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平和な日常




私はあれから泣き疲れて泥のように眠ってしまった。

色々考えすぎて想いも弾けて、頭が完全に真っ白になってしまったのだ。


時間が経って冷静になると、なんてことを言ってしまったんだとかまた同じことを繰り返すつもりかとか、そんな声がガンガンと響いてくる。

それでも、前ほど逃げる気力を持てなくなってしまったのは、きっと事実を知ってお兄ちゃんの声を聞いて2人の言葉を飲み込んで、私の中で何かが変わったからだ。


今は逃げることよりも、その事実を大事にして、前とは違うちゃんと人を守れる未来を考えたい。

私が生まれてきた存在意義をちゃんと果たしたい、その先にヨキ様とザキ様の幸せがあるなら、それが一番の願いだ。そんな気持ちが強かった。




「ミリア?なんだ、起きてたのか」


「ザキ様」


「はよ、よく寝れたか?」



決意を新たにしていると、いつの間にかザキ様が寝台の近くまで来ていた。

ぐしゃぐしゃと頭を少し乱暴に撫でてから、いつもと同じように前髪をかきあげておでこに口づけをされる。

やっぱり慣れないそれに、ぎこちなくうつむくと静かな笑い声が耳に響いた。

…昨日の今日でどんな顔をすればいいのかも分からなくて私は顔をあげられない。


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ザキ様は私の頬を手で包んで顔を少し強引にあげさせる。

いつもよりまた強引になった行動に驚いて思わずザキ様を見上げてしまった。




「俺の顔見るのは嫌か?」



そんな言葉に慌てて首を振る。

もうあれだけ自分の心を暴露してしまった後だ、無理に拒絶はできなかったから。


そして、そんな私にザキ様はホッとしたように笑うのだ。

男前で頼りがいのある彼が珍しく見せる顔。


その顔を見ると、何故だか体の奥の方がキューっと締め付けられるような感じがする。

どうにかしたいのに、どうすればいいのか分からなくてまた私の頭はぐるぐるしてしまう。


けれどそんな私の様子など気にしない風に、ザキ様はどんどんと私に近づくのだ。

そしてひょいと私の体を持ち上げる。




「じゃ、着替えるか」


「え…え!?あ、あの、ひとりで、できる」


「バーカ。さすがにそこまでしねえよ、理性振り切れる。洗面所に連れてくだけだ」


「…ひとりで歩けます」


「敬語いらないし、却下。悪いけど、俺は踏み込める時は徹底的にやるって決めてんだよ」


「踏み込め…?え?」


「あー、ったく先は長ぇな」




ぶつぶつと何やら文句のような言葉を落とす彼に、私はどういう反応をすればいいのだろうか?

分からなくてぐるぐると悩んでいる間に洗面所にたどり着いてパタンとドアを閉められた。

着替える時だけは着替えやすいようにと手の手錠は外される。

…未だに手首と足の鎖がついてる状況の方がおかしいのは分かっていたけど、色々ありすぎて感覚が麻痺しているせいかそこまで気にならない。




「あ、おはようミリア。着替え終わった?うん、今日もとびっきり可愛い」


「…ヨキ、様?」


「ちょっと時間が空いたから会いに来ちゃった。充電させて、充電」




着替えを終わらせてドアを開ければ、そこにいたのは変わらず綺麗な笑顔を見せるヨキ様。

いつもはこの時間には絶対にいないからなんか不思議な感覚だ。


けれどそんなことお構いなしに、ヨキ様は私に抱きついてきた。





「もう、ミリアそんなに体ガチガチにさせないで?早く慣れてくれないと次に進めない」


「つ、ぎ?」


「そう、次。もっともっとミリアに近い所にいきたいの、私は」





拗ねたようにそう言いながら私を抱く力を強めるヨキ様。

顔を私の肩に埋めているから、息が首筋にかかってくすぐったい。

たまに声が耳に直接響くから、ビクッと体が反応してしまう。

それがたまらなく恥ずかしいのだ。






「ヨキ様、朝からちょっと手出し過ぎだと思うんですけど?」


「うるさいザキ。お前だって、さっきミリアをお姫様だっこなんてしてさ…柄じゃない癖に何しているのだろうね」


「ミリアの態度が軟化してる間に付け込んで何が悪いんですか。第一ヨキ様がそんなにガンガン行くから俺だってそうせざるを得ないだけじゃないですか」


「お前も言うようになったね、昔はそんな真似する奴じゃなかったのに。ミリアの心の隙間に他のものがいることを我慢できるわけないだろう」


「昔は…なんてアンタだけには言われたくないですね」




何やらわけのわからない言い争いをする2人。

お互い悪口をぶつけているようなのに、楽しそうな雰囲気が出ているから不思議だ。

でもきっとこの2人の相性はずっと良いんだろう。

少し羨ましい私だったりする。

そこまで考えて、のんきな自分の思考にハッとする。


それよりも考えるべきことがあるはずなのに。

お兄ちゃんのこととか、これからの自分の身の振り方とか。

結局のところ私はまだ昨日の余韻から抜け出せていないらしい。





「ミリア?なに考えてるの?私のことだけ考えて、他のことなんてどうでもいいから本当」


「…ヨキ様。それより、ミリア。お前まだなんか悩んでるのかよ、話せっつの」




ちゃんとしなければいけないのに、2人は私が思考に落ちようとすればすぐに気付いて引きもどしてしまうのだ。これもきっとこうものん気でいてしまう理由なのだと思う。

それを言い訳にしてはいけないと分かっているけど、他に思いつく理由がないのもまた事実だ。


そんな自分を叱咤するように首を振ってのんきな自分を振り払おうとすれば、頭に浮かぶのはお兄ちゃんの顔だ。


お兄ちゃんは今どうしているのだろうか、元気でいるのだろうか。

ずっとずっと私を守ろうとしながら苦しみ続けたお兄ちゃん。

会いに行くと言ってはくれたけれど、やっぱり心配で。





「あの、私会いたい人が…」


「…誰?そいつ男?だったら許容できないんだけど。というか、消したい」


「ヨキ様、落ちついて下さいよ。で、ミリア誰だ。正直会わせたくないが教えてくれないと何もできねえ」




けれどやっぱりこの2人は、私が外部の人モノに関わることに乗り気じゃないようだ。

途端に不機嫌そうに眉を寄せる。

だからそれ以上言えなくなってしまう。






「…もしかして、“魔王”?」


「彼は魔王なんかじゃないです!」


「……そう、やっぱり彼か。彼自身は別に嫌いでもないけど、ミリアの特別っていうのは腹立つ」


「…俺も気に食わねえ。あいつには悪いことしたが、だからってミリアとの絆とか見せられたくねえし」




本格的に機嫌をそこねてしまったらしい2人。

自分の失言にどうすればいいのか分からない私はやっぱり情けない。


結局それ以上は何も聞くこともできず、ひたすら2人の頭を撫でて機嫌が直ってくれるのを祈る私だった。











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