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悪役令嬢の願い  作者: なむそ


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16/43

15.お茶会は初めて。



あれから数ヶ月と経ち、忙しい日々も少しは慣れてきた。


「ネメシア、この仕事は?」

「すでに終わってます」


返事をしてから、

―――あぁ、もう終わっていたんだ、と自分で気づく。


「ネメシア、次これを…」

「そちらも完了してます」


考えるより先に、体が動くようになっていた。

自覚した瞬間、胸の奥が少しだけくすぐったくなった。


「ネメシア様」


次の仕事に向かおうとしたとき、後ろから声がかかった。

振り返ると、お手本になるようないつもの背筋でクロードが立っていた。


「何でしょうか?」


クロードは、仕事を与えるような素振りを見せない。

しかし、私をまっすぐに見つめている。


「…手が早くなりましたね」


クロードはそれだけ言って、振り返り歩き出した。

私は、その背中をしばらく見送っていた。


「…ネメシア?」


その声に、私ははっと我に返った。

声のする方へ向くと、そこにはルミナがいた。


「…失礼いたしました。ルミナ様、いかがなさいましたか?」


そう問いかけると、ルミナは少しだけ迷うように視線を揺らす。


「今、時間ある?」


その問いに、私は一瞬だけ考える。

与えられている仕事はすでに片付いている。


「はい。少しでしたら」


そう答えると、ルミナはほっとしたように表情を緩めた。


「じゃあ…私の部屋、来てほしいな」


私は一歩下がり、軽く頭を下げる。


「承知しました」


そうして私は、ルミナの少し後ろを歩きながら彼女の部屋へと向かった。



ルミナの部屋へ入ると、いつもより少しだけ空気が違っていた。

机の上には紅茶とケーキ、クッキーといった菓子が並んでいたのだ。

そしてベッドの上には、見慣れない一着のドレス。


「ルミナ様……これは?」


思わずそう口にすると、ルミナはにこりと笑った。


「お姉様に、着てほしいの」

「私に、ですか?」


驚きで固まる私をよそに、ルミナは楽しそうに頷く。


「だって、今日は"お茶会"だもの。それに…ちゃんとした服を着たお姉様、見てみたかったの」


冗談とも本気ともつかない言い方。

けれど、その瞳は期待で輝いていた。


「ですが、私は侍女で…」

「大丈夫!ここには私しかいないよ」


確かに、この部屋には私たちしかいない。


「お願い」


そう言うルミナは、私の手を包み込んだ。

…私はルミナに甘いのかもしれない。


「少しだけ、でしたら…」


私がそう答えると、ルミナはぱっと花が咲くように笑った。



――――――


ドレスに着替え終え、髪はルミナが整えてくれた。

そんな私を見て、ルミナは一瞬、言葉を失った。


「…似合ってる」


その声は、いつもより少し小さい。

目の前の鏡に映る私は、いつもと違っていた。

侍女服ではなく、柔らかな色合いと綺麗な刺繍の入ったドレス。

まるで、私ではない誰かになったようだった。


「ねぇ、お姉様。この時間は"姉妹"でいよう?」


そう言って、ルミナは椅子を勧める。


「…わかりました」


二人きりのお茶会。

ぎこちないけれど、どこか温かい時間が、静かに始まった。


「…このケーキ、美味しい?」


ルミナが少しだけ身を乗り出して聞いてくる。

まるで、感想を待つ子どものように。


「はい。甘すぎなくて…紅茶に合います。さすが、ルミナ様」


そう言うと、ルミナは不機嫌そうに頬を膨らます。

褒められたはずなのに、どこか気に入らないようで。

…何か、いけないことでも言ったかしら?


「……ミナ…」


小さく、呼びかけるような声。聞き取れず、思わず聞き返してしまう。


「…え?」

「…私のことはルミナと呼んで。あと……二人きりの時は、敬語いらない…」


語尾が、ほんの少しだけ揺れていた。


「……」


私は一瞬、言葉に詰まった。

しかし、目の前の彼女はただ静かに待っている。

強くも、急かすでもなく。


「……ルミナ」


口に出した瞬間、胸の奥が少しだけくすぐったくなった。


「…うん!」


ルミナは、弾むような声でそう答えた。


「それでいいの!…二人の時だけ、ね」


そう言って、人差し指を口元に置く。まるで、二人だけの秘密のように―――。




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