◆気持ち◆
誤字などあったら教えて下さい(--;)
「ここがマーシャル王国か」
中央に大きくそびえ立つマーシャル城を中心に、人や亜人達で城下町は賑わっていた。
獣人の女の子と人間の男の子が仲良く手を繋いでいたり、エルフの女の子を人間の男がナンパしていたりと、数万年前では考えられないくらい人間と亜人の仲が良くなっていた。
「お互い敵対していたのが嘘みたいだな」
昔は奴隷が首輪を付けられて歩いている姿も多かったが、見る限りそんなことをしている奴はいない。
そして何より変わっていたのが店の見た目で、昔のような質素な色ではなく、店によってはかなり派手な色合い店もあった。
そこでゼシュアはピンク色をした武器屋に入ることにした。
「いらっしゃい!!」
店の中は案外広く、ドワーフの男が奥で剣を磨いており、人間の女の子が接客を担当していた。
店の中には剣や斧、冒険者には欠かせない様々なアイテムが置いてあり、中には“百発まで連射可能!”と書かれたガトリングと言う武器も置いてあった。
中を一通り見学した所で武器屋を出る。すると、ミーシャがこっちに向かって走ってくるのが見えた。時折歩いている人にぶつかり「すいません!」と謝りながらもゼシュアの目の前まで息を切らしてきた。
「はぁ…はぁ……追い付いた」
「…………何やってんだ?」
ミーシャは深呼吸を繰り返し、息を整えてから喋った。
「何も言わずに行くんですから、少し心配になって……」
「……そういうことか。心配しなくても町に危害を加えることはないから大丈夫だぞ」
「そうですけど、なんか隣にいないと不安で……………あっ!失礼な事を言ってすみません!!」
ミーシャは全力で頭を下げた。
「………お前変な奴だな」
ミーシャは顔をあげてゼシュアを見つめた。学園の人達にも「大人しくしてれば可愛い」とか「この変人がぁ!!」とか言われることもあったので、別に気にも止めることじゃないが、ゼシュアに言われると何かショックだった。
「なんで落ち込んでんだ?」
「あ、な、何でもないです……。ん?なんか騒がしいですね」
ざわついている後ろの方を振り向くと、町の人達が慌てて道を開け、そこを銀髪の少女が走ってくるのが見えた。
「イザベラ!?」
「はぁ…やっと追い付いた」
「何やってんの?」
「何って、…あんたを追いかけてきたのよ!!足早すぎ……」
イザベラが来たことで、三人の周りには多くの人だかりが出来ていた。
「くそ、……目立ちすぎだ。……ミーシャ、一瞬だけでいいから皆の目を違うとこに向けさせろ」
「え?は、はい!!すぅ………、あぁ!!あそこに買い物をしてるレイ様が!!」
その言葉に、皆一斉にミーシャの指差す方を見た。しかし案の定誰もいなくて、また三人の方に目を移すとーーーーそこには誰もいなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ったくめんどくさい事を……」
「「え?、え?」」
二人揃って今起こった事が分からずパニックになっている。
「ここって…………高っ!!」
ミーシャが恐る恐る下を見ると、下を歩いている人がギリギリ見えるくらい高いところにいた。思わずゼシュアに抱き付き「あ!ごめんなさい!!」と頬を赤らめ座り込んだ。
「ここ……マーシャル城の屋上じゃない」
三人が瞬間移動した場所、そこはマーシャル王国で一番の高さを誇るマーシャル城の屋上だった。
「何がどうなってるの?……これどういうこと?」
イザベラはマントで顔を隠したゼシュアをジッと見つめた。
「目立ちすぎたから移動しただけだ」
「それが意味分からないのよ!あんな距離を一瞬で移動する魔法なんて聞いたこと無いわ!!」
「それはお前が無知なだけだろ……図書館で古代魔法の本でも読んでみろ」
「な!?古代魔法?私を馬鹿にしてるの?」
「っち………めんどくさい姫様だな」
「めんどくさいって!!…………………え?」
その時突風が吹き、ゼシュアの顔を隠していたマントがはだけた。
「…………なんだ?」
「あ、その………な、何でもないわよ!!」
イザベラも何故かミーシャの隣に体育座りをした。
「よく分からん奴だな……」
ゼシュアはマントを深く被り、二人とは少し離れたところに座って城下町を眺めている。ゼシュアが離れたことを確認し、小声でミーシャに話し掛けた。
「ねぇ……ミーシャ」
「ん?……何?」
「あのシュアって何者?」
「え!?あ、シュア様は強い魔法使いだよ…」
「今の魔法……古代魔法がなんやらって言ってたけど、あの人古代魔法使えるの?」
「うん………たぶん……」
「それってとんでもないことじゃない!?」
思わず興奮して声を荒らげてしまう。慌ててゼシュアの方を向き、気にも止めずに城下町を眺めている事を確認して胸を撫で下ろした。
「それに…………」
「ん?何で赤くなってんの?」
「え!?そ、そんなわけないじゃない」
イザベラは慌てて顔を手で隠した。
「顔見た?」
「……………うん」
「やっぱり」
「私もそれなりに色んな男を見てきたわ。周りが格好いいと言っている男も、私には他の男となんら変わらない様にしか見えなかった。だけど……」
「シュア様格好いいよね………」
「…………うん」
二人揃って振り向き、体育座りをしながらゼシュアの後ろ姿を眺めていた。
(はぁ……あの人が災悪の魔法使いだって知ってらどうなるだろう)
隣でゼシュアを見つめるイザベラを見て、なんだか複雑な気持ちになっていた。
「さて、そろそろ行くか」
ゼシュアが立ち上がると、二人も慌てて立ち上がった。
「とりあえず……姫様はここでいいんだよな?」
「え?えぇ、もうここ家だし」
「それじゃミーシャ、送ってやるよ」
「え?」
「自分の部屋を頭の中で思い出すんだ」
ミーシャは目を瞑り、言われたとおりに頭の中で部屋をイメージする。
「じゃあな姫様」
ゼシュアがミーシャの肩に手を置く、すると次の瞬間二人の姿はもう屋上には無かった。
「………………シュア、貴方一体……」
イザベラは兵士達に見つかるまで、屋上で体育座りし、頭の中はゼシュアの事でいっぱいだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ホントに私の部屋だ」
二人はミーシャの部屋に来ていた。
「じゃあな。マーシャル王国まで案内してくれてありがとう」
そう言ってゼシュアはミーシャの部屋から出ていく。
「ま、待って!!」
慌てて外に出るがゼシュアの姿はもう無かった。
「…………行っちゃった」
もうミーシャには災悪の魔法使いから解放されたという思いじゃなく、ただ寂しいという気持ちだけが残っていた。