プロローグ
『ヴォー、ヴォー』
既にボロボロとなった町で人の呻き声のような不快な声が響き渡る。既にこの町は廃墟と化していた。
遡ること一週間前に事件は起きた。突如世界中に謎のウイルスが蔓延し、突然生物や人が倒れ始めて世界中がパニックとなった。原因も不明で突如人が暴れ始めたことによって世界に混乱を招き騒然としていた。
気がつけばゾンビと呼ばれる謎の生物が世界中至る所に蔓延って人はゾンビに恐れながら生きていた。
ゾンビは人を襲い、襲った人までゾンビにしてしまうその様子はまさに災害。その為、町は混乱状態。ネットも繋がらず、国の機関も一切機能しない世紀末状態だった。
この世界にもはや安全な場所などどこにもなく人々はゾンビに恐れてこっそりと生活する日々だった。
しかしそんな中、一人の少女は何かを求めてこのゾンビだらけの町を今日も歩いていた。
「はあ、やっぱりここもダメか。この町もほとんどがやられてるなあ。」
少女は一人で呟きながら死体だらけの町を徘徊していた。どうやらここも既にゾンビに襲われていたようだ。死体は真っ青で冷えており、既に時間が経っている事が分かる。そんなもはや当たり前となった光景を見て少女は大きなため息を吐いた。
「うーん、ここらにも食料はないみたいだしやっぱり簡単には行かないよね。それとそろそろ車も探さなきゃだし。」
彼女は一応周りのゾンビをバールで駆除して、次の目的地へと向かった。ゾンビは体が非常に脆く意外と倒すだけなら難しくはない。彼女はこのようにゾンビを倒し続けてこの町を彷徨っていた。
彼女の名前は水瀬このか、島根県松江市に住む普通の大学一年生だ。文武両道、才色兼備、周りからは島根県が産んだ宝物とすら呼ばれている。
このかは高校卒業後に大学に入り、一人暮らしでバイトをしながらの学校生活を送っていた。親が嫌いだったこのかは一人の暮らしが毎日幸せだった。
付き合っている人はいないがこのかはモテモテでみんなから愛されていた。そんな風に特に不自由のない普通の生活を送っていたのだが一週間前の出来事によって全てが変わってしまった。
「んー、今日もよく寝たな。ってなにこの匂い?」
このかはいつものように朝早く目覚めるとすぐに異変を感じる。外から腐臭の匂いがしてなんだか騒がしい。気になったこのかは窓の外を見て信じられない光景を目の当たりにした。
「げっ、なにこの匂い。どうしてこんなのことに?」
このかが家の扉を開くとそこにはたくさんの住民の死体が散らばっており、苦しそうに倒れていた。腐臭の正体が人の死体だったなんて。
「おえっ、誰がこんな酷いことを。とりあえず早く警察を呼ばないと。」
このかは見慣れない死体を見て吐きそうになる。普段よく会話をしたりする身近な人の死は辛い。どうしてこうなった?一体誰が原因なのか。このかにはそれも全て分からなかった。
このかはスマホを開いて警察を呼ぼうとするが電波が繋がらず圏外と表示されていた。このかは今の状況に動揺しつつもとりあえず自分のできることをすることにした。
「とりあえず手当てからするべきだよね。誰か他に人は。ってオーナーさんだ。」
このかがどうすればいいか分からずに戸惑っているとこのか以外に一人だけ彷徨っている人物がいた。それはこのかが住むアパートのオーナーだった。しかしそのオーナーもなんだか様子がおかしい。
顔色が悪く、声もおかしかった。呻き声を発しており、目も焦点があっていない。このかは不審に思いつつもオーナーさんに声をかける。
「オーナーさん、突然皆さんが倒れていたんです。何か知りませんか?」
「ヴァ?ヴォォー。」
「オーナーさん?そんな声を出してどうされたんですか?ってやめてください!」
このかがオーナーに声をかけると同時にオーナーはとてつもない勢いでこのかに襲いかかる。その力はとてつもなく強くオーナーの表情とこの惨状を見てこのかは全てを理解した。
このかはオーナーに蹴りを入れて急いで安全な場所に向かった。
「もしかしてこの世界って。嘘でしょそんなことあるの。」
おそらくこの世界は既に何かによって普通ではなくなっていた。このかは震えながらもなんとか体を動かす。
このかはオーナーから逃げながら当たりを見渡す。するとこのかのアパート以外にもたくさんの人がおり、オーナーの様な人が複数人いた。他の人はこのかを見つけると獲物を喰らう顔で襲いかかってくる。
『ヴォー、ヴォー』
「まずいこのままじゃ。どこか逃げる場所は。」
このかは急いでどこかへ逃げようとするが既に逃げ場所は塞がれていた。このままでは間違いなく捕まってしまう。しかし武器もなにも持っていないこのかにはもはやできることはなかった。
『パンッ。』
そんな絶望の中、このかが目を瞑って祈っていると突然発泡の音がして目の前の人たちが全て死んでいた。突然の出来事にこのかは理解が出来なかった。
「大丈夫?怪我とかなかった?怪我すると大分まずいからこっち来てよ。」
「えっと、助けてくださりありがとうございます。この世界は今どうなっているんですか?」
そこには青髪のさっぱりとした髪型の女性が笑っていた。右手には銃を持っており、とても人を殺した後とは思えない表情をしていた。
お姉さんはこのかの手や肌を確認して笑っていた。どうやらこのお姉さんは変わってしまったこの世界のことを知っている様だった。
「君、今の状況が理解できてないでしょ?アタシが教えてあげるからそこ座って。」
お姉さんにそう言われてこのかは隣に座るとそのまま今の状況を全て教えてもらう。この世界は既に謎のウイルスによって侵食されていること。ゾンビと呼ばれる生き物がこの世界にウジャウジャといること。そしてそのゾンビの菌で感染するリスクがあるということも。
「つまり、私たちはもう終わりってことですか?」
ゾンビに襲われたら終わりで感染するリスクもある。どう転んでも人類の滅亡は避けられない様に感じる。周りを見渡しても既にかなり残酷なことになっていた。
「そっ、アタシたちは間違いなくいつか死ぬ。食材もいつか尽きるし何よりいつアタシたちが感染するかも分からないからね。」
そう言って気軽に笑うお姉さんに対してこのかは笑えなかった。まだ生きたい。もっと学校生活を楽しみたい。何よりまた高校の時のみんなと会いたかった。
「そんな、なんでこんなことに。こんなのおかしいですよ!」
このかは大きな声で虚しく叫んだ。夢だと思って頬をつねったが痛みも感じる。もう、何がなんだか分からなかった。
本当はもうどうやっても無理だということは分かっている。でも何も信じたくなかった。こんな救いのない最後は嫌だった。
「本当になんでこんなことになったかアタシも分からないよ。本当に残念だ。」
お姉さんは話を終えて立ち上がるとそのままこのかに笑いかける。
「とりあえず、アタシはもう行くよ。まあ、残された人生を楽しむことだ。悔いだけはない様に生きなよ。」
このかを助けたお姉さんはそう言って優しく微笑むとそのままどこかへと向かって行った。
このかはお姉さんが残していったバールを握った。辛さも悲しみも全て消えはしない。ただそれでも今持てる全ての力でバールを握りしめていた。
「悔いだけは残らない様にか。確かにその通りだよね。」
このかにとってしたいことは一つしかなかった。それは高校の頃のみんなと再会することそれだけだった。
そして一週間後の今に戻る。
このかは死体だらけの避難所の中から食料と水だけを取った。
「はあ、食材はかなり集まったとはいえまだ旅に出れるほどじゃないよね。とりあえず先に車でも取りに行こうかな。」
このかは大きなあくびをして工場の方へと向かうことにした。
このかはこの短い世界で自分のやりたいことを全てやると決めた。このかは残された僅かな時間で旅に出ることにした。目的はただ一つ、高校の時の親友に会いに行くことだ。
このかにはたくさんの友達がいたが中でも高校の時のみんなが大好きでまた会いたかった。それぞれいろんな地方に上京してずっと会えなかったが死ぬまでにみんなと再会したかった。
就職や進学、色々な道に進んでからまた次に会う日をずっと楽しみにしていた。高校のからお互いに夢を応援して助け合った大好きな親友たち。
だからこのかはたくさんの食材と車を手に入れて旅をすることにした。どうせ終わる世界なら旅をするのも悪くない。世界が終わるまでみんなと旅をしながら思い出を作る。それがこのかにとって一番のやりたいことだった。
このかの親友は五人おり、今から旅をして広島、岡山、大阪、北海道まで行かないといけない。決して楽な旅ではないのも分かっているがそれでもこのかはみんなに会うと決めた。
「待っててね、みんな。すぐ会いに行くから。」
このかは一人で呟きながら最初の目的地である工場へと向かうのだった。




