぐはぐな会話。

けれど、その先に笑みが生まれる。

アリアさんのおかげで、悶々としていたお披露目に対する恐怖が少し和らいだ。





「…なんか、ずいぶん仲良さそうじゃない?」


「本当ですね。俺にあんな顔見せてくれることなんざ滅多にねえのに腹立つ」


「彼女ならミリアも少しは気が楽だろうと思ったのだけど、失敗したかな」


「あー、分かっちゃいたけど女にまで嫉妬するとはな…。どんどん自分が狭量になっていく」




ほんの少し開いた扉から私達を覗き見て、そんなことを言っている人がいたことには気付かなかった。







その後、皇帝陛下や皇太子殿下、お妃様達との挨拶を終えた私は、お披露目の前にすでに疲労困憊で。

それこそアリアさんが言っていたような恐れ多い人達ばかりで気が遠くなりっぱなしだ。

両脇にいるヨキ様とザキ様が手を繋いでくれていなかったら間違いなく失神していたと思う。


私よりうんと身分の高いはずの人達がみんな一様に私の前に膝をついて敬語で話す。

赤髪、赤目の私はこの国のみならず、この世界でも最も地位の高い女神なのだと皇帝陛下は言った。

そして、そんな私がこの国の王子様や騎士団長様の元に降嫁することは、この国の誉だとまで。


千年前と違いすぎる対応に、やっぱり私は戸惑う。

そんな大層な存在じゃないのにこんなに畏まられると、なんだか騙しているような気がして胃がキリキリと痛む。


そんな私に近づいて宥めてくれたのは、いつの間にか宮殿にいたお兄ちゃんだった。




「まあ、慣れないのは無理ないけどね。僕もそうだし」


「お兄ちゃん、こんな私」


「大丈夫。君にはちゃんと君を理解して護ってくれる人がいるだろう?信じなさい」


「…はい」




お兄ちゃんの言葉に背中を押されて、2人に優しく手を引かれて、一歩ずつ歩く私。





「ミリア、大丈夫だよ。歯向かう者には私がお仕置きしておくからさ」


「そうそう、お前に害なす奴がいたら速攻で消すから」


「だ、ダメ!」


「ふふ、冗談…でもないけど。ミリア大好き、愛してるよずっとずっと」


「俺も、お前を愛してる」




そんな会話の後、視界が開けた。

明るい太陽の元に私の赤い髪が晒される。


けれど、そこに響いたのは悲鳴ではなく歓声だ。




まだまだ人間は怖い。

私が犯した罪も、人間達に対する不信感も、消えていはいない。


けれど、この手に感じる大好きなぬくもりと、確かにある人々の明るい声を、今は信じようと思った。



それは、長い歴史の終わりで、長い歴史の始まりの瞬間。

人の輪から外れた私達は、人に囲まれて新しい生活をスタートさせた。








数代に一度の割合で出現する女神を王子と騎士が娶ることが常習化される頃、女神の加護を受ける国としてその名が大いに広まるのは、ずっとずっと先のこと。










最後までお読みいただきありがとうございました!

あとがきはまた時間のある時にでも活動報告にて書かせて頂きますので、興味のある方はお読みいただければ嬉しいです。


また機会がありましたらお付き合いいただけたら嬉しいです。

ありがとうございました。


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