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エピローグ



あれから一週間の時が過ぎた。

ルーインはそろそろ魔界の生活に改めて退屈を感じ始めていた。

そんな折、父のペコロスがおもしろいニュースを抱えて帰ってきた。

それは結構長い話で、ルーインを心から驚かせるものだった。

そのニュースとは、「天界での異変」に関するものであった。

「なんでそうなったか、まではわからんがな」

ペコロスは話しながら「フヒョヒョ」と笑った。

それは天界の上層部が、根こそぎ逮捕されたという大ニュースだった。

他の悪魔達は訝しがっていたが、二人とナタックー、そしてフィーガーにだけはその理由がわかっていた。

おそらくは今回の陰謀がばれたのだろう。天界にもしっかり「戦争反対派」がいることを確信できる良いニュースだった。

さらにもう一つ。

ヘズニングを逃がしたという天使が「何者か」に倒されたという事だった。

それはまさにそれだけのニュースだっが、ルーインだけは確信していた。

おそらく一連の出来事にはネイヴィスが関わっているだろうと。

「アイツにもやばい親父がいたりしてな……」

ルーインは一人でニヤニヤした。

次に会った時には、事の顛末を詳しく聞きだしたい。

向こうもきっと、こちらの「フィーガー逮捕」というニュースを聞いて、気にしていることだろう。

ルーインは「ビール」を用意させ、正当防衛で無罪になった「何者か」の無事を一人で喜んだ。

…不思議な縁で出会った天使、ネイヴィスという名の者の無事を。



ルーインはその日の夜、魔王ナタックーに呼び出され、魔王城へと足を向けていた。

「悪魔の目」を返せ、というのが魔王からの呼び出しの用件だった。

「ああ、アレか。何の役にもたたねぇから人間界に捨てちまったぜ」

一瞬、「捨てたと言ったら怒られるかも」と、ルーインは少し考えた。

しかし、もはやどうしようもない。

最後にヘズニングに会った時、役に立たないので地面に叩きつけてそのまま置いてきてしまったのだ。

その事を思い出したのは、まさに「返せ」と言われたその時で、時間的にも精神的にも探しに行く余裕は無かった。

「てわけで手元にアリマッセーン」

ルーインは強気な視線でナタックーの反応を伺っていた。

内心少しビビっていたが、それを隠す為にも敢えて、表面だけは強がっていたかった。

「そうか。それならそれでいい」

しかし、ナタックーは意外にも、その一言で全てを終わらせた。

「アレはどうも壊れたようでな。新しいのをやろうと思ったのだ」

更に思いも寄らない言葉を続け、新しい「悪魔の目」を差し出してくる。

「壊れた……っていつからだ?」

ルーインは呆然とした。

確かにナタックーを呼んだ時、悪魔の目は「シーン…」としていた。

どうやらナタックーは無視をしたのではない。

単純に目が壊れていたのだ。

もし、あの時ヘズニングが戦うつもりで現れていたら。

「(今頃はアイツと揃ってミンチか…)」

そう思うと、ルーインの背中には嫌な汗が伝うのだった。

「さてな?お前を1度呼び戻した時にはまだ壊れていなかったからな。壊れたとしたらその後だ。海水にでもつけなかったか?コレは塩分に弱くてな」

「…しらねぇな。一切身に覚えがねぇ」

実際は身に覚えはあった。ありすぎるほどにありまくった。

しかし「壊した」事を悟られない為にルーインはそれをすっとぼけたのだ。

「まぁいい。とにかくこれを受け取れ」

「あ、ああ…」

表情ひとつ変えない魔王に、ルーインは「全部バレてんじゃねぇか…」と、かなり不安な気持ちになった。

しかし、続く魔王の言葉にそんな事はどうでもいいという気分にさせられたのであった。

「ルーイン。お前に正式に人間界調査の職務を与えようと思う。今後の行き来はお前の自由だ。ただし、……ルールはきちんと守れよ?」

人間界で永久バカンス!これにルーインは内心狂喜した。

あまりに大らかで寛大な措置に、この魔王になら仕えてもいいと本気で思った程である。

何しろ、彼にとって人間界は刺激に満ちたおもしろい場所だ。

最近はまた暇になってきて、そろそろ行きたいと考えていたのである。

しかしルーインはそのプライドから、

「まぁ、やれっていうならやってやるよ。オレにしかできねぇ仕事だしな」

と、強気な反応を見せてしまい、魔王に鼻で笑われるのだった。

王城を辞し、帰宅したルーインは、翌日からのバカンスに向けて準備をした後早めに眠った。

そして朝、ルーインはあるひとつの重要な事を思い出す。

「それ」は屋敷の地下にあり、ルーインの来訪と解放を心待ちにしているはずであった。

「やべぇな。長い事放置しすぎたか…」

或いはもう死んでいるかも…

そんな不吉な事を思いつつ、ルーインは地下への通路を急いだ。

今は誰も使っていない屋敷の地下の片隅の部屋。

「嫌な予感しかしやがらねぇ…」

倉庫とも言えるそこで立ち止まり、ルーインは重い扉を開けた。

僅かの魔法力を消費して倉庫の中に灯りをともす。

一応家人に知られないよう、小さな明かりで照らすにとどめる。

そして静かに目的のモノを探し、倉庫の中を歩いて回った。

「…ああ、あった」

長方形のその箱をルーインは倉庫の最奥で発見した。

おそるおそるそれを抱え、畳んである絨毯の上に乗せる。

『サリーちゃんの愛の館』。

それが、この箱の中に入っている道具につけられた名前だった。

ルーインはその道具を使い、友であるはずのラグラスを卑劣な罠にハメたのだ。

「あー、開けるのがこえぇぜぇー…っていうか、やっぱ放置しすぎたよな……」

生きているといいんだが。

恐怖と、罪悪感を抑えながら、ルーインがゆっくりと上蓋を外した。

現れる不気味な洋館のミニチュア。

ラグラスの体を吸い込んだ時と、それは全く変わっていないように見える。

ルーインは耳を近づけて洋館の中の様子を探った。

「……」

中からは何も聞こえなかった。ひたすら静かなままである。

「ああ、やっぱり死んでたか…いっそ忘れたままで居たかったぜ……」

ルーインが落胆し、「やってしまった感」にふるえた直後。

「アーン」

洋館の中から声が聞こえた。

「…あーん???」

ルーインは改めて、館に耳を近づける。

「やだっラグラスちゃんたらお茶目!わたしの指まで食べちゃったのね!」

「う~んサリーちゃんのおゆびおいちぃ~」

「もうーマた指生やサなキャァァア!」

ラグラスは生きていた。

生きて、館の魔物であるサリーちゃんとデキてしまっていたのだ。

しかもどうやら食べていたモノは「サリーちゃんの指そのもの」のようである。

一体中はどうなっているのか。

「僕、とても幸せだよ。サリーちゃんとずっと居るからね!」

「嬉しい!じゃあ死ぬまで一緒よ!あなたが死ぬマデ…離さないカラ!」

「………」

ルーインが胸ポケットの中をまさぐり、一応持って来た「脱出キー」を取り出す。

これを使えばラグラスをサリーちゃんの館から出す事が出来る。

「(…だが、これが必要か?)」

ルーインは少し考えた後、1枚の用紙とペンを喚び出す。

「幸せの形は悪魔それぞれ、自分の運命は自分で決めな…」

ペンを使い、用紙に文字を書く。

「出たけりゃ使いな」と、書いたようだ。

用紙にくるまれた脱出キーが、ルーインの手から館に投げられる。

投げられたキーは小さくなりながら、館の中へと吸い込まれていった。

「ふぅ…」

それからルーインはため息をつき、無言で館の蓋をかぶせた。

そして、倉庫の入り口に行き、最後に一度だけ中を見ると、

「まぁ多分…帰ってこねーだろうな…」

と、「ボソリ」と呟いて扉を閉めた。



とりあえずは終わりです。

長いお付き合いありがとうございました。

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