プロローグ.一
「す、すごいなこれ……」
「あぁ……」
おびただしい数の兵士達がここグレン高原に集まっている。
―――――――その数千万。
お互い争いあっていた国と国とが今では一つとなり協力しており、人間と敵対していた亜人と呼ばれる人間ならざる者達、その中でも最強と吟われる者達が精鋭部隊を組み、このグレン高原で戦闘の準備をしている。さらに凄いのは、この世界の悪そのものである魔王率いる悪魔の群れと、伝説の龍、魔王を倒すために生まれたであろう勇者までもがこの場では肩を並べていることである。魔王と勇者が協力しなければならないといけないほどの相手。この世界の全勢力をかけて倒さなければならなない存在。
「まさか我々が共闘することになるとはな」
最後尾にいる魔王が隣にいる勇者に声をかける。
「あぁ。俺はお前を倒す為だけに生きてきた。しかしそれは後回しだ」
そんな二人の元に、亜人の中でも最強と吟われる種族、龍人の王がやってきた。
「まさかお二人と共に戦うときがくるとはな」
龍人の王が高笑いをあげながら、両手に持った龍の剣を地面に突き刺した。
「ガリューアさん。あなたの協力があるからこそ、この戦争で俺達が勝てる可能性が何十倍にも膨れ上がりました」
「まぁ当然だ。龍神様もいることだし、この世界の全勢力。これで敗けるなどあり得んだろ」
最後尾からでも最前列にいる巨大な龍がはっきりと見えた。
「龍の神が最前列で先陣を切るとはな。我も最前列で戦いたいものだ」
魔王が少し悔しそうに龍神を見つめると、勇者が魔王の肩に手を置いた。
「俺とお前はこの戦争の最後の砦だ。お前も同族が数え切れないくらい殺されて、先陣を切りたいのは分かるが我慢しろ」
「そうだな。それほどアイツは危険な存在だというかこと……」
三人は息を飲んで戦争が始まるを只待つしかなかった。そんな時、最前列にいる龍神がけたたましい咆哮をあげた。それと同時に兵士達が慌ただしく動き、陣を構えた。
「来たか」
「「 …………」」
最前列の龍神が見つめる先、何にもいなかったはずなのに、そこには全身真っ白のマントを羽織った一人の少年がいた。
『まさかこんな小僧に武者震いするとは』
地面が微かに揺れる。龍神の武者震いが地面を通し軽い地震が起こっていた。
「………………」
真っ白な少年はただ無言で龍神を見つめる。時が止まったのかのようにその場が静まり返った。その静けさを破ったのは―――――。
『グオオオオオオォォォォ』
龍神が少年に向かって突っ込んで行く。すると少年はゆっくりと手を竜神に向けた。それを見て龍神は翼を前に動かし突っ込むのを止め、空中に飛んだ。天高く舞い上がり少年に向かって急降下する。それを見ていた兵士達は勝利を確信した。
「………………止まれ」
少年は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。すると先程の勢いが嘘のように龍神が空中で固まるように止まった。
「散れ――《超魔法=ブラスト/爆死》」
すると龍神を爆発が何百発と包み、肉片となって兵士達に落ちてきた。兵士達が動揺しているなか少年は薄笑いを浮かべていた。
―――――この世界の歴史に残る超大虐殺の始まりであった。