婚約破棄した相手に会いに来ていただき、ありがとうございます。
ゆるふわ世界観なのでゆるふわでお読みください。
あっさり風味を目指しました。同時にこってり長文も投稿してますのでよかったらお読みくださいませー。
私宛にお客様がいらしていると聞きましたが……。
まぁ! ガウスト様ではございませんの!
そのお姿はどうされました? 随分くたびれていらっしゃいますわね……。お可哀想に。
誰か、湯浴みの準備をしてちょうだい。すぐに整えさせますから、よろしければゆっくり汚れを落としてきてくださいませね。
……あら、随分お顔色が良くなりましたわね。何よりです。
申し訳ございませんがガウスト様のサイズの服がなく、使用人のものを用意させていただきましたの。問題ございませんか? そう、よかったですわ。
簡単なものですが、軽食をご用意しております。召し上がられますか?
…………まぁ、随分何も召し上がってなかったのですね。食事はまだありますのでそんなに急いで食べられなくとも大丈夫ですわ。食事と飲み物の追加は必要ですか? そうですか。ではご用意いたしますね。
ふふ、お粗末様でした。
人心地つかれました? では改めまして、ご用件をお伺いいたしますわ。
…………はぁ、それでは、ガウスト様は廃嫡の上勘当、家の籍を抜かれ平民にされてしまった、と。まぁまぁまぁ。
そして頼る者もおらず、私の元に来られた、ということですの。そうですか……。
あの真実の愛のお相手はどうされましたの?
……なるほど、持ち出した僅かな財を持って逃げられてしまいましたの。それはお気の毒に。
それで、ガウスト様は私に何をお求めでしょうか?
真実の愛を邪魔する悪女として悪評を流し、公の場で婚約を破棄した相手であるこの私に?
…………ご実家への執り成し、ですか。無駄だと思いますわ? 今回の婚約破棄は私よりも両親が怒っておりまして、莫大な慰謝料の他にも、婚約を前提として動いていた計画をすべて白紙に戻し、それに伴う損害はあちらで保障するということで決まっておりますもの。えぇ、はい。婚約に伴う契約書でそうお約束していましたしね。それを一切妥協なく請求しておりました。
没落とまではいかないでしょうが……当面は非常に厳しい生活を強いられることになるかと。
公の場だったことから揉み消すことも出来ず、ガウスト様の評判も最悪になっておりますしね。なんの価値もないどころか、この苦境を招いた犯人をもう一度迎え入れるなんて、どこの家もするわけがないでしょう。
……私ともう一度婚約? 真実の愛を邪魔し、最愛の人を虐げる悪女にして極悪非道の人の心などない醜い女ともう一度婚約する、と? 誤解だった? そうですか、あちらが悪女でガウスト様は騙されてしまったんですね。だから間違いを正して、それで全て元通りにすればいい、と。なるほど、なるほどなるほど。
ふふ、ふふふふふふ! あはははははは!! ……寝言は寝ておっしゃってくださいませ。
婚約なんて出来るわけないでしょう。何の価値もない平民と、仮にも貴族の令嬢が婚約して何になります?
えぇ、元は嫡男でしたわね。それが何か? 廃嫡され籍を抜かれたと言ったのは貴方でしょう。今はただの平民、しかも無駄にプライドが高く、誰かの下で働くことなんて出来ないだろう使いようのないゴミ屑。それが貴方ですわ?
えぇはい、おっしゃる通り、私にも取り返しのつかない程の傷がつきました。これではまともな縁談は望めないでしょう。
でも私は一方的な被害者で、勘当もされておりませんの。両親は自分達の見る目がなかったせいで私を不幸にしてしまった、と大層嘆いておりまして、今回の慰謝料は私の好きにしていいと言ってくれてますのよ。私が死ぬか嫁ぐまで、という条件ですが鉱山の採掘権までいただいてしまったので、慎ましく生きれば老後まで不自由しませんわ。
後継者である兄も私にとても同情してくださっていて、もう結婚せずに領地で暮らせばいい、と言ってくれていますの。
わかりまして? 平民で稼ぐ手段もない、食べるものも手に入れられないのに無駄に高いプライドが邪魔して物乞いにすらなれない貴方とでは、到底釣り合いませんの。
……はぁ、確かに屋敷に迎え入れて世話をし、食事まで出しましたわね。それが?
呆れた。まだ私からの愛が残っているとお思いでしたの。それで私に縋りにきたと。
先程プライドが高いといったのは訂正しますわ。貴方が高いのは自尊心だけですのね。辛い生活を抜け出す為なら、手酷く捨てた元婚約者に縋りつくのも辞さない程、自分だけが大事なのですわね。
ふふ、でも、本当に、貴方は私のことなど何一つ理解していなかったのですね……。私が貴方への愛からそんな施しをする優しい人間だと思いまして? まぁ思っていたからこそ来られたんでしょうけど。迂闊だこと。
…………あぁ、効いてきました?
ご安心くださいな。ただの痺れ薬です。体、動かないでしょう? 喋ることも無理みたいですね。よかった、喚かれたら聞き苦しいですもの。
警戒されたらどうしようかと思いましたが、貴方はやっぱり疑いなく口にしましたわね。自分が裏切り、傷つけ、捨てた女の差し出した食事だというのに。何も考えずに。ふふ、ふふふ!
…………私、本当に貴方を愛していたのです。
ご存知だったでしょうね。隠しておりませんでしたもの。だから堂々と浮気をして、私の悪評まで広められたのでしょう? それでも私が縋るとわかっていたから。でも調子に乗って婚約破棄まで口にされたのは悪手でしたわねぇ。
知ってます? 好きの反対は嫌いではなく無関心なんですって。恋が冷めてしまえば、どうでもいい人に成り下がってしまうのですって。
でも私、こう思いますの。愛と憎しみは、とても近しいところにあるんじゃないかって。
好きだからこそ、愛していたからこそ、憎しみもそれだけ深くなるのです。元の気持ちが大きければ大きいほど、それが変じたものも大きくなる。道理ですわね。
……ここまで言えばわかりますか? 私の愛は、捨てられ踏みにじられ襤褸切れにされた私の恋心は……すべて憎しみへと変わってしまいましたの。
今まで心を温めてくれた優しい恋は、自身をも燃え上がらせるような激しい憎しみに成り果てたのです。
さて、少しは自分の状況を理解いただけまして? 貴方は今、自分を誰より憎む女の手に堕ちたということを。
廃嫡の後家を追い出されたでしょう? あれ、私が望んだことですのよ。
両親は格下の相手に馬鹿にされたことに怒り狂っておりまして、本当は貴方のご実家を潰す気でしたの。流石にそれはやりすぎだからと言って、貴方に責任をとっていただく形に誘導しました。
そちらのご両親は何もご存知ありませんでしたから本当にお気の毒でしたわ。お顔色なんて、白を通り越して土気色でしたもの。無理もありませんわね。格上の令嬢を嫁に貰えるところでしたのに、自分の息子がそれを駄目にして、更に相手に消えない傷までつけ、貴族令嬢としての輝かしい未来を完全に潰したんですもの。
貴方を放逐し、今後一切関わりを持たず援助もしないという条件を飲んでくれるなら両親に取り成すと言った時なんて、泣いて喜んでくださいましたわ。
だから助けが来るなんて甘い幻想は捨ててくださいませね? 条件を破ったら今度こそ家が潰れるんですもの。それでも貴方を助けようとするはずないでしょう?
そうそう、真実の愛のお相手も来ませんわよ? 小金を持った可愛らしい若い女が庇護もなく無事でいられると思いまして? あぁ、私は直接何もしていません。助けもしませんでしたが。
あれだけ男が好きな方だったのですもの。相手は選べませんが、大勢の男性とお話する職業は、ふふ、天職だと思いませんか?
私はこれから幼い頃から仕えてくれている気心のしれた使用人だけを連れ、領地に籠ることに致しました。
きっとそのまま忘れられた存在になるのでしょうね。兄の結婚式にも呼んでもらえるかどうか……。義姉になる予定だった方とは良好な関係を築いていたつもりでしたが、こうなってしまえば家の恥ですもの。遠目でも見れたらいいですわね。
あら、少しは反省して……いませんわね。貴方のせいで私の未来は閉ざされたというお話なのですけれど? 兄の晴れ舞台も見れず、将来できるであろう甥や姪と会えるかもわからない立場になってしまったという恨み言なのですが、ご自分には関係ないと思われてそうですわね。
はぁ…………そんなことより、これから自分がどうなるか気になっているご様子で。
よろしいでしょう。教えて差し上げますわ。
貴方はこれから領地に籠る私の無聊を慰める玩具になるのです。
まだ状況がわからないようですわね?
私はこれから私の味方である使用人達だけを連れ、与えられた小さな屋敷で一生を過ごします。そう、婚約を破棄され未来が閉ざされた私の為に、私と同じように怒ってくれる者達だけで。
そこに元凶となる貴方が居たら……どうなると思います?
ふふ、少しは理解いただけたようで何よりですわ。
私本当に傷ついたのです。同じように貴方も傷つかないのは理不尽だと思いませんか?
……泣いても何も変わりませんわ。泣き縋る私に、貴方も見苦しいとしかおっしゃらなかったでしょう?
あぁでも……少しは慰めになるものですね。
貴方の歪んだ顔を見るとほんの少し心が晴れる気がいたします。これなら退屈せずに済みそうでよかったですわ。
これから時間は持て余す程にありますもの。
ガウスト様も、野垂れ死ぬよりはよろしいでしょう? 住むところはあるし、使用人の物とはいえ着る物もご用意しましたし、薬が盛られるかもしれないとはいえ食べ物まである……。
市井で暮らすよりよほどましですわね。
何の役にも立たない貴方に、私の玩具という役目をあげるんです。精々励んでくださいませ。
誰か、連れていってちょうだい。あぁ、暴れないように薬は切らさないでね? 行く当てもないのに逃げ出す程、愚かでしょうから。
…………ふぅ。
あら、ありがとう。マーサのお茶はいつも美味しいわね。優しい味で大好きよ。
ねぇマーサ。私ね……、ガウスト様がどうするか全部わかったの。
ガウスト様は家を追い出されたらあの女と合流するでしょうけど、あの女は権力も財力も無くしたガウスト様を切り捨てるだろうから、困ったガウスト様は私に縋りに来るだろうって。全部、わかってしまったのよ。
だから、もしうちに来るようなら迎え入れて私を呼ぶように言っておいたの。憎いあの男を好きにしてやろうと思って。実際、あの方の歪んだ顔を見たらちょっとだけ気が晴れたわ。それも本当なの。
あぁでも、わかってしまったの。わかってしまったのよ。
全部憎しみになってしまったはずなのに……ガウスト様が何を考えているかまで、手に取るようにわかったわ。
どうすれば期待を持つか、どうすれば嫌がるか、全部わかるの。
どうしてかしらね。ガウスト様は私のことなんて何一つわかっていなかったのに。
でも、憎いのよ、本当に憎いの。何よりも憎いの。
私の恋心を知っていて裏切るのを選んだガウスト様が憎い。私が悲しむのを見て優越感を感じていたガウスト様が憎い。それでも自分を慕う私を見て嘲笑っていたガウスト様が憎い。
……あの女を選んだ、ガウスト様が憎い。婚約破棄されてしまった自分が憎いの。憎くて憎くくてどうしようもないの。
それなのに、それなのに! ……私ね、ガウスト様のことばかり思い出してしまうの。
笑うとね、目元がくしゃってなるのよ。些細なことでも笑ってくれて、私といると楽しいって言ってくれたの。
読書が趣味だって言ったら、お手紙に押し花の栞をつけてくれるようになったのよ。本を読んでいる時も、僕のことを思い出してほしいからって。勿体なくて使えなくて、今でも宝箱にすべて入っているわ。
マーサは知ってた? ガウスト様は、苦いお茶が苦手なの。飲むと少し口をすぼめて、慌ててお茶菓子を食べるのよ。だから私、本当は苦いお茶も好きなのだけど、いつも別のを用意してもらっていたわ。
……そんな些細なことばっかり、思い出すの。
ねぇ、新たな恋に向かうこともなく、復讐を選んだ私を馬鹿だと思う?
……やっぱり、マーサはそう言ってくれるわよね。
物語の主人公ならきっときちんと復讐して終わらせて、次の恋に向かうのでしょうね。そんな強さを持っている素敵な人達ばかりだもの。
でも私には無理だわ。弱いもの。この憎しみさえなくなったら、きっと何も残らない。
お父様もお母様も、お兄様も、私のこの弱さを知っているから、もう政略の駒としても使えないと判断されたのでしょうね。だから領地に押し込めることにしたのでしょう。
……大丈夫、わかっているわ。私はちゃんと家族に愛されているものね。うん、マーサも、付いてきてくれる皆にもね。本当に私は恵まれてるといつも感謝してるもの。
貴族としての判断と、家族としての憐れみと、どちらもあるのもわかっているわ。だからこそ、ガウスト様を連れて行くのを許してくれたのだものね。
………………ねぇマーサ。マーサにお願いがあるの。
もし私がガウスト様に絆されそうになったらきちんと叱ってね? マーサにしか頼めないの。どうしようもないと思ったら私になにも言わずお父様やお兄様に相談してもいいわ。お願いよ。
……えへへ、ありがとう。ごめんねマーサ。大好きよ。
あーぁ。幸せな花嫁さんに、なりたかったなぁ。
令嬢
将来の夢は可愛いお嫁さん。
高位貴族に産まれたが、気性が優しすぎて王族や高位貴族の嫁としてはやっていけないと判断され、下位貴族に嫁がされることに決まった。
心優しく愛らしい子だったので家族や使用人には愛されている。
一目惚れしたガウストが寄子貴族の嫡子だったので、領地経営も問題なく、面倒な親戚がいないことを確認して婚約が結ばれた。
婚約破棄された後は釣り合うフリーな相手もいない為、せめて領地で健やかに過ごして欲しいと願われている。
その心が慰められるなら玩具の一つや二つ好きにすればいい、どうせもう価値のないものだし。
ガウスト
格上の令嬢に見初められたことで調子にのってしまった。
心優しく美しい婚約者が自慢だったが、釣り合わないと影で言われているのも知っていた。
虐げることで自分が上だと示すうちに、本当に自分の方が上で、こんなつまらない女と結婚しなきゃいけないのは不幸だと思い込んでしまった。
令嬢は結局優しいのでそんなに酷いことはできないが、お嬢様第一主義の使用人しかいないのでそちらの方がやばい。
浮気相手
娘が不自由しないように、と色々優遇されて裕福になっていたガウストに目を付け、籠絡した。
最初は婚約破棄させる気はなくて、ずっと甘い汁だけ吸う予定が、令嬢が何もしないのでつい調子にのってしまった。
令嬢は男と楽しくお話して遊ぶ店に行ったとしか聞いてないが、まぁどういう店で生涯過ごすのかはおして知るべし。
マーサ
令嬢の乳母。
お嬢様が小さい頃からずっと成長を見守っていた。心優しいお嬢様のことを自分の子どものように可愛がっている。
だから、虐げられて泣くお嬢様のこともずっと見てきた。
お嬢様以上にブチ切れてるので、ガウストがまた調子にのったらすぐに始末される。
というか令嬢の気が済んだら始末するように言われているのでその日を指折り数えて待っている。




