プロローグ.二
龍神が散った真下にいる薄笑いを浮かべた少年。それはまるで悪魔のようだった。
「動揺するな!!」
動揺する兵士達に騎士団長であるガイアが一喝する。
「龍神は死んでしまった。しかし、これは予想外のことではない。それほどまでに危険だということは知っていただろう。道を阻む者ならどんなものでも容赦しない、今ではどんな悪ガキもアイツの名を出すだけで震え上がる。災悪の魔法使い――――ゼシュア=ディザスター」
ガイアが兵士達の先頭に立ち、ゼシュアに黄金の槍を向ける。
「ご丁寧に紹介ありがとう。英雄ガイアさん」
ゼシュアは感情のこもっていない声でガイアに礼を言った。それと同時にガイアは警戒体制に入る。
「お前の相手はこの世界の全勢力だ。いくらお前でも勝てると思ってるのか?」
ガイアは挑発するように言うが、ゼシュアはそれを鼻で笑った。
「だったらとっとと殺るがいいさ。それとも俺からいくかい?」
ゼシュアは上空に手を上げた。それを見てガイアを含む前列の兵士達が後退りする。
「ははは、冗談だよ」
「………くそっ…舐めた真似を」
ガイアは歯を食い縛りながらも、ゼシュアが近付いてくるのを待つ。
(あと少し――――もっと前に来い!)
ガイアの願いが通じたのか、ゼシュアは一歩一歩近付いてくる。
(もう少し―――後一歩!)
そしてゼシュアが一歩踏み出した瞬間、ガイアが高らかに声をあげた。
「天守の結界発動!!!」
すると、ゼシュアの周りの地面に文字が浮かび上がり、ドーム状の真っ白な結界が現れた。
「これは……」
ゼシュアが結界に触れようとすると、手が弾かれ少し後退りする。
「これはここにいる全ての魔法使い、そして魔王と共に造り上げた最強の結界だ!いくらお前でもこの結界は脱け出せまい」
ガイアを含め、兵士達から勝ち誇った様な歓声が次々と上がる。
「しかし、これでは俺を殺せないんじゃないか?」
それを聞いたガイアは、勝ち誇った顔でゼシュアに言った。
「その結界は外からの攻撃を中の者に伝えることができる。その反面、中からの攻撃は攻撃した本人に返ってくるんだ!魔法も同じ、もはやお前に勝ち目は無い!」
外からの攻撃はくらい、反撃しようとしたら自分に返ってくる。まさに最強の結界。終わりにしようとガイアが突撃の合図を出そうとした時、ゼシュアが呟いた。
「―――超闇魔法=バスタード/魔力食らいの狼」
すると結界の中にいるゼシュアの側に二体の真っ黒な狼が現れた。
「な、何をする気だ」
「ガイアさん。この程度で俺を倒した気でいるのか?心外だな……。俺が禁魔を研究していたのは知ってるだろ?そして俺はこの世界の魔法の理を見つけ、独自の魔法を造り上げてきた。その中の一つがこれだ」
ゼシュアは二体の狼をゆっくり撫でる。狼は気持ち良さそうにゼシュアに顔を擦り付けている。
「この狼の好物が何か分かるか?野菜でも肉でも魚でもない………魔力だ。そして魔力の塊である結界はコイツらの大好物だ」
それが合図かのように、ゼシュアから顔を離し、二体の狼が結界に向かって走りだし噛み付いた。すると、狼が噛み付いた先から、真っ白だった天守の結界が徐々に黒く染まっていき、狼達に食われていった。
「…………嘘だろ」
最強の結界であるはずの天守の結界が、たった二体の狼によって食われていく。ガイアは動揺を隠せなかった。
「しかしこれだけ魔力が込められた結界だ。さすが魔王も協力しただけあるな。全て食い終わるまで時間がかかるだろう」
それを聞いたガイアは我に返り、高らかと号令をかかげた。
「今が勝機だ!行くぞぉぉぉ!」
「「「「おおおおぉぉぉぉ!!」」」」
結界が食われる前にゼシュアを殺す。もはや手はそれしかなかった。結界の中にいるゼシュア目掛けて走り続ける。距離はさほど遠くは無いが、走っている間感じた時間はとても長く感じられた。結界の中にいるゼシュア目掛けて、瞬きをすることも忘れ無我夢中で走る。結界の中には二体の狼とゼシュアが――――――いない?
それに気付いたときには遅かった。ゼシュアはガイアの真上に瞬間移動し、ガイアの頭に剣を突き刺した。ガイアは数歩進んだところで地面に倒れていく。その光景に前列を走っていた兵士達が足を止めるが、後列からの勢いに押され転んでゆく者達が続出した。
「あんな結界ごとき狼を出さなくても抜けられるんだよ!!」
ゼシュアは真っ黒な二本の剣を作り、兵士達に突っ込んでいった。
ゼシュアは魔法だけじゃなく、剣の腕も勇者並みに強かった。次々とゼシュアに兵士達が斬られていく。
「さすがに多いな………闇魔法=フラム/闇炎」
ゼシュアの体から真っ黒な炎が溢れだし、兵士達を包み込んでいく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
「熱い………苦しい……」
戦場は地獄絵ずとなり、兵士達は完全なパニック状態に陥っていた。
「まだ多いな……オラ!!」
ゼシュアはさらに魔力を込め、黒炎の竜巻が無数に生まれる。竜巻は兵士達を巻き込み焼き殺していった。
「雑魚はこの竜巻に任せて……」
ゼシュアは瞬間移動し、一瞬で魔王と勇者、ガリューアの目の前に現れた。
「おぉ、これは豪華な人達が集まってるな」
三人は目の前に現れたゼシュアに対し冷静に距離をとる。
「三人だけじゃない」
次々とゼシュアの目の前に、この世界では知らぬ者はいないであろう者達が集まってくる。亜人の中でも最強と吟われる者達による精鋭部隊や、Sクラスの冒険者。魔王の右腕と呼ばれるの悪魔、まさにオールスターが今この場所に集まっていた。
「これは凄い。俺は今奇跡の瞬間を目の当たりにしているな」
ゼシュアは心結から沸き上がる興奮を抑えられなかった。
「今日限りの奇跡だ。我の後に続け!」
魔王が詠唱を唱え、真っ黒の光線がゼシュアに放たれる。それを横に回避すると、勇者がいつの間にか間合いに入っており斬りかかってきた。
「おっと危ない」
勇者の剣を紙一重でかわし、顔面に蹴りを入れて後ろに吹っ飛ばす。それに続き、ガリューアや他の者達からの怒号の攻撃が休む暇もなくゼシュアを襲った。しかしそんな状況にいるのにも関わらず、ゼシュアは笑いが止まらなかった。
「マジで楽しいなおい!!」
笑いながらこの世界の最強達と剣を交える。その光景はまさに異様だった。
「お前らが全力で戦うことに俺も敬意を払い、とっておきの魔法を見せてやろう」
その言葉に皆ゼシュアと一定の距離を保つ。
「楽しかったよ。だけど終わりだ」
ゼシュアは瞬間移動し、グレン高原の上空百メートル程にいた。
「―――――神・闇魔法=デスア/死隕壁」
すると大きな地響きと共に、グレン高原にいる者達を囲むように巨大な黒い壁が現れた。
「これは……」
「とりあえず危険だ!一刻も早くこの壁を壊さなければ」
勇者が剣を壁に突き刺した途端、剣が壁に飲み込まれいった。
「な、……!くそっ……!」
勇者は剣を離し壁から離れる。
「なら我が!!」
魔王が魔法を壁に打ち続けるが、全て飲み込まれて、壁には傷一つ付いていない。
ガリューアは龍に変身して空に飛んで出ようとしたが、何故か外に出ることが出来ない。まるで同じとこを飛び続けているように。ガリューアは諦めて勇者達の元に降りる、すると壁の中全体にゼシュアの声が響いた。
「もう分かると思うが脱出は完全不可能だ。さっきの天守の結界とやらと同じにするなよ?これこそ最強の結界。そして地獄はこれからだ」
――――――ゴゴゴゴゴゴ。
何やら地響きと共に空から堕ちてくるのが見えたが遠すぎてよく分からない。竜巻も消え、兵士達も皆空を見上げる。すると、一際目のいいガリューアが震えだした。
「どうした!?」
しかしガリューアは震えているだけで何も言葉にしない。
「しっかりしろ!!」
魔王に一喝されて、ゆっくりと声をだした。
「………い、隕石だ。おびただしい数の隕石がこっちに向かっている」
その言葉に皆声を失った。脱出不可能、隕石を避けることも不可能、もはや残されたの
は―――――死。
「勇者よ……残念ながら我はお前の手で殺されることはないようだ」
「あぁ。悔しいがこれで終わりだ」
勇者がその場に座り込んだ。それに続いて魔王もその場に座る。
「どうせならお前に殺されたかったがな」
「はは、何言ってんだ」
「まぁお互いのどっちかは死ぬ運命だったんだ。お互い死んでもそれはそれで運命だろう」
「………そうだな」
―――――――そして。
無数の隕石が堕ち、壁の中は地獄と化していた。それから数十分に渡って無数の隕石が堕ちた後、最後に壁ギリギリの巨大隕石が堕ち、超大爆発が壁の中で起こった。
この世界の全勢力vs少年は、一方の圧倒的虐殺によって幕を閉じた。