◆ハルファスの力◆
ハルファスは声をあげた後、王都の門目掛けて突っ込んで来た。
「遠距離魔法発動!!」
マリースの掛け声で第二部隊から一斉にハルファスに魔法が放たれるが、ハルファスはそれを六本の腕で凪ぎ払い向かってくる。
「やはりこの程度ではダメか、第二部隊はそのまま魔法を放ち続けて、第一部隊は俺と共に行くぞ!」
マリース達はハルファスの足下目掛けて走り出した。ハルファスはマリース達には目も向けず速度を上げていく。第一部隊が足下を攻撃しにかかると、ハルファスは速度を落として兵士達をうっとおしそうに蹴り飛ばし、目からは紫の光線を出し兵士達を焼き尽くした。
「止まれぇぇぇ!!」
マリースは蹴りを横に転んでかわし、乱舞の如き剣術でハルファスの足を斬りかかる。
ハルファスは一瞬怯み、その隙に追撃をくらわしていく。
「おらおらおらぁぁ!!!」
足から黒い血を吹き出すが傷は浅かった。ハルファスの大きな目がマリースを睨み、魔法を凪ぎ払っていた腕が一本、足下のマリースを掴んだ。
「っ、……しまった!!」
マリースを直ぐには握り潰さず、ゆっくり力を入れていく。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」
バキバキっと肋骨が何本か折れた音がする。
「マリース!!今助ける!」
もう片方の足を攻撃していたドレークが、マリースを助けに向かおうとすると、ドサッ と腕が落ちる音がした。
「え?」
そこには黄金の剣を持ったレイがいた。
「マリース!しっかりしろ」
「れ、レイ様………申し訳ありません」
「喋るな!!……そこのお前!急いでマリースを救護班の元へ連れていけ!」
レイはその場にいた兵士に命令して、マリースを戦線から離脱させた。
「さて、やるか……」
レイは物凄い速さでハルファスの後ろに回り込み、無数の斬撃を飛ばして五本の腕を全て斬り落とした。
「―――――――!!!」
斬られた部位から黒い血が吹き出し、ハルファスはその場に茫然と立ち尽くした。
「………、まさかここまで凄いとはね」
ドレークが斧を持ってレイの隣に来る。
「お前が剣術を見せてくれって言ったからな」
「噂には聞いていましたが、想像以上でした。これなら最初から一人で戦えば犠牲者は出なかったのではないですか?」
ドレークはレイを睨みながら言い、レイは真剣な顔をして包帯でぐるぐる巻きにしていた黄金の剣の剣柄と右腕をドレークに見せた。
「これは……」
黄金の剣は心臓のように鼓動しており、レイの腕と融合していた。
「見ての通り呪剣だ、……油断していると私がこいつに意識を乗っ取られてしまうからな。少しの間、神経を集中させて剣と融合する必要があった」
「なるほど、……しかしレイさまが呪剣を持っているとは。皆が知ったらさぞ驚くでしょうな」
「………言いたかったら言うがいい、私もこいつを使いたくなかったが相手がハルファスだ。全力でいく必要があったのでな」
「言いませんよ。言ったら私の命が危ない」
ニヤニヤしながら言うドレークを鼻で笑い、ハルファスにとどめをさしに行こうとしたとき、
「お前達、この程度でこいつを殺せると思ってるのか?」
二人はその声に驚き振り向く。そこにはマントを深々と被った少年がいた。
「い、いつの間に……!気配がまるでしなかったぞ」
二人は武器を構え、ゼシュアと距離を取った。
「呪剣か、……どうやら上手く扱っているようだな」
「……お前何者だ!」
レイは只者ではないと感じ、ゼシュアに斬撃を飛ばすがその斬撃を片手で受け止めた。
「な、!」
「いきなり攻撃するとは失礼な国王だな」
先程ハルファスの腕を斬り落とした斬撃を片手で受け止め、ドレークとレイは茫然としていた。
「俺の事より前を見ろよ」
ゼシュアに言われて二人はハルファスを見る。すると、斬られた部位から新しい腕が生えていき傷も全て再生しだした。
「なんだと!?」
ハルファスは振り向き、大きな目でゼシュアを見つめる。
「こいつはお前達じゃ殺せない、……いくら俺の失敗作でもな」
「………失敗作だと?」
するとハルファスは口を大きく開け、無数の小さな目玉を吐き出した。
「な、なんだこれは!」
目玉はそれぞれ動きだし、死体となって地面に横たわった兵士の口から侵入していく。そして兵士達が次々に立ち上がりだした。
「どういうことだ……」
「死んだ奴らが立ち上がっていくぜ」
レイとドレークは唖然とその光景を眺めていた。
「まぁこいつは俺が少し借りていくから、この寄生された奴らはどうにかするんだな」
「は?お前何を……」
ゼシュアが高速でその場から移動すると、それを追いかけるようにハルファスも動き出し、マーシャル王国から遠ざかっていった。
「ちょ!待て!」
慌てて追いかけようとするドレークをレイが止める。
「ドレーク!!よく分からんがマーシャル王国から離れたハルファスを追いかける必要は無い、それよりもこいつらだ」
動き出した兵士達は白眼をむき完全に正気を失っており、まだ生きている兵士や冒険者達に襲い掛かっていた。
「くそっ!殺るしかないか」
「王として民でもある兵士を殺すのは躊躇するがやむを得ん」
二人は襲われている者達を助けるため、武器を構え走り出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「はぁ……はぁ……やっと着いた」
息を切らしながらミーシャとイザベラは王都の門へとたどり着いたら。
「イザベラ様!?こんなところで何をやっているのですか!」
第二部隊の兵士達がイザベラに気付き動揺する。
「もう戦いは終わりました、なので安心して城にお戻り下さい」
「終わった!?」
イザベラとミーシャは兵士達を押し退け王都の門を出た。
「あ、あれが………」
腕が無くなったハルファスが立ち尽くしてるのがよく見えた。
「き、気持ち悪い……」
ミーシャは大きな目を見て吐きそうになるが、なんとか我慢する。
「ねぇ、ホントに勝ったの?」
「そうね、あの後ろにいるのは……お父様じゃない!ってことはお父様が?」
「はい!レイ様が見事な斬撃でハルファスの腕を斬り落としていきました!」
勝ち誇ったように兵士は言った。
「ならシュアに頼む必要も無かったわね」
「レイ様ってこんな凄かったんだ……」
ミーシャの言葉に、イザベラはなんだか誇らしくなってレイを見つめた。
「あれ?………今なんかお父様が攻撃したわ」
「ん?……あれってシュア様!?」
ミーシャはレイが攻撃した相手がゼシュアだとすぐに分かった。レイが攻撃した後、ゼシュアと何か話し合ってるのが見える。
「一体何をやっているのかしら……」
するとハルファスが再生しだし、何か小さい物を吐き出すのが見えたので、よく目をこらして見てみた。
「う!あれ、目玉じゃない!!」
ミーシャも吐きそうになるが、イザベラに背中を擦られ何とか抑える。
「ま、マジかよ……」
兵士達も完全に勝っていた気でいたので、その目を何度もこすりながら目玉が吐き出されるのを見ていた。
「あの目玉、……兵士達に入っていってるわ」
横たわっていた兵士達が起き上がり、生きている兵士や冒険者達に襲い掛かるのが見えた。
「ヤバイ!!遠距離魔法の準備だ!!イザベラ様も早く避難を」
慌てて避難させようとするがイザベラはその場から動かなかった。
「イザベラ様!!」
「ちょっと待って!」
するとゼシュアが物凄い速さでその場から離れていき、ハルファスもゼシュアを追いかけ走り去って行った。
「シュア様!!」
慌てて追いかけようとするミーシャをイザベラが止める。
「あんた!死にに行くき!?」
「だけど……!」
「あいつなら大丈夫でしょ?元々シュアにハルファスを倒してって頼みに来たんだから好都合じゃない」
「それはそうだけど……」
イザベラが言っている事は的を得ていたが、ミーシャは別の事を考えていた。
(もしかしたらシュア様がハルファスを呼んだんじゃないかな……)
疑いたくは無かったが絶対に違うとも言い切れなかった。なので自分の目で確かめに行こうとする。
「どうしてもシュア様に聞きたい事があるの!」
ミーシャの真剣な眼差しにイザベラは少し圧倒され黙りこんだ。
「お願い、……行かせて」
「………どうしても行くの?」
「……うん」
イザベラは少し考え、決意してミーシャを見つめた。
「私も行くわ!!」
その言葉にミーシャと横で聞いてた兵士達は驚いた。
「イザベラ様!?」
「あなたはダメよ!ここに残って」
「いいえ!私も行くわ!!あなたが危険な所に行ってるとき、私だけ避難するわけにはいかないもの!」
兵士達は絶対ダメだと言っているが、全く言葉を聞こうとしない。
「ミーシャ!!」
ミーシャは考えたすえに、どうせダメって言ってもついて来るだろうと、イザベラも連れていく事にした。
「お前まで何を言ってるんだ!早く避難しないと!」
すると死体を探して複数の目玉がこちらに向かって来るのが見える。
「おい!目玉が来たぞ!遠距離魔法の準備だ」
「くそ!イザベラ様達、絶対に行っちゃダメですよ」
二人を引き止めようとしていた兵士達も自分の持ち場へと戻っていった。
「行くよイザベラ」
「うん」
二人は兵士達の言うことなど聞かず、ゼシュアを追いかけ走り出した。
「だけどあんた、絶対追い付かないわよ?」
もはやゼシュアの姿は無く、遠くに小さく見えるハルファスを追いかけていた。
「それなら大丈夫!」
ミーシャは立ち止まると大きく息を吸い、そして大声で叫んだ。
「スコちゃーーん!!」
大声で叫ぶが、すぐに兵士達の叫び声でかき消されてしまう。
「スコちゃんって、……誰?」
「まぁ、見てなって」
すると地響きと共に地面の中から一匹の魔物が出てきた。
「え!?……スコルピオン…?」
突然目の前にスコルピオンが現れてイザベラは言葉を失った。
「前に私この子に乗ってきたじゃない?その時私も仲良くなったのよ、ねー!」
スコルピオンの顔を撫でると、なんだか嬉しそうに三本の尻尾を振り回した。
「ちょっと!危ないわよ!!」
「シュア様と一緒にいたから私も同じくらい強いと思ったのかな?とりあえず乗ろ!」
ミーシャはスコルピオンの背中によじ登り、イザベラの手を引き二人で背中に乗った。
「じゃあスコちゃんお願いね!」
「………というか何故スコちゃんなの?」
「スコルピオンって長いじゃん?」
「……………」
「しっかり掴まらないとと落ちるよ?」
「……どこに掴まるのよ!」
「そこら辺の掴めそうな場所探してよ」
ミーシャはしっかりと背中の無数にある少し盛り上がっているところに掴まっていた。イザベラも見よう見まねで同じように掴んだ。
「それじゃ出発!!」
ミーシャの掛け声と共にスコルピオンは持ち前の速さでゼシュア達を追いかけた。
イ「きゃぁぁぁぁぁぁ!早い!早い!!」
ミ「落とされないでよぉぉぉぉ!!」