◆鬼◆
「さてと、…………」
ハルファスが追いかけて来れるように、わざと瞬間移動は使わなかった。
ゼシュアは地面に腰を掛けハルファスが来るのを待とうとする、すると、地響きと共に物凄い速さでゼシュアの目の前までやってくる。
大きな目をジッと見つめ、ゼシュアが口を開いた。
「お前、……俺を恨んでるのか?」
その問にハルファスは答えず大きな目でゼシュアを睨み付ける。
「まぁ無理はないか……、正直生きてるとは思わなかったよ」
「―――――――!!!」
ハルファスが六本の腕でゼシュアに殴りかかるが、それを後ろに飛んでかわし、両手に二本の剣を出すと黒い斬撃を飛ばして六本の腕を全て斬り落とす。が、先程とは違い一瞬で再生しだした。
「その再生力、さすが“鬼”の一族だな」
ゼシュアは昔の事を思い出していた。
◆◆◆◆◆◆◆
数万年前、亜人は今よりもたくさんの種族がおり、その中に“鬼”と呼ばれる伝説の種族がいた。鬼達は“幻影の森”と呼ばれる一度入ると一生出られない森の奥深くに生息していると噂されていた。
鬼の姿を実際に見た者は数えられる程度しかいない。しかしそれは幻影の森から偶然出てきた鬼であって、ホントに群れを成して生息しているのか誰も分からなかった。
そんな鬼達は不老不死の力を持っているとされていて、その力を求め幻影の森に入るが、結局帰ってくることはなく、次第に誰も幻影の森に近付かなくなっていった。その事から鬼達は森に入った侵入者を食っていると噂され、鬼は恐ろしい生き物と皆が思い込んでいた。しかし、実際はそこまで恐ろしい生き物ではなかった。容姿は人間に二本の角が生えただけで、たしかに凄まじい力を持っているが自ら危害をくわえるような事はしなかった。
「おーい、帰ってきたぞ」
「父さーん!お帰り!!」
久しぶりに帰ってきた父親の胸目掛けて思いっきり抱き付く。やっと父さんが帰ってきた。
「ゼル!今日もお土産持ってきたぞ、……ほら」
「わぁ!父さんありがとう!」
普段、この幻影の森から出ることを禁止されているため森の外からのお土産が何よりの楽しみだった。父さんはいつも面白い物を持ってきてくれる。
「なにこれー?」
「これか?、……俺もよく分からん」
「なんで父さんも分からないんだよー」
笑い声が家の中に響き、この日は父さんの土産話をたくさん聞いて部屋に戻った。
「僕もいつかは外に出てみたいな」
鬼達は選ばれた者しか外に出る事を許されなかった。僕の父さん、アゼルは一族の中でも最強と呼ばれる為、自由に森を出入りすることが出来る。
「僕も父さんの子供なら強くなれるはず!」
明日から頑張ろうと眠ろうとするがなかなか寝付けなかった。
「…………ほんとにそんな怪物が外にいるのかな」
今日聞いた父さんの話の中に“災悪の魔法使い”と呼ばれる少年の話があった。その少年は殺す事を楽しんでいるかのように、虐殺を繰り返しているとのことだった。
「そんな怖い人がいるんだな、……だけどここにいたら安全だろう」
いくらその少年が凄くてもここに辿り着くことはないはずだ、勇者ですらここに来ていないのだから。
ゼルは色々な事を考えている内にいつの間にか眠りについていた。
―――――翌朝
部屋を出ると父さんの姿が無かった。きっとまだ寝ているのだろうとゼルは外に出る。
「…………あれ?」
いつもは賑わっているはずの村が静けさに包まれていた。
「皆どこに、…………」
探し回って歩いていると、村の入口付近にたくさんの鬼達が集まってるのが見えた。
「何やってんだろう」
皆の元に行ってみると、鬼達がいつもとは違う真剣な眼差して一点を見つめる先に、一人の少年が立っていた。
「お前、……何しに来た!!」
父さんの声がするが、いつもの優しいものではく、聞いたことの無い殺意の満ちた声にゼルは少し驚いた。
「何しにって、ここに辿り着いたの俺が初めてだろ?歓迎してくれてもいいんじゃないかな」
「ふざけるな!!お前が外で何をやってきたかは知っている、災悪の魔法使い!」
父さんの言葉にゼルは昨日の話を思い出す。
「あれが………」
見た目は普通の少年だが、なんだか異様な雰囲気をしている。
「噂ではお前ら不老不死らしいが、……」
「…………そうだ、俺達は不老不死。お前では俺達を殺す事は出来ない、だからさっさと出ていけ!」
「………………」
少年は真っ黒の剣を二本出すと、アゼルの両腕を斬り落とした。
「き、貴様……!」
すると斬られた部分から新しい腕がすぐに再生する。
「なるほどな、……再生力はたしかに凄い、これはいい実験体になりそうだ」
「実験体だと!?」
「不老不死のお前らは多少強力な魔法にも耐えられるだろう?しかし実験体は一人で充分だ……」
少年が鬼達を品定めするかのように見て、少年の口元が少し緩んだ。
「決めた、そこの小さい奴だ」
鬼達の視線が一斉に少年の指指す方を見つめる。
「ぼ、僕?」
少年が指指す先にはゼルがいた。
「貴様!!俺の息子を実験体にするだと!?」
「ほう、お前の息子か。どうやら鬼達のの中でお前が一番らしいが、……その息子なら父親の才能も受け継いであるだろう、実験が楽しみになってきたぞ」
少年の薄気味悪い笑い声に鬼達は恐怖を覚えた。
「まずは増加の魔法を使って様子を見てみるか、…………それから呪目を埋め込んでも耐えられるだろうか」
少年はゼルを見ながらぶつぶつ何かを言っている。
「貴様は、…………殺す!!」
「父さん!!」
「ゼル!お前は逃げろ!」
アゼルが手に魔力を込め少年の顔をぶん殴るが、少年は微動だもせずぶつぶつ何かを言っていた。
「なんだと!?………それなら!」
一旦少年と距離を置き詠唱を唱える
「鬼神よ俺に力を分けたまえ、……」
するとアゼルの身体が赤く輝きだし、真っ赤な剣がアゼルの手元に現れた。
「俺達も行くぞ!!」
周りにいた鬼達も様々な魔法で少年を攻撃するが、少年は無傷でその場に立っていた。
「どけ!俺が殺る!!」
アゼルが電光石火の如く速さで少年に斬りかかる、それを黒い二本の剣で受け止め周りにに衝撃波が生まれた。
「…………よし、決まり」
「とっとと死にやがれ!!」
アゼルが剣に魔力を込め少年の腹に斬りかかる。それを左手の剣で受け止め、右手の剣をアゼルの胸に突き刺した。
「ふん、この程度では死なないぞ!」
「分かってるさそんなこと、だって不死だもんな。だけどこれならどうだ?」
すると右手の剣に白い文字が浮かび上がり、その文字が剣を伝ってアゼルの身体に流れこんでいく。
「な、なにを!」
アゼルが少年と離れようと足に力を込めるが、身体が全く動かなかった。
「お前何をした!」
「呪いだよ呪い。この二本の剣は俺のお気に入りでな。まぁ俺は剣士じゃないんだが、この右手の剣には様々な呪いの魔法を埋め込んだんだ」
「…………呪いだと?」
「そこら辺の呪剣と一緒にするなよ?これは邪剣だ、呪剣の更に上だよ」
「……くそ、」
「―――――呪魔法=デッドハイ/死痛」
少年が唱えるとアゼルの身体を激痛が襲った。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「と、父さん!!」
ゼルが駆け寄ろうとするが周りの鬼達が止めた。
「離せよ!!」
「アゼルさんに言われてるんだ!!お前を絶対に守れと!」
「父さんが苦しんでるのを放っておけってか!お前らも見てないで助けろよ!」
ゼルが涙目になりながら叫ぶが、鬼達は皆下を向いている。
「俺達だって助けたい、……助けたいさ!!だけど、足が動かねぇんだよ……」
よく見ると皆微かに震えている。
「なんだよあの魔法は、しかもアゼルさんの鬼神の一撃を何食わぬ顔で止めたんだぞ?あんなのに勝てるわけないだろ……」
皆戦意を消失していた。目の前で自分達の最強が手も足も出ないのだから。
「これは痛いだろ?ホントなら死んでしまうぐらいの激痛だが、……不死とは厄介なものだな」
「ぐぁぁぁぁぁ!!、……こ、この化け物め……」
「化け物はお前らだろ?俺はただの悪人だ」
ゼルは耳を塞ぎ地面にうずくまった。
「父さん、……父さん、……!!」
「…………まぁ少しやりすぎたか、これから実験体になる息子に免じてお前を殺してやる」
少年は目を瞑り、左手に魔力を込めた。
「―――邪剣解放―――」
周りの空気が一気に重くなり、左手の剣がカタカタ動き出した。
「い、いったい何を……」
「ぎ、……ギャァァァァァァ!!」
左手の剣の剣先が2つに割れ、鋭い牙を持った口のような形となり、耳が裂けるような悲鳴をあげた。
左手の剣の悲鳴を聞き、鬼達は一人、また一人と地面に倒れていく。そして、耳を塞いでいたゼルとアゼル以外の皆が倒れた。
「ぐ、………これは、……」
「さすが鬼達の最強、呪いを受け更にこの悲鳴を聞いても倒れないとは……。この左手の剣は食欲旺盛でな、……まぁもはや一匹の化け物よ」
少年が剣を地面に投げる、すると剣柄のところが伸び初めた。蛇のような身体になったところで黒い翼が生え、一匹の化け物となる。
「いくら不老不死でも食われたら終わりだろ?しかもこいつは胃が無いからな。こいつに飲み込まれたら一瞬で吸収されこいつの一部となる」
蛇がゼルの周りをグルグル周り、今にも襲いかかろうとしている。ゼルは震えながらも蛇から目が離せなかった。
「や、やめ「おい!そいつは食うなよ、食ったら殺す。お前の獲物はこいつだ」」
すると蛇は悲鳴をあげアゼルの元に行き、身体を締め上げた。
「ぐぅぅぅ、…………」
「じゃあな最強の鬼さん、息子は使わせてもらう」
「ぜ、ゼル、…………に、逃げろ……」
「と、…………父さぁぁぁん!!!」
「―――――ごめんな」
次の瞬間、アゼルは蛇によって跡形もなく飲み込まれた。ゼルはそれを見てその場に倒れた。
「…………気絶したか」
少年は二本の剣を消し、ゼルを担いで瞬間移動した。
これが昔のゼシュアです!




