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災悪の魔法使い  作者: SHIN
数万年後の世界
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◆目覚め◆

「今日もいい天気ね」


 一人の金髪の少女が“戦士達の墓場”と呼ばれるグレン墓地に花束を持って来ていた。この場所は数万年前、世界中の勇敢な戦士達が初めて団結し、一人の邪悪な魔法使いに戦いを挑んだ。しかし戦いの末に大敗、このグレン墓地に眠っているとされている。

 

 今では伝説となり、ましてや数万年も前のことなので本気で信じていない者も少なくはないが、たった一人に大敗とは考え難いものだ。さらに伝説によれば初代勇者と初代魔王が共に戦ったとなっている。それも有り得ない話だ。


「世界中が一つにか、……。そうなってくれたら嬉しいのにな」


 今この世界は平穏を保っているが、それが崩れないとも言い切れない。現在、この世界の中で特に力を持っている場所が四つある。


 一つはマーシャル王国。この国は四つの中で一番穏和な国であり、それでいて初代勇者の出身国として有名だ。勇者の名前が付けられた学園“レルド=フルーダ学園”には剣術の腕を磨こうという者や、勉学に励む者達が多く通っている。

国王レイ=フルーダ様は初代勇者の末裔で、レイ様のおかげでマーシャル王国では大きな内戦も無く、平和に過ごせているといってもいいだろう。

 

 二つ目はザリアス帝国。この国を治めているレイモンド=ザリアスは冷酷なお方として有名である。自身も優れた魔法使いであり、ザリアス帝国の“ザリアス学園”では魔術を磨こうとする者達が多く集まっている。この国は代々ザリアス家が支配している為、内戦も少なからず起こっており余り平和にとは言えない。


 三つ目は龍谷。現在は亜人と人間の関係は友好で、マーシャル王国とザリアス帝国にも様々な亜人が暮らしている。しかし龍人は例外であり、人間を下等な種族だと群れる事を嫌い、龍谷を独立国として認めざるをえなかった。龍人は一人一人が桁外れの魔力を持っており、数は余り多くないが、戦争となればマーシャル王国もザリアス帝国も確実に無傷ではいられないだろう。ちなみに龍谷を治めているのは龍王のガルリアルだ。年に一度はこのグレン墓地に来て、ここで死んだ初代龍王ガリューアと龍神に祈りをする為訪れるらしい。


 最後の四つ目は魔国。この魔国は入ることも困難で“ザザス尖山”と呼ばれる危険な山を越えないとたどり着けない。魔王が支配しており、現在は余り表に出てこないが、少なからず魔族による被害は色んなところで出ている。


 この魔国と龍谷を除く二つの国は、三十年前に大規模な戦争を起こしている。今は休戦協定を結び戦争は終了しているが、お互い仲は良くなく、ザリアス帝国は何かきっかけがあれば戦争を仕掛けてくるだろう。他の小国も大国である二つを余り良く思っていないとこがある。



 少女は花束を戦士達の名が刻まれた大きな石碑の前に置く。


「さて、帰る前に少し練習しよっかな」


 少女は懐にしまっていた剣を取りだし、石碑の前で素振りをする。実は三日後にレルド=フルーダ学園で試験があるのだ。少女はこの試験に合格しないと進級が危うい状況にあった。グレン墓地はマーシャル王国に近い場所にあり、一時間程で歩いて行ける距離だった。


「やっぱこの場所で素振りすると、歴戦の戦士達に見守られてる感じがしてやる気出るな」


 お祈りをしてついでに素振りをする、これが少女の日課となっていた。


「頑張るぞー!…………、ん?」


 やる気を奮い立たし、素振りに専念しようとすると、何やらおぞましい気配がして辺りを見渡す。すると、後ろの方に何やらクネクネ動くものがいるのが見えた。


「……………、嘘でしょ」


 後ろの方にいたのはプラントワームと呼ばれる中級の魔物だった。中級とはそんなに強くはないが、逆に弱くもない。しかし少女にとっては勝てる相手ではなかった。そしてこのプラントワームは非常に厄介なやり方で獲物を捕らえることで、世界中の人から嫌われていた。


「このグレン墓地に魔物が現れる事なんて無かったのに……」


 プラントワームはまだ少女に気付いていないらしくクネクネしている。この魔物は目がかなり悪いが、そのかわりに動くものを感知することに長けている。


「ゆっくり……ゆっくり……」


 少女は抜き足差し足で移動する。しかし、プラントワームに気をとられ過ぎて足下にある石に躓いてしまった。


「いててて、…………やば……」


 振り向くとプラントワームと目が合った。いや、目は小さすぎてここから見えないはずなのだが、なんだか目が合ったような気がした。数秒の沈黙をプラントワームがやぶった。


「きゃぁぁぁぁぁ!!!」


 少女目掛けて口を大きく開けクネクネ向かってくる。気持ち悪い以外の言葉が出てこなかった。


「来ないで来ないでーー!!!!!」


 その願いが通じたのか、プラントワームは途中で止まり地面に潜りだした。


「ヤバい………これってプラントワームの常套手段じゃん」


 プラントワームが嫌われる理由。その見た目もあるが一番は獲物の捉え方であった。地面に深く潜り完全に姿と気配を消したところで足下から襲ってくる。並みの魔法使いでも感知することができないことから、もはや上級だろって声も多く上がっていた。しかし、火にはかなり弱い。なので潜る前に火魔法を放てば余裕で勝てる相手なのだ。上級だろと喚いている奴等は火魔法が使えない奴等。もちろん少女もその中の一人だった。


「私死ぬのかな……」


 潜ってしまえばもはや上級並みの強さだ。少女が死を覚悟したとき―――ゴンッ!! と何かに何かがぶつかる音が地面に響いた。


「え?何、今の音」


 すると、プラントワームが少女の足下ではなく少し離れたところから出てきた。その口には何かを咥えてる。


「………、白い棺桶?」


 その口には見たこともない真っ白な棺桶が咥えられていた。さっきの音は棺桶にぶつかってしまったんだろう。プラントワームは苛ついた様に棺桶を放り投げ、それが少女の前に落ちてきた。


「あぶなっ!!」


 プラントワームは痛かったのかその場で暴れまわっており、白い棺桶をまじまじと見ていると、音をたてゆっくりと開きだした。


「きゃ!!え……何?」


 棺桶が完全に開き、恐る恐る中を見てみると、そこには真っ白なマントを羽織った、少女と余り歳の変わらないような少年が眠っていた。


「き、綺麗………」


 かなり整った顔立ちで、棺桶に眠っている様がどこかの絵画を見ているようだった。ふと昔の記憶が蘇り、この少年をどこかで見たような気がしたが思い出せない。

思わず触りたくなり頬を触ろうとする、すると、少年がゆっくり目を開け始めた。それと同時に棺桶から小さな衝撃波が生まれ、少女が軽く吹き飛ばされる。


「きゃぁ!!」


 一メートル程飛ばされたところで、しりもちをついて止まる。


「いててて、……ってか今目を開けたよね!?」


 しりもちをつきながら棺桶を見ていると、少年がゆっくりと立ち上がった。


「…………ここは?」


 辺りを見渡し、目の前にいる少女に目が止まる。


「おい………ここどこ?」

「う、う、う、う、後ろ!!!」

「………後ろ?」


 後ろを振り向いた途端、怒り狂ったプラントワームに丸飲みにされてしまった。


「あ、……食べられた」


 しかし、プラントワームは何故か不思議そうに口を開け閉めしている。よく見ると歯には血一つ付いていない。


「…………ったく。寝起きに食われてたまるかよ」


 少女とプラントワームは声に振り向く。すると、石碑の上に食われたはずの少年が座っていた。


「え、…?今食べられたはずじゃ……」


 少女は唖然と少年を見つめるが、それを無視して少女の横に降り立つ。


「………さてと」


 少年はプラントワームに向かって歩きだし、両手に真っ黒の二本の剣を作りだした。


「久々の運動といくか」


 少年が剣を構えプラントワームに突っ込んでいく、すると少年の姿が消え、いつの間にか少女の横に瞬間移動していた。


「え?……、え?……」

「腕が少し鈍ったかな…」


 プラントワームも何が起こったか分からず、動こうとすると、全身に無数の切れ目が浮かび上がり、次の瞬間にはバラバラになり地面に肉片がころがった。


「……………はい?」


 少女は何がなんだか訳も分からず頭が混乱している。


「もっとバラバラにいけると思ったが……まぁ仕方ないか」


 少年は二本の剣を消し、足下にあったプラントワームの肉片を蹴飛ばしたあと、少女の方を向いた。


「それでここはどこだ?」

「あ、!えっと………ここはグレン墓地です」

「グレン墓地?……グレン高原じゃなく?」

「それは数万年前のここの呼び名です。あの大規模な戦争の後、ここで亡くなった戦士達の為こうして石碑も立てたんですよ」

「………、なるほど。まさか数万年も眠るとは……あのじいさん先に言えよ」


 この少年は何言ってるんだろうと疑問に思ったが、命の恩人を変人扱いするのは駄目だと心の中で自分を叱った。

 少年は石碑の前に立ち、そこに書かれた戦士達の名前を眺めている。


「お、ガイアとガリューアの名前も、勇者と魔王もいるじゃないか。懐かしいようなそうでもないような」


 何やら独り言を呟いている少年に、意を決して少女は少年に声を掛けた。


「あの!!た、助けてくれてありがとうございます。わ、わ、私、ミーシャでふ!!」


 慌てすぎて最後の最後に噛み、顔を真っ赤にしている。


「あぁ、助けたわけじゃないが……俺の名前は―――――――。」


 ミーシャはその言葉に耳を疑い、真っ赤だった顔が逆に真っ青になっていく。これがゼシュアの心を変えていく最初の出会いだった。

 

プロローグの話で竜神ってなってましたので、漢字を龍に変えときます!!

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