◆魔物学◆
意見ありがとうございました!超最上級は消します、申し訳ありませんm(__)m
―――――――さて。
ミーシャの部屋から出た後、狭い路地裏に移動していた。この移動魔法を使うときは、あらかじめある程度その行き先を知っていないといけない。なのでゼシュアは、マーシャル城の上から人のいなさそうな場所、こういった路地裏等移動しやすそうな場所を記憶しておいたのだ。
路地裏を歩いていると、剣を装備した二人の男に猫耳の少女が絡まれていた。
「おい、こいつ震えてやがるぜ」
「さっきの威勢はどうしたんだかな」
「や、やめてください…」
ゼシュアは迷わず三人の横を通り過ぎようとする。すると猫耳の少女がゼシュアに気付き助けを求めた。
「た、助けて下さい!」
ゼシュアは無視して行こうとするが、その二人の男の仲間らしき男が五人、前と後ろからゼシュアを囲んだ。
「おっと、見られちまったからタダで通すわけにはいかないな」
「運が悪かったな、通してほしいなら銀貨十枚渡して貰おうか」
どうやらこの世界の通貨は長い年月を経ても変わっていないようだった。下から銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・大金貨となっていて、銅貨百枚で銀貨一枚分、銀貨百枚で大銀貨一枚分となっている。銀貨十枚あれば一ヶ月は暮らせるだろう。
「俺は今何も持ってないんだ」
「ならここで死んで貰おうか」
男達がニヤニヤしながら近付いてくる。そして一人の男がゼシュアに肩に触れようとした。
「ん?」
男はゼシュアの目の前にいて、手を伸ばせば絶対触れるはずなのに感触が無い。それどころか肩の方から何やら赤いものが溢れ出ていた。
―――ん?腕が……無い?
男は何がどうなってるのか理解出来なかった。
「お、おい!!」
周りの仲間が青ざめた顔で下を見ている。男も皆が見ている方向を見ると、くっついていたはずの自分の腕が下でピクピク動いていた。それを見て男は完全に理解した。
「…………ぎゃぁぁぁぁ!!腕が!!!」
いつの間に切られていた腕、それに気付くまで痛みすら感じなかった。気付いて一気に痛みが押し寄せてくる、思わず地面にうずくまった。
「てめぇ!何を………その剣どっから出した……」
ゼシュアの手には、いつの間にか二本の真っ黒な剣が握られていた。
「まぁこいつらがいなくなったところで何も王国には影響は無いだろう。手出したの向こうからだしな」
そして地面にうずくまる男の頭に剣を突き刺した。
「ひ、ひでぇ……」
「うわぁぁぁ!!」
ゼシュアを囲んでいた四人の男が逃げ出そうとするが、逃げた先にゼシュアがいた。
「見られちまったからな……」
一人、また一人と逃げる男達を次々切り裂き、その場に残っていた二人の男に仲間の頭を投げつける。
「ひ、ひぃ!!」
男は仲間の頭を蹴り飛ばした。
「おいおい大事な仲間だろ?」
「ば、化物め……」
「今は昔と比べたらかなり落ち着いてる方だがな。別にお前らが絡んでこなけりゃ殺さなかったし」
「た、頼む……助けてくれ」
ゼシュアは持っていた二本の剣を二人の頭目掛けて突き刺した。
「すまないが喧嘩売ってきた相手に、そこまで優しくはなってないんでな」
二人から剣を抜き取り、二人の男の後ろにいるいつの間にか気絶していた猫耳少女に近付く。その猫耳少女は制服らしきものを着ていて、制服には小さな剣が二本クロスしてある小さな紋様が縫われていた。
「この紋様、たしか勇者の……まぁいいや」
そして剣を――――――――。
「………………どうしたんだろ俺」
ゼシュアは剣を消し、そのまま裏路地を出た。
先程の少女を自分は何故殺さなかったのか、猫耳少女は喧嘩を売ってきたわけじゃないし、気絶していたから殺す気が失せたのだろうと自分なりに解釈しておき、その日はマーシャル王国を見て回って過ごした。
――――――翌日
ゼシュアはこの日もやることが特に無いので見て回っていると、レルド=フルーダ学園と書かれた大きな学園にたどり着いた。
「ここはたしかミーシャの通っている…」
たくさんの生徒が次々と学園から出ていく、もう授業が終わったのだろう。
「レルド=フルーダ学園か……」
すると、マーシャル王国内にサイレンが鳴り響いた。
「この気配は………」
なんだか昔感じた事のある気配だが思い出せない。学園の生徒達も慌てて校舎の中に避難していく。このサイレンは緊急事態に鳴る仕組みらしい。
「俺もこの気配の正体を見に行くか」
ゼシュアは王都の門の近くまで瞬間移動した。
◆◆◆◆◆◆◆◆
ミーシャはなんとか生徒達を押し退け学園の外に出ることが出来た。
「シュア様は一体どこに……」
すると後ろの方からイザベラも慌てて追いかけてきた。
「イザベラ!先に避難しといてよ」
「私だけ逃げれないわよ!あなたも一緒じゃなきゃ」
「イザベラは王女なのよ!?王女の安全は第一でしょ!」
「私は王女の前にあなたの友人よ!!」
その言葉にミーシャは驚いた。この国の王女が貴族でも何でもない私の安全を心配して、ここまで駆け付けて来てくれた。そこまで私の事を大事にしてくれていたんだ。
「ったく。ん?何で嬉しそうなのよ?」
「べ、別に!!」
「まぁいいわ、それであなたどこに行こうとしてるのよ」
「……シュア様のとこ」
「シュアのとこ?どうして?」
すると、兵士達がこっちに向かってくるのが見えた。先頭には赤い髪をした爽やかな男性がいる。
「マリース?」
マリース達はイザベラに気付き、慌てて近付いてきた。
「イザベラ様!こんなとろで何を?早く避難してください!」
「一体何があったのよ?」
マリースは一瞬戸惑い口を開いた。
「……実は、一体の魔物がマーシャル王国に向かっているとの報告が、外に訓練をしに行っていた兵士達からきたんですよ」
「群れじゃなくて、たった一体!?それなのに緊急避難をさせたの?」
「………それがそうもいかないなんですよ、魔物の群れより危険なその魔物……イザベラ様も知っているでしょう?向かって来ているのは“ハルファス”」
「…………え?」
イザベラは言葉を失った。シュアじゃないと分かって安心したミーシャも驚いた。学園では魔物の倒し方や弱点等、魔物に対する勉強“魔物学”という必修科目がある。一年も魔物学は勉強しており、危険な魔物についても学んでいた。
最下級・下級・中級・上級・最上級…そして天災級。天災級はもはやレベルが桁外れていて、数体程しか確認出来ておらず、その魔物が現れた場所は破壊の限りが尽くされるとされている。たった一体に国が滅ぼされた事もあるそうだ。なんとか生き残った人が教えてくれたことで、新たに天災級という魔物のカテゴリが生まれた。
天災級の魔物は普段どこにいるのか全く不明で、突然現れて突然消える。天災級の魔物が住んでいると噂されている場所もあるが、誰も怖がって近づこうとしない。そしてマリースが言った“ハルファス”という魔物。
「天災級…?あり得ない、どうしてマーシャル王国に?」
「理由は分かりません。しかしマーシャル王国に向かって直進しているのはたしかです」
イザベラは恐怖で体が震えた。
学園で魔物学を勉強しているとき、天災級の魔物を五体先生が教えてくれた。
“ブエル”“フルカス”“ロノウェ”“サレオス”……そして最後に出てきた名前が“ハルファス”だった。
その姿も魔物学の教科書の最後のページに大きく描かれてており、とてもおぞましいものだった記憶がある。
「今、王都の門にてこの国の全兵士を集めております。名の通った冒険者達にも声を掛けました、なのでイザベラ様達は早く避難してください」
そう言ってマリースと兵士達は一礼し、急いで王都の門へと向かった。
「………ミーシャ、早く避難しましょ」
イザベラはミーシャの手を引こうとするが、ミーシャはその場から動かないで何か考え事をしていた。
「ミーシャ!恐らくマーシャル王国は戦場となるわ、シュアの事は後回しにして逃げましょう!」
「イザベラ………シュア様がいるじゃない」
「え?だからそれは後回しに……」
「シュア様がいたらハルファスも倒してくれるんじゃないかな!?」
イザベラは驚き少し考えた。たしかに古代魔法を使えるシュアがいれば断然有利になるかもしれない。
「だけどシュアはどこにいるのよ?もしかしたら逃げちゃったかもしれないでしょ?」
「まだマーシャル王国にいるよ!!」
「どこからその根拠が出てくるのよ」
「それは…………直感!!」
閃いた様に言うミーシャを見て思わず溜め息が出た。
「あなたって人は……まぁいいわ。それでシュアのいそうなとこ分かるの?」
「たぶんシュア様も王都の門に行ってると思う」
「それなら私達行かなくても手伝ってくれるんじゃないの?」
「でも、シュア様気まぐれだから手伝ってくれるか分からないじゃん。直接頼まなきゃ……。マーシャル王国に何の関わりも無いわけだし」
「それはそうね………じゃあ行きましょうか」
「うん!!」
二人は王都の門に向かって走り出した。
ゼシュアがどうしてこんなにも心変わりしてしまったのかは、後々書いていきます!