15.5 お姉様は綺麗。
お姉様が侍女になってから、気づけば数ヶ月と時が過ぎていた。
最初の頃はなかなかお姉様との時間が無くて、正直とても寂しかった。
けれど私が以前、この物語の事を思い出す。
ネメシアは、何事に対しても覚えるのが早い―――そんな設定だったはずだ。
他の侍女達が、必要以上に仕事を増やしていたせいもあるかもしれない。
けれど、そのおかげ少しずつ、お姉様との時間が増えていった。
それに私が気づくのは少し遅かったけれど、お姉様のことだから仕事を押しつけられてる、なんて思っていないでしょう。
お姉様が気づかないのをいいことに、好き放題やっているようで。
まぁ…その分、私が気づいた人たちには、きちんと仕事振らせていただきましたけど。
その時の、侍女の嫌そうな顔を思い出して、私は小さく笑ってしまった。
……それにしても。
「ルミナ?」
目の前のお姉様は、薄氷のように淡く波がかった長い髪に、目を奪われるほど澄んだ赤い瞳をしている。
そして、思わず見惚れてしまうほどの美貌。
(こんなにも眩しいだなんて…)
いつも長い髪を結び、前髪で表情を隠しているから。
今のこの時間でしか、私は本当のお姉様の顔を知らない。
「お姉様が綺麗すぎて、見惚れてしまったの」
私がそう言うと、お姉様は少し頬を赤らめそっぽ向く。
お姉様のカップの持ち方を見て、私はふと物語の内容を思い出した。
物語のネメシアは、教養に関しては何でも自分で身につけていた。
学園でも、成績は常に上位。
けれど、マナーだけは、どうにもできなかった。
それも当然だ。
父から家庭教師をつけられることなく、誰かに正しく教わる機会がなかったのだから。
この後のデビュタントで、お姉様は恥をかいてしまう。
―――そんな物語。
だからこそ私は、お父様からずっと言われ続けていたことを、今やろうと思った。
この物語を変えるために。
「ねぇ、お姉様」
手に持っていたカップを、そっとテーブルに置く。
小さな音が、部屋に静かに響いた。
「マナーや算術といった勉強はどう思う?」
そう言うと、お姉様は一瞬きょとんとした顔をしてから、すぐに穏やかに笑った。
「公爵令嬢なら必要なことよ」
「……そうよね。やっぱり必要よね!」
私の返答に、お姉様はどこか腑に落ちないという顔をしている。
"公爵令嬢"なら必要。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かがかちりと噛み合った。
「…ふふふ」
お姉様を下に見ている人たちの顔を思い浮かべると、一泡吹かせてあげられると思えて、笑いがこみ上げてきた。
「どうしたの?」
「お姉様にはまだ秘密」
そう。今はまだ、秘密。
でも、そのうちに驚かせてあげるね。
私はそう思いながら、もう一口紅茶を飲んだ。




